君のいる世界廻る星

□No.23
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柔らかな日差しが、刺すような寒さの夜明けを照らした。


その直後、小さなくしゃみで目が覚める。


「さっむ!」

口から勝手に出て、身震いする。すると肩に寄りかかる何かがドサリと膝に落ちた。

その姿を見て、あ、そうか、昨日ここで寝ちゃったんだとぼやける記憶を辿る。

あの後、少し話して、そのままウトウトしたんだっけか。


スパーダの膝に落ちて眠るカンナに毛布をかけてから、頭を優しく撫でる。
すぅすぅと寝息を立てておとなしく眠った彼女を見て、こらえきれなくなったのか、急ににやりと顔が緩んだ。

誰もいないのに何故か口元を両手で隠すと、相変わらず緩み切った顔で、

「うわー俺まじキモい!まじキモい!」

とこぼした。

正直本当に気持ち悪いので、誰もいなくて幸いだ。



直後、苛ついた舌打ちが響く。



慌てて顔を整え振り向くと、テントから這い出たリカルドだった。
なんとも言えないウザそうな顔をしている。
何故かそれにつられてムカつくスパーダ。


「んだよオッサンかよ、朝早ぇな。」

「黙れ、普段の起床時間だ。」

そっけないリカルドは、直後小さく、寒っと呟き、テキパキともう燃え尽きてしまった焚き火に火を灯す。

その作業を続けながら、スパーダとは目を合わせずに言う。


「頭を冷やせとは言ったが、一晩中、この寒さの中起きてろとは言ってない。・・・ひとり、増えたしな」

寒さに、頬を赤くするカンナに視線が移動した。

「うっかりウトウトしちゃったんだよ。誰が好き好んでこんなとこで寝るか」

「そうか、」


リカルドはカバンから鍋を出し、それを火にかける。
その後もひとりで朝食の準備を進める。

やる事もないし、暖かいので、スパーダはカンナを猫みたいに撫でながらそれをぼんやり見ていた。


「お前は役にたたんな。カンナだったら、率先して手伝うんだが。」

「うっせー。俺は今こいつの枕で忙しいんだよ」

リカルドはフンとスカして作業を続けたが、しばらくして誰に言うでもなく独り言のようにつぶやく。


「・・・やっと安心して眠れたようだ」

そう言うリカルドの表情はやはり柔らかく、
考えは違えど彼女を想う気持ちは伝わって来る。

「そういや、最近寝てないとか言ってたな。顔色悪かったのもそのせいか」


スパーダは気持ちよさそうに眠るカンナへ視線を落とした。
すぅすぅと小さく寝息を立て、ちょっとやそっとじゃ起きそうにないくらい熟睡だ。


力、抜けたんだな。



「・・・どうやら、俺は余計なお節介だったか」

「え・・・・」


「もう、決めたのだろう?二人で」


共に生きる事を


リカルドが、片方の口角を少しだけ、上げた。

スパーダも笑って頷く。


「ああ」









幸せな気持ちだった。

安らかで穏やかで、不安も恐怖もなくて、

そのせいか不思議な夢を見た。



自分はふわふわ浮いていて、

空のてっぺんに輝く白い光の方へ、
のぼっていて


でも名前を呼ぶ声に振り返るとスパーダが、何かを、叫んでいて

あまりに悲しそうな顔だから、彼のもとへ戻ろうと下降して・・・


そこで、目が覚めた。



「よぉ、随分眠ってたな。」



目が覚めて一番はじめに視界に入ったスパーダの笑顔で

カンナも寝ぼけ眼を擦りながら照れて笑った。


「お・・・おはようございます」

何故か昨日の晩の出来事が脳を過って、頬がぽっと紅潮したカンナをスパーダが愛おしそうに撫でる。

直後、リカルドの咳払いが響き、まずったカンナが反射的に起き上がるとスパーダの顎に額が強打した。

「あだっ!!!!!」

痛みを我慢しながらスパーダから飛び遠ざかると、今度はイリアにぶつかった。

「カンナさん、あなた達がラーブラブしていらっしゃるのは此方としてもまぁ大歓迎なんですけどね。ホラ、喧嘩されるよりマシでしょ?でも・・・」


イリアの貼りつけられたような笑顔の向こう側に、その他一同の“白い目”と視線が合う。

「TPOをわきまえて頂きたいわぁーホント最近の若い子ってすぐ人前はばからずイチャイチャと」

恥ずかしさからさらに血がのぼり真っ赤に染まる顔をせめて隠そうと俯くと、スパーダに肩を引き寄せられる。

「うっせぇ、直ぐにルカに喧嘩吹っかけるお前より良いだろがよ!大体TPOって何だよお前知ってて使ってんの?」

