君のいる世界廻る星

□No.24
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※暴力シーン注意
甘っちょろいですが、苦手な方は気を付けてください。























「ゲェッ、出たッ!!」



イリアの好き嫌いは見ていてとても気持ちよい。

思った事を何倍にもしてイリアが相手にぶつけてくれるからだ。



だが逆にその態度に喜ぶ奴もいるという事を知る。

ハスタが正にその奴だ。イリアのオーバーな嫌がり方を見て、嬉しそうに口を吊り上げる。


「ほう?その声紋と体臭には覚えがあるなぁ。えーっと、イブラ・ヒモビッチさん?」

「徹頭徹尾、ハンパなく違うっての!」

「なんで?」

「なんで?ってあんたねぇっっっ!!」


顔まで髪と同様赤くして息を荒げる彼女の後ろの方で、アンジュが気の毒そうに呟く。

「血圧上がりすぎ」

だが止める気はさらさら無さそうだ。
そしてその隣でうんうんと頷くエルマーナ。

「大変やなぁ、ツッコミ役……」


もちろんこちらも止める気など微塵もない。



「ハスタにしてはイリアのイの文字が合ってるだけでも奇跡的なんですよ!」


カンナはしみじみと頷いてイリアの肩に手を置いた。


「嬉しくもなんともないわよっ!!!」


ハスタは次にわざとらしく胸に手をあて哀しげに首を振る。

「この戦場には歯ごたえのある奴がいなくてねぇ、欠伸を噛み殺していたところだったんだりゅん。」

するとスパーダが待ってましたと言わんばかりに双剣を鞘から抜いて前へと出て来た。

「おい、このクサレ脳みそ野朗。お前は今倒す!」

「あ〜お前、名前なんだっけ?"口の利き方知らな太郎"?もっと耳障りのいい言葉を選ぶと吉」


「貴様の軽口は、聞くに堪えん。沈黙させるには……死をもってでしかなかろうな?」

後方から響いた低い声に、ハスタは頷く。


「そうそう、こんなカンジ。キミ、もっとリカルド氏に言葉、教えてもらうといいと思う」

「この際ハスタも一緒に習ったらどうです。あなたの言葉、耳障りどころか鳥肌立っちゃう子もいるんで」

カンナはイリアを横目に呟いた。

「やぁやぁカンナちゃん!まるで餌を待つ雛鳥のように騒ぎたてるね。
久々に会えて嬉しいのかい?オレちょっとドキドキ」

「えぇ、嬉しいですよ。火山での恨み、晴らせますからね。忘れてませんよね、自分根に持つタイプです。」

挑発的なカンナの隣に当事者のルカが出てきて武器を構えた。

「……僕も君に借りを返さないとね。刺された時の痛み、忘れてないよ」


「力強い呪詛の響き。だが靴と服のコーディネイトが気に入らないので死刑な」


相変わらず、コミュニケーション困難なぶっ飛んだ発言にとうとう一同苛々しだす。

「……こいつの話聞いてると胸やけせぇへん?」


「ああ、その貧相な胸の奥では苦しみが満ち満ちているのだね。それは悲しい事だ……さて、なんの脈絡もないけど、そろそろおっぱじめよう。」



ハスタは舌舐めずりして、カンナを見た。
目が合った瞬間、悪寒が走る。

「授血の時間だ。ちなみに授血とは"授乳"のミルクの代わりに血を与える行為を言うんだよ?」


彼は何故こうも黙らせたくなるのだろう?

脳みその構造がとても気になる。

こちら目がけて槍を振るうハスタを視界に、そんな事をぼんやり思ってから武器を構える。


「とにかく、本気で行きますから」


ハスタとの第二回戦開幕。


彼の槍を軽く交わしバックステップすると、その脇から2つの影が飛び出す。

武器を構えて反応の早かったルカとスパーダだ。

同時にハスタへと斬り付けるが、それを予測していたようにするりと避ける。

「ぴょろーん」


そしてどこからともなく漆黒の蝙の群れが現れた。

「んだよコレっ!!!」

蝙はスパーダとルカに群がり、攻撃を阻む。


「びっくりどっきりイリュージョーン〜」

カンナは愉しげに笑うハスタ目がけて走る。

ルカやスパーダは残ったパーティーが助けるはず。
ハスタを泳がすほど切羽詰まってはいない。

こうなっても7対1。

こっちの優勢は圧倒的な筈だ。



中距離から弾丸を打ち込むと、大きく避けながら飛びかかって来る。
カンナは突かれた槍をタイミング良く短剣で払い、丸空きの腹に弾丸を撃ち込む。

捕った!

