君のいる世界廻る星

□ふたりぼっち
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人混みを掻き分けながら、カンナは目立つ緑の髪と帽子を探した。


彼女の行く手を遮る人々みな笑顔で、新しい年を迎えるための催しで凍り付くような寒さの中飲んだり歌ったりと騒がしい。



ふと吹き付けた木枯らしに、カンナは身震いして、

なんとなく空を見上げた。




「雪、降りそうです・・・」











視界が揺れる。



スパーダは強い痛みに顔を歪めながら、倒れるように壁に背をつけた。

両足に力が入らず、地面に吸い寄せられるように座り込み、深いため息を付く。


「うっ・・・」


その拍子にズキリと胸が痛む。
先の喧嘩で負った傷だ。


周りを見ると路地裏に血だるまで突っ伏した男達。
数は10人程で、意識がない。


強姦、というやつだろうか。狭く暗い路地裏で数人の女性が男達に囲まれているのを見かけた。


胸糞悪りぃ奴らだ。


いつものようにぶっ飛ばしてやろうと喧嘩を吹っ掛けたのは良いが、予想外の数に押され、やっとの事で片付けた所だ。

助けた女性達はいつの間にかどこかへ消えて、スパーダは1人路地裏に残されていた。

凍り付くような寒さの中、身体中は傷だらけでろくに動けない。


しかも今日は年越しだか新年だかで通りはお祭り騒ぎ。
その賑やかさは流石王都、戦争など感じさせない煌びやかさで。

遠くから聞こえる笑い声や軽快な音楽に、スパーダは小さく笑った。

「なんつー年越しだよ」



寂しく一人で呟き、目を閉じる。


本当なら、今頃、あいつが隣にいた。

笑っていたのかな、


とにかく、こんなに辛くはなかったろ。






頬に、冷たい結晶が落ちて、溶けた。


雪だ、


そう思い開いた瞳に映ったのは、今にも泣きそうな顔で見下ろすカンナ。



「カンナ!?何で「スパーダ、」


呆気にとられ、こぼれた間抜けな声に、彼女の怒ったような

けれど何処か安心したような声が重なる。


「馬鹿じゃ、ないんですか・・・馬鹿なんですよ・・・あなたは・・・」


カンナはしゃがみ込んで、
力無く、地面に放り出されたスパーダの手を握った。


「馬鹿はお前だろ、何で来た、
今頃屋敷でパーティーなんじゃないのかよ」



そもそもスパーダが一人きりで街をふらついていた理由はベルフォルマ家毎年恒例の年末パーティーにあった。

カンナが嫌がるスパーダを無理矢理参加させようとした為、喧嘩に発展し、スパーダが屋敷を飛び出したのだ。



「あなたみたいな人、放っておいたら何するかわからないじゃないですか・・・」


「お前には、関係ないだろ、」



目を合わさずにそう言って黙った。


カンナは何かを言おうとして口を開いたが、何故か踏みとどまってそのまま閉じた。

そのまま小さなカバンから、消毒液と、包帯と、塗り薬とを出して、黙って手当てを始める。


傷だらけの手。


この手で、何を守って、

何を傷付けて来たのだろう。



カンナは何となく感じていた。


感謝こそあれど、今日のような無茶を心配したり

傷付いた姿を見て、心苦しく思ったり


彼の存在が只の雇い主や恩人といったものから

もっと大切で心配な存在へ変わっている事を。


酷い傷を見て、堪えていた涙が落ちた。


「おい・・・お前、どうしたんだよ、何で泣いてるんだよ・・・・?」


ふてくされていたスパーダがカンナの涙に気付いて、痛む体を無理矢理起こした。

「俺がパーティー出なかったから、執事長に怒られたか?俺を連れてくるまで帰ってくるなとか言われた??」


思わず、目を見開いたまま唖然としてしまった。

この人は、自分がボロボロになって苦しい時まで、どうして他人の事を


自分の事を




「なぁ?違うのか?何とか言えよ、泣き止めって・・・・こんな日くらいお前だけでも、笑っててくれよ・・・」


その言葉に、もっともっと涙が溢れた。

それをどうにか隠したくて、そっと額をスパーダの肩につける。


「あなた、馬鹿ですよ・・・。
これでも自分・・・死ぬほど心配したんです・・・

路地裏で、ボロボロのあなたを見つけた時
心臓が止まるかと思った・・・」


スパーダは一瞬目を見開いて、次に俯くと小さくごめんと呟いた。





人生を変える出会いというものが有るのだと思う。


たった一人と出会っただけで

幸せにも、不幸にもなる出会いというものが。





あなたは道に迷った自分の目の前に現れて、
手を引いて、

連れ出してくれた。


でも、

明るみにでたとたん、

手を引くあなたの背中が
傷だらけだって事に気付けた。


自分が手を引くまではいけないけれど、

せめて隣を歩くくらいさせてはくれないだろうか




カンナは顔を上げた。

「独りぼっちの主人を放っておくほど、自分は薄情ではありません。スパーダが笑ってくれないと、自分、笑えないです。

だって・・・そうでしょ?」


スパーダが、物恋しそうにカンナを見た。


「独りぼっちなんかじゃ、ねぇよ」

「え?」


急に、首の後ろから包み込むように手を回され、引っ張られる。

あまりに急で、キスをされてしまうのかと思って目をぎゅっと瞑ったが

特に何も変わったような事はないのでそっと瞼を上げる。


真っ直ぐ見据えてくるスパーダの瞳と目が合うと、スパーダはくしゃっと笑う。

乱暴に頭をぐしゃぐしゃに撫でられて、抵抗しようと手を伸ばすと、
それをスパーダの傷だらけの手に掴まれ阻止されてしまった。


「独りぼっちじゃねぇ。
お前が居てくれてんだろ?カンナ」



「そうです・・・ね、その通りです。自分が居ます。ちゃんと、此処に」




空っぽの心になるべく何かを詰め込みたくて、

笑い声が苦しくないように、


寂しい者同士で手を繋いで、笑った。









【ふたりぼっち】










*

あとがき


11月にいただいたリクエストでした。甘甘と言う事で書かせて頂いたのですが、ねぇ・・・これ甘くない・・・むしろなんか・・・辛くね?←

相当お待たせしてしまっているので見ていてくれているか分かりませんが、
本当にお待たせしてすみませんでした!!!!
しかも甘くないという!!
そして新年に年末の話!!!!!

すみませんしか出て来ない・・・
書き直し、苦情は本人様に限り絶賛受付中でございます!
本当にお待たせして申し訳ありませんでした
そしてリクエストありがとうございました!!!!!





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