BLUE ROSE 2

□43. 7月 関東大会
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試合が続行するか否か。
未だ決められない騒然としたコート周り。
青学サイドは慌ただしかった。



「そういえば、名前ちゃんさっき手塚くん言うたけど、手塚と面識でもあるん?」

「!」


鋭い質問を忍足からされて、名前はドキリとした。
名前が手塚と親しくしていた事を知る者は、跡部と宍戸のみだ。

テニス部の士気に関わることなので、他の人には一切話していない。



「いや…余りにも凄い状況だったのでつい容態を聞きに来ちゃって…」

「へぇ」

「そうですよね!俺もビックリしちゃいました!だってあの手塚さんですから」


忍足にはどこか感づかれた目線が痛いが、純粋無垢な鳳は名前の言葉丸々信じたようだった。

ひとまず場が落ち着いたことに、事情を知る宍戸も隠れてホッと息を吐いた。




「おい侑士、手塚が…」


そうこうしている間、向日がコートを指差した。



「うそ、手塚くん…」


名前は目を見開いた。
手塚がコートへ戻ったのだ。
あれほど痛そうに肩をおさえていたというのに。

あれほどの苦痛の表情を浮かべたのだ。本来ならは試合を続行するなんて考えられない。

コートで向き合う二人を見て、名前の鼓動は速くなる。




「待たせたな跡部。決着をつけようぜ」













掲げられた二人の握手を見て、拍手をした。

壮絶なる長いタイブレークを終え、試合に決着がついた。

結果は跡部の勝ち。
勝ちと言っても、本当に僅差だった。

手塚は肩を負傷したままだったというのに。


跡部がコートから引き上げてきた。
汗が滴り落ちている。


名前がベンチエリアに居ることに気づかず、跡部はタオルをもらって腰掛けた。
息が荒い。



「…私、上に戻ってますね」

「え、ここに残ってればいいだろ」


宍戸が名前を止めるが、名前は首を横に振った。



「静かに次の試合観てます」


名前は真木山を連れて、ベンチエリアから立ち去った。


次の試合、跡部が手塚に勝ったからこそ繋げた試合。
その試合で全てが決まる。

ここまでは氷帝と青学は五分五分だ。
2年生の日吉対、1年生の越前。

後のテニス部を背負う対決となった。


フェンス前に観戦場所を移動すると、これから試合をする二人がコートで握手を交わしていた。



(日吉くん…勝って…!)


名前は手を組んで祈る様に試合を観た。

ここまで繋げてくれた跡部の為にも。
またこの先も大会を勝ち進んでいく為にも。

部外者だが、名前はその試合を祈った。
彼らの笑顔が見たくて。













それでもやはり、世の中は思い通りにいかないものだ。
こうあって欲しいと願えば願うほど、手のひらからすり抜けていく。





「…惜しかったですね」


コートからひと足先に離れた名前と真木山は、静かに会話をしながら駐車場へ歩いた。



「景吾さんの大会、これで終わりってことなんですね…」

「そういう事になりますね」

「…そっか」



初めて試合をしっかり観たわけだが、思っていたものよりも何倍も激しくて何倍も白熱して、そして感動した。
これが跡部が全力を込めて愛しているテニス。

跡部のことを分かっているようで、分かっていなかった。

あの世界に、自分が入る隙はない。



「あの少年、手塚さんは大丈夫でしょうか」


真木山が手塚の肩を案じた。
あれほどのダメージを負いながら最後まで試合をした姿に、真木山も心を打たれたようだった。



「分かりません。それは本人に聞かなければ」

「連絡取らないのですか?」

「い、今はもう取りませんよ。真木山さんもこのことご存知でしょ?」


名前は急いで否定をした。
いくら容態を知りたくても、名前からはとてももう手塚に連絡を取れない。



「手塚くんはきっと大丈夫です。だって氷帝に勝った青学の部長ですもの。ここで終わるわけないです」

「そうですね。青学が勝ち進んで貰わないと気が晴れませんね」

「全くです」

「はは」



名前たちは今日の出来事を話しながら、炎天下に置き続けた車にやっと乗りこんだ。
早急に真木山がエンジンをかけると、高級車ゆえのクーラーの効きの良さに、にじませた汗がおさまっていく。


あとは家に帰るだけで、真木山はすぐ近くの高速道路に車を走らせた。
幸いまだ高速は混んでいない。


ある程度車を走らせていると、名前の携帯に着信があることに気がついた。
画面を見れば跡部からだ。

試合が終わってまださほど時間は経っていない。



「…もしもし」

『俺だ。今どこに居る』

「え、今ですか?」


早くに会場を出た名前は屋敷へ帰っている最中だ。
真木山が運転する車内からは、同じく高速を走る車が見える。


だが今日は本来、名前は家で寝ていなければいけない身分だ。
まさかこの炎天下、試合を観に行っていたなんて言えない。



「…家で寝てますよ」

『嘘つけ。お前俺様の試合を観てたらしいじゃねーか。忍足たちから聞いたぜ』

「う…」


そりゃそうだ。
レギュラーエリアに手塚の容態を聞きに行った時点で、名前が会場に来ていたことはバレるに決まっている。



『だから今どこに居るんだ。もう屋敷に帰ったか?』

「いえ、今帰宅の最中です。高速に乗ってて」

『そうか。その脚でそのまま横浜に来い』

「え?」


思わぬ誘いに驚いた声を上げた。
バックミラー越しに真木山と目が合う。



「今からですか?」

『当たり前だろ。集合場所は…』


有無を言わせない進行に、名前は必死で跡部の言う集合場所を覚えた。
横浜なんて行ったことがないので、集合場所を言われても正直ピンと来ない。


通話は終わり、名前は運転する真木山に言った。



「真木山さん、行き先を変えてほしいんですけど」

「聞いて大体分かりましたよ。横浜ですね」


理解の早い真木山は次のインターチェンジで横浜行きに乗り換えた。


試合が終わったばかりだというのに、横浜で一体何をするのだろうか。
まだ夕方前なので陽は高い。




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