「あ、それウチも思ったで、トマト、ポテト、おもちの略称??」


嬉しそうに手を上げるエルマーナにイリアをバツ悪そうに舌打ちすると、華麗にTPOの説明をルカにふる。

「TPOは時場所場合の頭文字だよ。TPOを意識して行動することが大人の礼儀の三ヵ条なんだ」

「で、具体的にどーすりゃその三ヵ条出来んだよルカちゃまよぉ」

「つまりこれから戦地に赴くというのに時場所場合無視して引っ付くなと言うことだ。
ベルフォルマはともかく、カンナ、お前は良く分かってるはずたろう・・・」


無駄に重々しく顔に深い影を作り言うリカルドのわきのアンジュが顔出す。

「まぁまぁ、何があってもリカルドさんが守って下さるでしょう?大丈夫、みんなで仲良く行きましょ」

「少なくともセレーナ、お前だけは命に代えても守ってやるから安心しろ」

「何よっあたし達の事も命がけで守りなさいよっ」

朝から元気に食い付いてくるイリアにリカルドが手のひらをだす。

「何、お前も見合うだけの金をくれてみろ、全力で守ろう」

その後悪態つくイリアにリカルドは勝ち誇ったように高笑いした。

「はぁ・・・なんかロマンチックな台詞が台無しだよぅ・・・」

しゅんとしながら味噌汁をすするルカの横でエルマーナがため息つきながら勝手にルカの茶碗にご飯を足す。


「なんやこのパーティー日を追うごとに残念になってくなぁ・・・」










朝食を取り終えると、一行は北の戦場へと足を進めた。

寒さが更に厳しくなり、火薬の匂いが近付いて、どことなくみんな気を引き締めた。



テノスとの国境である門をくぐる。目に入ってきた光景を見て、一同息をのむ。

壊れた戦車や動かなくったギガンテス。凄まじい交戦の後が残る荒野がひたすら続く。


「さあ、ここからは戦場だ。幸い前線は移動しているようだな。だが用心するに越したことはない、みな周りに気を配りながら進もう。」

さすが、傭兵。
仕事場に立つと目付きが変わった。

自分もしっかりしなくては、

カンナも足を引っ張らぬようにと気合いを入れた。


のはいいが、リカルドのやる気が迷走をはじめる。


「いいか貴様等!!!
戦はまず身を隠す事だ、地面に伏せ砂を被り存在感を消す事、そのまま敵の背後を取れば優勢間違い無し、勝利は確定したようなものだ!!!!!

いいか、わかったな?絶対に目立つような事は・・・「我こそはセンサスの将アスラであ〜る!全軍とつげきぃー☆」


一同は何かの悪い夢かと思い、声の方を恐る恐る見た。

そこにはギガンテス集団に真っ向から頭が湧いたのかと思ってしまうくらいにキツい冗談ぶっ放すルカちゃまの姿。

「クソ虫がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

リカルドが今までに見たこともないような早さでルカを連れ戻し、そのまま一同共々戦車の影に隠れた。

向こうからはギガンテスの集団が敵を狩ろうと近づいて来る。
とにかく一回殴られたルカ。


「打ち殺すぞ貴様このクソ虫が!!!何を聞いていた!!!!」

「ごめんなさい・・・な、なんか戦場の空気に呑まれて・・・気付いたらあんな事を勝手に口走ってたよ・・・」

「黙れ!!!言い訳など誰が許可したっ!その締まりの無い口を許可無く二度と開くな!」

どこか聞き覚えのある責められ方にルカは困惑しながらも一応謝る。

「う、うん・・・わかったよもう勝手にあんな事しないよ・・・」

「わかったらはい!上官どの!だ!!万が一にその薄汚い口から違う言葉が出てみろ!その可愛い尻を蹴りあげてやる!!!」

様子のおかしいリカルドに様子のおかしいルカが半泣きになりながら、か弱い声で返事する。

と、やはり上官まがいのリカルドがヒートアップした為、カンナが収拾付けようと前へ出た。


「ちょっと先輩よりによって今上官する事ないでしょ、ルカ半泣きですし、こっちはドン引きですよ。」

「あ・・・あぁすまん・・・新兵だった頃のトラウマがな・・・」

次の瞬間、ギガンテスの攻撃で戦車の手前の地面が吹き飛んだ。

「お、おいマジで話込んでる場合じゃねぇって!!!殺戮兵器集団が本気出してんぞっ」


ギガンテスの手強さは一同、経験済みなので、あの量とまともにやり合う無謀さは百も承知。

そこへ追い詰められた一同の前に颯爽とエルマーナが立った。







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