君のいる世界廻る星

□No.2
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少々高めにある小さな窓から入る夕日の光が狭くて薄暗い、まるで牢屋のような部屋を淡い朱色に染めた。

この部屋に放り込まれて幾時間。今が何時なのかは不明だが、日が落ちると言うことだけは見て取れた。

「ツマンネ」

壁に寄りかかり不貞腐れたように呟いたのは緑の髪が印象的で長身の青年。
彼こそがカンナの雇い主、
スパーダ・ベルフォルマである。
彼は数時間前、王都レグヌムで異能の力である“天術”を使い喧嘩した挙げ句、軍兵に取り押さえられた。
まさに『異能者捕縛適応法』だ。

天術を使って大暴れする男。連行されても文句は言えないだろう。

と、言うわけでスパーダは今、転生者研究者の一角に監禁されているのだった。

部屋にはスパーダとは別に、女の子もひとり居た。

可憐という言葉が似合いそうな少女。紅い変わった服装に艶めく黒髪年頃は16〜19歳程。

初めは積極的に彼女と言葉を交わしたが、そのうち途切れてしまいそれっきりだ。

スパーダはふと彼女を視界に捕える。
あちらと目が合うとふんわりと微笑んだ。

・・・良い女だよなぁ。だが何かタイプじゃねぇな。

心の中でそうつぶやくが、それと同時に淡桃の髪の少女の顔が浮かぶ。

スパーダは窓の奥に光る空を見上げる。

そろそろ自分がいる境遇が彼女に伝わった頃だろうか。
そうだったらアイツはどうするだろうか。

彼女の性格を考えると、ここに乗り込んで来てもおかしく無いような気がする。

・・・それは少し買い被り過ぎか?
どちらにしろこの場所から出たい気持ちは山々だった。

何故だかカンナの顔が見たくてしょうがないのだ。

・・・オレこのままずっとここにいるのか?
そしたらもう会えないのか?

