君のいる世界廻る星

□No.4
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戦場に足を踏み入れた一行だったが、未だ敵の姿は無し。
ゆっくりと道を進んでいた。

イリアは未だ先程のチトセに腹を立てているようだった。

「イリアは何故あんなに怒ってるんです?チトセって人の事がキライだからですかね」

カンナはイリアの後ろ姿を眺めながら言った。

「がしかし!コーダもあの女好きじゃないぞしかし!」

カンナの腕に抱かれ、コーダは長い袖をブンブン振り回した。

「・・・何故です?」

「コーダに美味いもの何もくれなかったからな、しかし」

「・・・コーダ、人の好き嫌いをそんな事で決めるのはちょっとひどいですよ」

カンナが悲しそうにコーダを見ると、横から手が伸びてきてコーダの頭を掴み、カンナの腕から引き抜くと地面に投げつけた。

言うまでもなくスパーダ。

「ちょっと・・・ひどいですよ」

「ほっとけ、あいつと喋るとバカが移るぞ。まぁ元々手に負えないバカだけどなお前は」

「反論はしませんけどなんかムカつくんであっちに行って下さい」

カンナがそっぽを向くとスパーダは「まぁまぁ」とか言いながらペッタリカンナにくっつき少し声を潜めた。

「俺が思うに、アレは完全なるヤキモチだヤキモチ。」

「ヤキモチって・・・。イリアはルカが好きなんですか?」

「それはまだワカンネ。んで、だ。ルカは完全にイリアにホの字だ。これは間違いない。と来たらチトセの登場だぜ。面白いと思わねぇ?」

「ちょっと・・・ホの字って・・・エロジジイっぽいですよ。」

気の毒そうな眼差しでスパーダを見つめる。

「うるせー。」



その時、茂みに影が蠢いた。

カンナは銃を構える。

「みなさん伏せて!」

そのかけ声で全員が伏せると同時に、銃撃の雨。伏せなければ完全に当っていた。

弾の飛んできた方を推定し、カンナは銃を2発打ち込んだ。

一発は命中したようで、木に血が飛び散った。もう一発は、外したようだが上手く敵を炙りだした。

敵が2人、姿を現した。
緑の軍服。ガラムの兵だ。

カンナの後ろには三人が武器を構えた。

4対2。
初戦、こちらが優勢。

4人の戦争が幕を開けた。




「ハァハァ」

ルカは肩で大きく息をしながら大剣を鞘へおさめた。

「こ、怖かった・・・」

初戦は順調。チームプレーはなっていなかったが見事勝利をおさめた。

「今の戦闘を聞きつけ、他の兵達も集まってくる筈です。早く移動しましょう。」

カンナは短剣に着いた血を振り払いながら言った。
だがルカはへなへなとその場へ崩れた。

「僕・・・僕もう嫌だよ、あんな殺すか殺されるかなんて・・・こ、怖いよ・・・。戦っている最中、足が震えるんだ・・・。」

ルカは小刻みに震えた。
今まで普通の生活を送って来た彼がいきなり戦場で人を殺す。当たり前の反応だと思った。

もっと自分がしっかりせねば。
皆さんを守れるのは自分しかいないんだ。

そこへスパーダの揺るぎない声。

「お前はもっと自信もてよ。敵相手に充分戦えてる。お前は強ぇえよ。」

ルカの目を見つめながら彼の前にしゃがみ込む。

「戦争してるって意識すんな。ただ生き残る事だけ、考えりゃあいーんだって」

妙に説得力のあるその姿はまるで幼い子供を説得する父親のようだった。

ルカはスパーダを見上げて頷いた。

「そうか・・・そうだよね。僕はアスラ・・・。大丈夫大丈夫」

「いざとなりゃ、オレが守る。忘れたか?前世でオレが何度もピンチを救ったろ?」


カンナは自分が少し恥ずかくなる。
自分が思っているよりずっと皆さんは強くてたくましかった。

・・・それに。
カンナズイッとスパーダに近づく。

「・・・スパーダ・・・なんてご立派なお言葉・・・カンナは誇らしいです・・・。」

手を組み、目を輝かせるカンナにスパーダはため息ついた。

「おい、やめろよ・・・。なんか台無しだろうが・・・。」

2人の掛け合いを見てルカは笑った。

「ハハっ・・・うん、僕頑張るよ。さぁ、みんな行こう!」




ここまで来るのに、何回か戦闘を繰り返したが見るからに、チームワークが取れてきていた。

仲間を感じながら戦うことを意識出来てきている・・・。
この短時間で、素晴らしいです。やはり前世の絆でしょうか。

カンナはそんな事を考えながら進んでいた。

今さっき戦ったのは、ラティオの兵。前世の記憶を完全にとりもどし、覚醒した姿だった。
アスラであるルカに襲いかかる様子を目の当たりにして、
前世の縁と言うものが現実じみた。

前世・・・。
カンナの脳裏にはやはりあの惨景が浮かぶ。
血に濡れた前世の自分・・・。


「おっと・・・味方かぁ。引き金引いちゃいそうだった」

イリアの声で、我に帰る。

いけない、ここは戦場なのに、ぼんやりしてた・・・!

