君のいる世界廻る星

□No.7/6
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王都には小さな粒の雨が、一時間程前から降っていた。
時刻は真夜中。草木も眠る丑三つ時。
その日は何故だか騒がしかった。

悪天候の為に星が隠れ空は真っ暗。
街を照らす街灯だけが、頼りだった。
その街灯の下を何人もの軍兵が駆け回っている。

「騒がしいな・・・。」

何事かと、一人の青年がマンホールを持ち上げ外の様子を伺っていた。

「そっちだ!!!そっちに行ったぞーっ捕まえろっ!」

わりと近くから、兵の声がする。
と次の瞬間路地に影が現れたと思うと、こちら目がけて突っ込んでくる。

「おわぁっ!?」

影はなりふり構わず、スパーダの隠れ家のマンホールに入り込む。
いきなり入って来たその影に押し込まれ、スパーダはまっ逆さまに底へ落ちる。

「イッテェ・・・オイてめぇ何すんだよっ!!!!」

影は素早くマンホールの蓋を閉じると、上からジャンプして落ちてくる。スパーダの直ぐ隣に着地する。

「シカトかよ!!!だからテメェは誰だってむぉ!!!?」

無理やり口に手を当て、塞がれる。

「静かにして下さい。」

影は平然とそう言って、マンホールを見上げた。その時、深く被っていたマントのフードがはらりと落ちて、顔が露になる。

スパーダは目を見張った。
柔らかそうな薄桃の髪、煤で汚れてはいるが透明な肌。その顔立ちは可愛らしくも、美しくも見てとれる。
その額や髪から伝う雨粒。
とにかくスパーダはその女性から目が離せなかった。

「・・・・行ったようですね。すみませんでした。」

桃色の唇が動いたと思ったら、ゆったりとした声が響いた。
それと同時にスパーダの口元から手が離れる。

と、思ったら額に銃を突き付けられる。

・・・・・・・・・・・!??

あまりに突然な一連の出来事にスパーダの思考は追い付かなかった。
だが女はそんな事シカトして話を勝手に進める。

「悪いのですが、あなたには暫く人質になって頂きます。此処で捕まる訳にはいきませんから。・・・と、あなたどこか良い抜け道か何かあったら教えてくれませんか」

向かい合った彼女の瞳がスパーダを捕えた。
スパーダはドキリとする。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