アイツはオレが居なくなったらどうする。

自分が幽閉状態にあると言うのに、こんな時に思い浮かぶのは彼女の事ばかり。

スパーダが小さく舌打ちした瞬間、勢いよくドアが開いた。







まるで策士な軍師にでもなった気分だった。


転生者研究者の入り口に連れて来られたカンナは何故か満面の笑みだった。

彼女の両脇で天術(異能の力)を封じる男たちは奇妙な目で見た。それもそのはず。
今から戦の道具にされに行くというのにテンションが上がる者などいないだろう。

まさにしてやったり!
カンナは自分で自分を誉め讃える。

その理由は遡る事数十分。
当主との口喧嘩の途中、カンナはある事に気付いた。

自分もスパーダと同じに転生者だということに。

ならば話は早い。
当主にキレたふりして力を使い、スパーダと同じように連行されれば彼と同じように此処へ連れて行かれるという計算だ。

そして彼女の思惑通りに事は進んでいた。
まぁ、張り切り過ぎて当主の書斎を吹き飛ばしたのには自分でも驚いた。

とにかくカンナは実際に今こうして転生者研究者へたどり着く事に成功した。

「お兄さん、ここに自分と同じ年頃の緑頭来てませんか?」

右側にいる黒装束で奇妙なお面の男に尋ねた。

「黙って着いてこい」

だがこれだけは計算外でこの人達、その手の情報を全く漏らしてくれないのだ。

何度聞いてもこの通り。
この黒装束、性格が悪いな・・・。
けれど此処で諦めては意味が無い。挫けず他の作戦を使うのみ。

研究所の中に入ると、以外に中は質素だった。
薄暗い室内はしんとしていて、自分達の足音だけが廊下にこだまする。

黒装束の男たちが廊下の各部屋のドアの前に立ってる。
見張り役だろうか、カンナはそう思ったが瞬間閃く。

見張りが居るという事は、もちろん中には捕えられた人が居るという事。
つまりスパーダはこの部屋のどこかにいるはずだ。

大きく息を吸うと、目一杯叫んだ。

「スパーダ坊っちゃーん!!!!どこですかぁ!!!!カンナがお迎えに上がりました!!!!!」

しんとしていた廊下をつんざく大声に、カンナの両脇を固める黒装束から見張りの黒装束まで一瞬飛び跳ねる。

「坊っちゃーん!どこですかぁー!!!スパーダ坊っちゃーん!カンナはここでーす!!!!」

カンナの声はまるで波紋のように廊下中に広がる。

まるでスピーカーのように叫ぶカンナに圧倒されていた黒装束達だったが、我にかえりこうしちゃいられないと思ったのか、
大勢で彼女を取り押さえる。

「黙れ、小娘!!気でも狂ったか!!?」

ひとりはカンナの口を塞ぎ、その他は体を拘束した。

「んー!!!んんー!!!!!」

何するんですか!?
と叫んだつもりだが、塞がれていては到底言葉にはなり得ない。

カンナは黒装束の男の手に思い切り噛み付く。

「アタッ!」

鳩に豆鉄砲食らわしたらこんな感じとカンナは驚きと痛みに飛び跳ねる黒装束を見て思った。

が、怒った黒装束に拳骨で殴られる。

「ナメやがって!このクソガキ!!!」

「痛っ」

つむじあたりに強い衝撃。
コイツ本気で殴ったな・・・カンナは涙目で黒装束を睨んだ。

「何すんです、あんた達さっきから神の末裔だの何だの得意そうですけど、神様の末裔がそんな心狭くていんですか!?教会もガッカリですよ全く」

こちとら神の生まれ変わりですよ。
カンナは小さな声で付け足した。

「コイツ・・・気を失うまで殴って牢に放り込んどけ!!!」

「ほーやりますか。望む所ですね、貴方達なんて力が使え無くても楽勝ですよ」

黒装束はカチンと来たのか、カンナに手を上げようとした。


「待て。」

だがその一言で、黒装束は一斉に手を止める。

声の主に目をやる。そいつは正に、姿形から態度まで全て悪役だった。
何の悪役といわれても困るのだが、雰囲気から性格の悪さが見て取れた。

「騒がしいと思い来てみれば、何とこんな場所でお前に会えるとは。だろうカンナ・ディキュレイ。」

“ディキュレイ”
久しく聞いたその名にカンナは眉を寄せる。

「自分の名はディキュレイではありません。人違いでは?此方の方も貴殿のような汚いデブオヤジは見たこともありませんから」

あなたのような人一度見たら忘れないでしょ。
カンナが言い終わると、彼は可笑しそうに笑う。

「その顔に似合わぬ鬱陶しい生意気な口調、間違いないな。私はオズバルドだ。お前が率いたガラムのゲリラ小隊には随分てこずったものだ。」

オズバルド、カンナはその名に聞き覚えがあった。
出来れば二度と聞きたく無かった名だったが。

「あぁ、義父を騙した詐欺野郎でしたか。あなたのお陰で義父は処刑、小隊は壊滅。おまけに自分は命を追われましたよ。」

まぁそれで今の生活があるから恨んではいないけど。
うん、恨んでない恨んでない。暇さえあれば殺すけど。

「そう、王都に逃れたと聞いて探したが見つからない訳だ。お前今、ベルフォルマの女中なんかをしているらしいな」

「その通りです。戦で人を殺すより人様に仕えていた方がよっぽど幸せですよ。」

オズバルドは意味ありげににやりとした。

「だが此処へ来た以上人殺ししか道は無い。お前の存在意義は人殺しだろう。」

「あんた、本当にウザイですね。」次会ったら覚えてろぶっ飛ばす。

カンナはオズバルドを睨む。


「・・・そういえばベルフォルマのガキに会いたいそうだが、どうだ?会わせてやらない事もないぞ」






敵が動かなくなるのを確認すると、スパーダは双剣を鞘に納める。
後ろを振り返り、怯えて丸腰の銀髪の少年を見ると自然とため息が出た。

「やれやれだ。お前ホントにアスラか?なっさけねぇなぁ」

今スパーダは適性検査というものをしている最中だった。
力を使い実戦で使えそうな者は戦場へ、
そうでないものは兵器の動力になるかの検査って所だろう。

そして、今自分の目の前にいる二人組・・・と一匹。は、先程部屋で一緒になった転生者だ。

銀髪の少年が、少し興奮した様子で口を開く。

「じゃあ、君はやっぱり・・・」

スパーダはその問に頷いた。

「オレの前世は聖剣デュランダル。天上において『この刃、斬れぬ物は己のみ』そううたわれた無比の名剣さ」

・・・スパーダの前世はそう、センサスの王アスラの愛剣であったのだ。

「そう、デュランダルは僕の愛剣で何度も死闘をくぐり抜けて来たんだ・・・」

銀髪の少年は遠い昔の事を思い出すかのように言った。
気の弱そうな彼の前世はアスラ。天上一の勇士とは彼の事。

そのすぐ隣にいる真紅の髪の気の強そうな少女が割り込む。

「あんたって、あの剣だった人?あたし、前世はイナンナ。」

イナンナは天上一の美貌を持った女性で、アスラの恋人である。

スパーダは少女をまじまじと見つめる。

「へぇ、お前が?おしとやかさの欠片もねぇなぁ」

「あら、ありがと。あんたも剣じゃなくて普通の人間みたいね」

皮肉を込めた彼女の言い方にヒートアップし、言い返そうとしたとき、偉そうなオヤジに邪魔をされる。
たしかオズバルドとか言ったっけ。

オズバルドは三人を交互に見定めながら口を開く。

「なかなかの戦闘力だな。これなら期待出来る。検体にするのは惜しい。」

偉そうで汚ねぇジジイだ。

「ほめられたって、嬉しかァないね」

真紅の髪の少女が喧嘩腰に言う。
「んで?あたし達、合格なワケ?」

オズバルドは首を振る。

「まぁ実戦を積んでないヒヨッコのお前達ではまだ不安でな、経験豊富な者との戦闘を見てどうするか決めよう。」

「はぁ!??ウザっ何よそれ」

「お前三人係でもキツいかもしれないぞ、心してかかれ」

オズバルドは満足そうに言うと、自分は安全な展望席へと戻っていった。

「はっ上等じゃねーの、どんな奴だろうと叩きのめしてやるぜ」

意気揚々と剣を構えると、向こうの扉から人影が現れる。


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