カンナは慌てて武器を取ろうとするが、相手はレグヌムの兵だった。
・・・味方か。

だが、レグヌム兵は、何故か鞘から剣を抜き構える。
そしてその刃をルカへ向ける。

「お前、アスラだなっ!・・・こうして再び巡り会おうとはな。剣を抜け!」

「おい、あんた。味方を斬るってのか?軍規違反じゃねぇのかよ、ソレ」

スパーダは剣を抜かずに、説得を心みる。
だが、レグヌム兵は全く聞く耳を持たない。

「僕のせいだって?君が弱かったからじゃないの?」

ルカはレグヌム兵を逆なでするような、力強い口調で言った。

イリアはそんなルカを見つめる。

「・・・・ルカ・・・・。」

「黙れ!黙れ黙れ黙れ!その口、永遠に黙らせてくれる!」

そういうと、レグヌム兵は先程戦ったガラム兵の様にラティオの姿へと変わる。

ルカは剣を構える。

「・・・来い」

ラティオの兵は空中を浮遊しながら凄い早さでルカへと突進する。

大剣で受け止めて、攻撃ごと押し返すルカ。
そこへスパーダの怒涛の惨劇から切り上げ。
空中の逃げ場の無い敵をイリアの銃撃が襲い、落ちてきた所をカンナの短剣突き、二段蹴り、おまけに5発の発砲。

止めはルカの炎を纏った一文字切り。

一方的にやられた敵は、終始攻撃することなく息絶えた。


敵が動かなくなったのを確認すると、それぞれの武器を鞘におさめた。

「はっ、チョロいぜ」

綺麗な連携攻撃に得意顔のスパーダ。

「そうだね。転生者の力は、常人じゃかなわないそうだけど、僕らにかかっちゃあ」

「敵じゃねーな!!ヒャッハッハッハ!」

ルカは誇らしげに胸を張る。

「これも僕がアスラだからだね。天上最強の戦士、アスラだったから」

「おおっと、何でもかんでも真っ二つ!万能包丁よりステキな切れ味のデュランダルを忘れないでやってくれよ」


調子に乗りまくる2人を見て、イリアとカンナは顔を見合せため息をついた。


「・・・調子乗りすぎです。いい加減にしないと、その高ーい鼻がポッキリいっちゃいますから」

カンナが嫌味混じりにそう言うと、スパーダはにやりと嫌な笑い方をした。

「おや?カンナがお冠みたいだぜぇルカぁ?オレ達ちゃあんと敵の相手してんのになぁ」

「カンナ、心配しないでよ。どんな敵が来ても僕が倒すから!なんたって僕はアスラだもの!」

ルカとスパーダは有頂天で、カンナの忠告に全く耳を貸さなかった。

「全く、遊びじゃないんですよ。ふざけないで下さい。なるべく戦闘は避けていかないといけないのに」

「そんな事言ったって、前世の恨みとかで襲いかかってくんのはあっちだろ。こっちだってたまったもんじゃねーよ」


イリアはその言葉にうんうんと頷いたかと思うと、今度はうつむいた。
ルカが心配そうに駆け寄る。


「イリア・・・大丈夫?疲れちゃった??」

イリアははっとすると、少し慌てた。

「な、何でもないわよ・・・。そう言えばなんでアスラってあんなに嫌われてるの??」

という、イリアの素朴な疑問によって天上の戦争事情の説明会が始まった。

天上では、2つの勢力に分かれて戦争をしていた。それがセンサスとラティオ。隔たれてしまった地上と天上を一つにするか、そうでないかで争っていたのだった。
その頃天上は、地上人から信仰心を集めなければ維持できなくなっていた。
センサスのアスラはそんな天上のバランスを元に戻すべく、天地融合のため立ち上がったという。

まとめるとこんな感じだ。

「なるほどね、じゃあアスラの邪魔をしてたラティオは悪い奴だったのね!!」

イリアが言うと、それにスパーダも便乗した。

「ぶっ飛ばされて当然じゃねーか!!」

「いや・・・そんな事無いと思うよ・・・」

ルカが反論しようとすると、イリアがそれを制す。

「ちょっと!黙ってなさいよややこしくなるんだからっ・・・さっ先へ進みましょ」

スパーダとイリアが行ってしまったあとで、ルカが小さく呟く。

「戦争って善悪ではかれないんじゃ・・・。」


カンナはルカの言葉を聞いて、少しだけ安心した。
戦場は人を狂わせる。幾度となく繰り返す戦いに、命の重さを忘れてしまったり、その重さに堪えきれなくなり精神が崩壊してしまうもの。

カンナはそんな人たちを何人も見てきた。だからこそ、ルカの戦争に対する見識を聞いて安心する。

そう、戦争は決して善悪ではかれるものじゃないんだ。



一行は、襲いかかる敵を一掃しながらさらに奥へと進んだ。


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