君のいる世界廻る星

□No.25
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お願い、わたしの何を持って言っても構わない。




だからスパーダだけは、





救けて。


















目が焼けるような光と爆風が戦場を包み込んだ。


光が何もかも掻き消して、自分でさえも溶けたように消えて、

意識が重く、沈んで行った。






















「はぁ、予定くるっちゃったわ

この子ってつくづく使えないんだから」



視界に垂れる長い髪を掻き上げながら、カンナは立ち上がる。

服についた砂をはらって、辺りを見回した。


自分以外はみな地面に突っ伏して、気を失っている。


「やっぱりカンナ、この子の事助けちゃったんだ。」


足元に倒れているスパーダを見つけてカンナがつぶやく。

腹の傷は綺麗に消えて血を噴き出す事もなく、眠ったように気を失っていた。



「結局あなたはカンナを救う事が出来なかった。むしろ貴方の所為で、あの子は消えた」


そう眠ったスパーダに語り掛け、そして、声を上げて笑う。

カンナの皮を被った、災厄であるシオが。


「カンナといい、この子といい、どうしてこうも馬鹿なのかしら。
助けたって、私に体を奪われたら、結局みんな死ぬのに!!!


・・・でもどうやらあなたも
前世と何も変わらない、愚か者ね」


シオは後ろから突かれた殺意の込められた槍を避けると、瞬間的にその槍の柄を掴む。

そのままの体勢のまま柄を突き返すと、
鈍い音と、呻き声が響いた。


振り返り手のひらを痛みに蹲るピンクの頭にかざす。
すると次の瞬間黒い歪んだ風のようなものが噴き出し、ハスタは数十メートル向こうの壁に引き寄せられるように飛ばされて体を打ち付けた。


シオはその姿を見てニヤリと笑い、地を蹴った。

数十メートルの距離を一瞬で詰めて、槍の切っ先をハスタの目の前に向ける。

もはや動きが人では無かった。


「ハハ・・・相変わらずおっかねぇ」

壁に打ち付けられ、ボロボロのハスタから息絶え絶えに声が漏れる。

「久しぶりね、ゲイボルグ。
人になったようだけどちっとも変わってない。

・・・その冷たい瞳、私好みだわ」



シオは地面に投げ出した半身に跨り、壁に埋もれたほうのハスタの顔に自分の唇を落とした。



しばらくの沈黙後、シオは少し不満気に顔を上げる。



「目を開けてるなんて、失礼じゃないかしら」


「だってオレしたくなかったし、無理やりしてきたそっちのが失礼じゃね?」



ハスタの飄々とした態度に、シオは一瞬ポカンとしてその後笑った。


「あなたは興味ないみたいだけれど、私の方は有るの。

あなたの肉を裂く音や、血の色、あなたの最期に見せる顔にね」



シオが手にもった槍を大きく振った。
目の前の壁に大穴が空き、向こう側に白く雪が積もるのが見えた。

ハスタは、いない。


逃げ足の早い事、



塀を見上げると、瞬時に飛び上がり難を逃れたハスタの姿。



「残念だわ、ゲイボルグ、もう行っちゃうのね。つまらないわ」


言葉とは裏腹にシオはやはり口を歪め笑う。
顔は確かにカンナでも、その笑顔は別人だった。


「残念なのは俺の方なんだなぁ、それが。まさかアンタの方が出てきちゃうとは、いやはやたまげた」


「あら、あなたまだそんな事言ってるの。無駄なのにあの子はもういないのよ、」


あなたの愛した、あの子は。


「諦めてさっさと私に殺されなさいな。人になったあなたに用は無いもの」


シオが槍を構えたと思うと、涼しげにそれをハスタ目がけて飛ばした。

目にも止まらぬ速さでハスタの身を貫ら抜かんと閃光のように飛んだが、当たらなかった。

当たる直前に体を反らして避けて、そのまま槍をナイスキャッチしたらしい。


「俺のだから、返してね、じゃあ退散退散、」


そそくさと塀の向こうへ逃げようとした途中、ハスタは何か思い出したように振り向く。


シオを視界に捕らえ、冷たく殺意の込めた瞳で睨む。
いつものように口元だけはニヤリと歪んでいた。


「シオでもカンナちゃんでもない化け物さん。

きっとあんたに次会ったら感動で思わず殺しちゃいそうだから、気をつけてね」


それだけ言い捨てて、 塀の向こう側へ消えた。


小さく、押し殺したような笑い声。シオは肩を震わせる。


「ふふ・・・ふふふふ、っあは!」



そのうちこらえきれず腹を抱えて笑いだす。


「おっかし・・・・あの子、何て可愛いのかしら!素敵!!」


どうやら、ハスタなけなしの挑発がシオのツボに入ったらしく、何故か大喜び。


「ただ単に殺すには勿体ないわ。あれがまた武器だったらどんなに良かったのに。・・・さて、」




いつまでもここで遊んでいる訳にはいかない。
ここには殺して楽しめる人はいなさそうだし。






さて、どうしましょ、

何から始めよう。







憎かった神々はもうこの世に在らず、

だがそれでも怒りも憎しみも消えない。



もう誰かの当て付けの為に殺したいんじゃない。


この世の全てを破壊し尽くさないと止まれそうにない。



そうでしょ、シオ。



私は踊らされたままは嫌。

黙って目を瞑ったあなたとは違う。



この世界もこの世界に生きた神々も、そこから生まれた人間も、



何もかも、消さないと


私は止まれない。




やっと手に入った体。


現世にはアスラもデュランダルも私に害成す存在はいない。





もうすぐ見れる。



血と憎悪に満ちた醜い世界が。








シオは無言で笑った。


軽く地面を蹴り、ふわりと舞い上がり塀の上へ登る。


見晴らしの良い高さからぐるりと見回すと遠くに雪に覆われた大地と大きな街が見えた。



「手始めにあの街を潰しましょうか・・・・・・!?うっ・・・・・」



ドクン



そう呟いた瞬間、体の奥から沸き上がる何かに吐き気を覚えて蹲る。

ビリビリと内側から痺れて、心臓が圧迫されたような痛みと息苦しさに、体が支え切れず、
そのまま塀にしがみつくようにへたり込む。





・・・・何っ・・・・何なのコレは・・・・


私こんなの知らない・・・・っ




呼吸をするのに一苦労で、意識が朦朧としてくる。
何が起きたのか思考がついていかなかった。


段々と増す痛みに、身体中が支配され何も考えられなくなる。


遠くの地面がぐらぐら揺れる。




カンナ・・・・・なの・・・・・?




それとも、まさか





とうとうしがみつく力も無くし、高い塀の上から身体が倒れた。


地面に引き寄せられながら、シオは目を閉じた。







シオ?









何故か痛みは無かった。




























「これはまた、面白いものを拾って来たねシアン」











to be continue No.26













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