ハスタはゆらりとよろめいたが、その後ケタケタ声を上げた。


「びっくり?防弾チョッキ着てました〜キミって本当に役立たず」


「・・・・・では遠慮しないで撃てますね」


カンナはさらに同じ場所に残り全ての弾丸を発射。
ハスタは小さく呻いたが、それでもまだ立っている。

カチッ

乾いた音が響く。
弾切れ。

その瞬間、口の端から細く血を垂らして、ハスタが笑った。

激しい悪寒に瞬時に下がると、頬を高速で何かが擦った。


「惜しいな、取り敢えず次はこっちのターンなんだぷー」


頬に一筋赤い線が走り、血が伝う。

危なかった
下がっていなければ、目がやられていた。


・・・あっちは本気で殺しに来てる。


ならばこっちも殺すつもりで行く。


その時、仲間の魔力を感じたのでさらに大きく後退する。



ハスタのいた場所に巨大な竜巻がおきる。エルマーナだ。


「姉ちゃん大丈夫なん!!?」


「平気です。少し擦っただけ・・・」

手のひらで乱暴に血を拭うと、ピリッと傷んだ。

何故か一瞬目眩がしたが、気にしない。


「アンタなぁ!女子の顔に傷つけるなんてサイテーやで!」


竜巻を何とかこらえたハスタはカンナを見つめると怪しく笑った。


「カンナちゃんのキレーな顔見るとさ、誰かさん思い出しちゃって気に障るんデスよ。」


ぺろりと口の端から流れる血を舐める。


「思わずぐちゃぐちゃにしたくなる。」


「変態や!!!!」


エルマーナが叫びながらハスタへ向かっていく。

ハスタはすかさず、槍で振り払うが、エルマーナは軽くジャンプして避けてそのまま蹴りあげる。

だがエルマーナはハスタに蹴られついでに足を掴かまれたようでバランスを崩しそのまま仰向けに倒れる。


「あだっ・・・」


「エルマナ!!!」

エルマーナは背中を地面強打した痛みに、少々仰け反る。


カンナは咄嗟に銃を構えたが、時既に遅そし。

ハスタが槍の柄の方を下に、突き刺すようにエルマーナの腹に落とした。

「がっ・・・」


落とされると同時に、喉の奥から漏れた声にならない声。
目が、開き、エルマーナの小さな体が飛び跳ねて、その後ぐったりとうなだれる。


カンナは構えたまま数発打ち込むと、ハスタは案の定後ろへ大きく逃げた。

すぐにエルマーナに近づく。


「エルマナっ!!!!!」

「うっ・・・」

恐らく肋骨何本か砕けているようで下手に動けないようだ。

回復にアンジュやイリアを呼ぼうと振り向くが、駄目だ。

二人とも、湧き出るバットや、紛れて襲い掛かるテノスの傭兵やギガンテスの相手をしている。


此方の様子には気付いている様だが、手が空かない。

気休めに、アップルグミを食べさせるが、本当に気休めにしかならないらしく、戦闘不能には変わりない。


そして前にはハスタ。


「エルマナ、ちょっと待ってて下さいね。今片付けますから」


「姉ちゃん・・・・1人は無茶やって・・・」

大丈夫、

そんな意味を込めて地面に伏せるエルマーナに微笑み、カンナは立ち上がり、ナイフを構えた。



「ハスタ、いい加減にしなさい」


「さて、ドウシテデショウ」


「どうしてもです!」



カンナから攻撃を仕掛ける。

即座に弾を詰て、発砲。
ハスタはそれを器用に槍で弾き、そのまま大きく横に振るった。

上に飛び跳ねそのままハスタへ急降下、ナイフで斬り付ける。

ハスタは槍の柄でそれを受け止めた。


ここからは壮絶な掛け合いで、お互いに攻撃しては避けて、攻撃して、のやり合いが続く。


だが、数分しないうちに息が切れる。


今日は何故だか体が重い。


カンナが発砲しようと銃を構えた瞬間、ぐらりと視界が捻れて膝をついた。

「何です・・・何だか、体が・・・」


はっとして、頬を触ると、先ほどの傷から流れた血が固まっている。

カンナはハスタを見上げて睨んだ。


「随分じゃないんですか、刃になんか毒・・・仕込みましたね」

「裁判長!これは罠です!ワタシにはそんな事した記憶は一切ございまセン!」

ふざけるハスタに舌打ちすると、ふらつく体に鞭を打ち立ち上がる。

「面白くないです」


一気にハスタとの距離を縮め、銃で殴り上げる。
一瞬頬を掠めたが、ギリギリで避けられ、
しかもナイフを持った手を掴まれた。


「はぐっ・・・」


息が詰まるような痛みに声が漏れる。

ハスタの槍の柄で鳩尾を思い切り突き上げられた。


さらにハスタは追い討ちをかける。

強く咳き込んでガクリ、と力を無くし、膝をついたカンナの顔面を掴んでそのまま地面に叩きつけた。


一瞬、意識がブラックアウトする。チカチカと目蓋の裏を回る星を無理やり払って目を開ける。


身体中の痛みをこらえながら、立ち上がった。


脳震盪を起こしたみたいだ。
くらくらして視界が大きく揺れる。
おまけに足はガクガクして言うことを聞かない。


それでも何故かハスタの怪しげな笑いだけはっきり見えて、こっちの気が逆立つだけだ。


「カンナちゃん瀕死」

「黙ってくださっ・・・・!!!!」


悲鳴に似た声が上がる。
そのままカンナは地面に崩れた。


容赦無く振るわれた槍。

カンナの太股を一文字に切り裂いたのだ。

わざとなのか深くは無く、だが行動を奪うのには有効な攻撃だった。


「惨敗惨敗。カンナちゃんてこんなに手応えなかったっけ」


肩に槍を担いで左右に大きく揺れながらゆっくり近づいてくるハスタ。


毒にさえ侵されていなければ。

悔しいが、そんな事を考えている場合ではないか。
カンナは絶体絶命なこの状況の打開策を考えてみたが

その時急に視界が上がった。


「あっ・・・」

ハスタがカンナの長い髪の束を握って吊り上げた。



「まさかこれが終わりじゃないだろ?モチロン」


身体が動かせない。
頭の中はガンガンと殴られたように痛いし、足は斬り付けられて立てない。
毒の効果か知らないが動機が激しく、身体中が熱を持っているようで力が入らないのだ。


何も出来ない悔しさに涙が一粒落ちた。
せめてもの反抗にハスタを見上げて強く睨む。


ハスタは満足気に口だけ笑うと嬉々として言った。


「さぁ、楽しい授血の時間デス」








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