沈黙が暫く続き、彼女がもう一度言う。

「抜け道知りませんか?」

「・・・・・・・し、知らねぇ。」

「そうですか。」

やっとの一言。スパーダはやっと思考が追い付いて来た。

「お前、誰だよ」

「言いません」

女はスパーダに銃を向けながら言った。

・・・・・・言いませんじゃねーよ・・・。

「名前は?何で追われてんの?」

「何で言わなくちゃいけないんです」

スパーダはとうとう立ち上がって向けられている銃口を手で引っ掴んだ。

「テメェ何様だよ!勝手に人の隠れ家に入って来やがって!!!んで何が言いませんだ・・・ヨォ!!!??」

女の回し蹴りに足元をすくわれ、スパーダはコンクリートに思い切り頭を打ち付けた。

痛みに悶えながら転がっていると、のしかかられる。

「!!?」

スパーダの腹の辺りに女が跨り額に冷たい銃口を突き付けられる。

「あなたは自分の人質ですから。大人しくして下さい。」


その時、スパーダの中に何かが過る。
懐かしい気、それと同時に何故か悲しくもなった。

夢の中の人物。
前世でデュランダルである自分を愛した姫、シオが目の前で銃を向ける女と重なったのだ。


「・・・・・・お前、シオか・・・・・?」

スパーダの言葉に、女は一瞬動揺したがそのあと何かに気付きスパーダの瞳をじっと見つめる。


「あなたはもしかして、デュランダル・・・・・・?」


そう口に出した瞬間、彼女のお腹がぐぅとなる。


つかの間の沈黙の後、スパーダが恐る恐る口を開く。

「・・・ハラ、減ってんの?」

女は顔を背ける。
それを見てニヤリとするスパーダ。

「そこどけよ。何か食わしてやっからさ」

すると比較的素直に、女はスパーダの腹の上からどいた。

・・・・・どんだけ腹減ってたんだよ・・・。

スパーダは女を隠れ家に案内した。

「ここは、あなたの家なのですか?」

「ちげーよ、隠れ家だって。」

「隠れ家・・・?」

小さな小部屋へ招き入れると、スパーダは明日の朝食にするはずだったパンとチーズを女に与えた。

それを引っ掴むと一瞬で平らげる。若干物欲しそうな顔だが、礼儀正しくご馳走と呟いた。

「んで、お前異能者なんだな?前世はシオ。」

女は頷く。

「あのさぁ、アンタが何をして追われてるか知んねぇけど。オレはお前をとっ捕まえたり役人にチクったりしねぇから」

「・・・何故です。もし自分が沢山の人を殺した殺人者だったらどうするんです。」

スパーダはニヤリと片方の口角をあげる。

「ほーぉ、だったらオレがこの場で叩っ斬ってやるよ」

一歩後ろへ下がり、武器を構える女。それがなんだか面白くて笑える。

「冗談だっつの。もしアンタが殺人者だったら顔見られた時点でオレの事も殺ってんだろ?・・・そんな警戒すんなってば」
ホラ、この通りだって

少しずつ距離をとる女にスパーダは両手をあげる。
女は不信な目でスパーダを見る。

「・・・何なんですかあなた。自分はあなたを人質にしようとしたんですよ!?捕えもせず殺しもせず・・・あなたの目的は何ですか!!!」

「じゃあ、捕まえて欲しいのかよ」
「・・・捕まりません。そうしようとするならあなたを殺しますから!!」

女はなおも武器を構えたままだ。
・・・ったくコイツ何にそんなに必死になってんだよ。

「熱くなるなって・・・。オレたちは転生者同士、ここで合ったのも前世の縁だ。アンタと仲良くしたいんだって。」

「・・・・・・・・・・・・・。」


どうやら相手も、友好的な関係を否定する訳では無らしい。
スパーダは女に手を伸ばす。

「オレはスパーダ・ベルフォルマだ。」

「・・・・カンナです。」


カンナはスパーダの手を恐る恐る取る。
強く握ったその手は細く冷たかった。


「ファミリーネームは?」

「捨てました。なので、カンナです。」

「家族、いねーの?」

「はい。みんな、死にました。」

「そっか、何で追われてんの」

「不法入国です。」

「何しにこんな兵の沢山いる王都に来たんだよ。行くあてがあんの?」

「ないです。取り敢えず追われるので逃げてきました。」

カンナは無表情で淡々と、スパーダの質問に答えた。

まるでロボットの様だと思った。感情の無い、言葉をインプットされただけのロボット。

「これから、どうすんだよ」

「・・・・わかりません。自分、ここまで何も考えずに逃げてきました。昼も夜も走り続けて気付いたらここにいました。人と言葉を交わすのも、ひどく久しいように思えます。」


スパーダはカンナを改めてしっかりみる。
服はボロボロだし、体も細くやつれて顔色が悪い。
大きな瞳にも光が宿らずどこか虚ろだ。

スパーダは、このまま彼女を野放しにしてはいけないと何故かそう思った。

「カンナは悪い奴じゃなさそうだ・・・。追われてるのも何か理由があるんだろ?」

カンナは押し黙ったままだった。

「お前がオレを信用してくれるんだったら、オレの所に来ないか?」
そう優しく問い掛けると予想外の返答。

「あなたをまだ信用してません。」

さすがにスパーダも苛ついた。

「お前さっきから優しくしてりゃあ、調子のりやがって!!うちに置いてやるって言ってんの!大人しく言うこと聞けや!」

「ほ、本性を出しましたね!!!自分を捕まえて役人に差し出すつもりでしょう!!!?」
それで、お金を沢山もらうんだ!!!

「人間不信かお前は!!!!!んなことしねーよ!!!大体おまえはどうしたいんだよ?このまま目的も無く逃げ続けたいのか?」


スパーダの一言にカンナは言葉を詰まらせる。


「じ、自分は・・・。

自分は・・・。

何がしたいんでしょう?」


「聞くな!知るかんなもん!」


カッカッするスパーダ。
カンナは急に不安気な表情になる。

「・・・教えて下さい、わからない。わたしは逃げ延びたそのあと何をするんですか?何をすればいいのですか?」


一粒、ポロリと涙が落ちる。


その後を追うように次々と涙が溢れ出す。


「怖いです。明日も明後日もその後もずっと続く、底のない海のような未来に足が竦む・・・」


そう言ってぽろぽろ泣いた。



・・・不安で不安で仕方なかったんだな。
ずっと独りきりで逃げ続けて心細かったんだろう。

スパーダはゆっくりカンナに近づいた。
今度は逃げなかった。

頭を優しく撫でてやる。


「お前頭かってぇな!!難しく考え過ぎなんだよ。・・・お前こんなに細っちくてしばらく何も食べてないだろ?寝ても無いな?」


カンナはこくんと頷いた。

「いいか、まず腹一杯飯を食う。それが大切だ。その後はぐっすり眠る。そんでオレの家に住め。」


「・・・・・・話、ぶっ飛びましたね。嫌ですよ。人の世話になるなんて」

カンナはもう泣き止んでいた。

「お前さ、不安定なくせに意地っ張りだよな。」

「別に意地を張ってるわけじゃ・・・・!」

スパーダはずいっとカンナに近づく。

「だったら、働けば良い。オレの家でオレの側近になれ。」




オレはひとりだったから。



だからお前には、オレがいてやる。




「カンナはオレが守ってやるから、未来が怖いなんて言うな。お前はお前のやりたい事をゆっくり見つけて行けば良い。それまではオレんとこで面倒見てやっから。」

カンナはスパーダを見上げた。
大きな薄紅の瞳と目が合う。

先ほどとは違い、少しだけ光が差している気がした。


「・・・なんだよその熱っ視線はよ。チューして欲しいのかよ」

スパーダが半分冗談で顔を近付けると、
思い切りグーで殴られる。

「ってぇ・・・げ、元気出てきたじゃねぇか。・・・・グーはよそう?せめてパ・・・」

「ん?チョキですか?チョキをご所望で?」

「目!?目を潰しにかかるつもり!!!?」

スパーダが咄嗟に目を両手で塞ぐ。

すると、暗闇の外から笑い声が響く。

「ふふっ・・・ふふふふっ・・・」

スパーダは両手を下ろす。
そこにいたのは腹を抱えて笑うカンナの姿。。

・・・・・・・!!!!笑った!!!!!

何故かその姿に、胸が高まった。
カンナの笑顔が嬉しくてうれしくてたまらない。
スパーダも笑う。

「あの・・・す、スパーダ。」


カンナから名前を呼ばれてまたしても高鳴る動悸。

「ん?」

「自分、こうみえて腕には自信がある方なんです。」

唐突に言い出したカンナに、スパーダははてなマーク。


「だから・・・その、自分がやりたい事を見つけるまで・・・自分があなたを守ります。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボコボコにされたらすぐ自分がやり返しに行きますから・・・!」


最後の一言は置いておいて、素直なカンナの言葉が胸を打った。
どうやらスパーダの誘いを受けてくれるらしい。
まぁ受けなくても無理やり連れていくつもりだったけど。


「よろしくお願いします。スパーダ」

カンナは深くお辞儀する。

「おう、任せとけ」


「・・・ありがとう。」



カンナは小さく呟いた。








to be continue No.7.



→あとがき
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