君のいる世界廻る星
□No.7
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「行ってくるぜ、ちゃんと迎えに来るから大人しく待ってろよ」
浅い眠りのなか、彼にそう声をかけられた気がする。
ふと、目を覚ますともう太陽は昇りきっていて、外は賑やかだった。
カンナはゆっくりと体を起こす。久々に1日中寝ていた為、体中がカチコチだ。
ベットから出て着替えはじめる。
綺麗に洗濯されて皺も伸びてあるブラウスは優しい香りがした。
髪をいつものように結わいて、身だしなみを整えるとカンナは1階へ下りた。
「おはようございます。気分は如何ですか」
階段を下りるカンナを見つけたハルトマンが優しく微笑んだ。
「おはようございます。すっかり良くなりました。昨日はお世話になりました」
「いいえ、良いのですよ。さぁミルクがゆを作りました。お腹がすいたでしょうどうぞ召し上がって下さい」
カンナはリビングのテーブルへ招かれ、湯気の立つミルクがゆを出される。
昨日から何も口にしていない。腹ぺこのカンナには嬉しかった。
「ありがとうございます!」
勢い良く食べるカンナをハルトマンは嬉しそうに見つめた。
「坊っちゃまの侍女をしているそうですね。」
食べ終わるのを見届けると、ハルトマンは静かにそう言った。
「あっはい。すみません申し遅れました、自分はベルフォルマ家でスパーダ坊っちゃんの侍女として使えておりますカンナです」
「存じ上げております。坊っちゃまが嬉しそうに聞かせてくれましたから。あなたを拾った、と。」
カンナは何故か少しだけ恥ずかしくなった。
上品で厳かなハルトマンを見ていると自分がスパーダに使えているのは身分違いのような気がしたのだ。
「はい。行くあての無かった自分を坊っちゃんが拾って下さり、仕事も与えて下さいました。坊っちゃんは自分の恩人です」
ハルトマンはそうですか。と微笑む。
「わたくしめは、この度坊っちゃまをお目にかかれて嬉しゅうございました。大きく成長なさって。体も、心も」
そこで一旦言葉を切り、一息つくとまた続けた。
「本当はずっと心配しておりました。当時から坊っちゃまは色々な事情で荒れておりましたから。」
カンナは俯いた。
彼が彼の家族と折り合いが悪い事は誰よりも知っていたからだ。
「はい。自分がいた時も、坊っちゃんはご家族と殆ど係わり合いをお持ちになりませんでした。自分にもっと力があれば・・・」
カンナもスパーダを囲む家庭事情を改善すべく、手を尽くしていたつもりだった。
だが先日の当主の態度を見て、信頼を無くしていたのも事実。
「なに、あなたが気に病む事ではありません。上流社会によく見られる、難しい問題なのですよ。」
難しい表情のカンナをハルトマンはじっと見つめて、やっぱり嬉しそうに笑うのだった。
「それに、カンナさんがあの家に居るだけで坊っちゃまは救われるはずです。どうぞこれからも坊っちゃまをよろしくお願いします。」
頭を下げるハルトマンにカンナはうろたえた。
「そんなっ・・・やめて下さい。むしろ自分がお世話になっているのに・・・それに」
カンナは真っ直ぐにハルトマンの目を見つめた
「自分の仕事は坊っちゃんのそばにいて、坊っちゃんを守る事です。それが自分がやっと見つけた"やりたい事"なんです。なので心配なさらないで下さい」
・・・って何か偉そうだったでしょうか??
カンナは1人で心配になった。
「・・・・坊っちゃまがあなたに特別な感情を抱くのも、分かる気が致します。」
「・・・え?今なにか?」
きょとんとするカンナを見てハルトマンは笑った。
「いえいえ今はまだ良いのですよ。」
その時、リビングの窓ガラスに緑色の物が映る。
ぴょこぴょこと跳ねて、窓の縁から消えたり現われたりした。
「コーダ!!?」
カンナは直ぐに駆け寄り窓をあけコーダを抱き上げて部屋の中へ入れた。
「一体どうしたんですか・・・ルカ達とナーオス基地に向ったんじゃ無かったんです??」
「大変だぞカンナ!!!!大事件だしかし!!!!」
コーダはカンナの腕の中でブンブンと袖を振り回した。
「落ち着いて、何があったか話してください。そしたらチョコあげますから」
「ナーオス基地でアンジュ救出に一度は成功して出口へ向かったのは良いが、運悪くグリゴリに捕まって閉じ込められたんだぞしかし!はやく助けないとみんなギガンテスの動力にされるんだなしかし!!!!」
チョコという言葉に反応したとたん、あまりに饒舌なコーダに若干の恐怖を覚えたが、そんな事を言っている場合ではない。
「皆さんが危ない・・・!!」
カンナは2階に上がり、短剣と拳銃の装着されているベルトを腰に括り付けるとドタバタとまたハルトマンのいるリビングへ戻った。
「自分、皆さんを助けに行ってきます・・・!」
コーダがカンナの肩にしがみつく。
「お気をつけて・・・帰りをお待ちしております。」
カンナは頷くと、直ぐにナーオス基地へ向かった。
◆
今日の仕事はナーオス基地への奇襲。目的は対転生者用戦闘機の破壊と研究の阻止。
さらにはその混乱に乗じ、捕らえられている「アンジュ」を探し、保護する事。
まぁこれは奇襲とは関係の無い別の仕事なのだが。
作戦はいつも通り、少人数編成で一気に殴り込み。
全員持ち場に付き準備は万全。
あとは出動の合図である、西棟の爆破を待つのみだ。
傭兵として仕事に明け暮れるリカルドは今日もその1日だった。
今は武器などの身支度を完璧に終え、待機している。
早く仕事を済ませ、酒でも飲もう。
そんな事を考えていると、後ろから草を掻き分けるようなもの音がする。
直ぐ様武器を構えて後ろを振り向く。
「動くな。」
だが自分が銃を向けているのは小さな謎の生き物。
さらにその小動物には見覚えがあった。
いつしか西の戦場で会った転生者のガキ共が連れていた生き物と似ている。
「あれ?先輩??」
予想もしない後ろから懐かしい呼び名で自分を呼ぶ声。
振り返ずとも姿が想像できた。
「・・・・・カンナか」
後ろを取られた事に若干のショックを覚えながらも、リカルドは深いため息が出る。
「お前は戦場でしか生きられない女だったのか」
振り向くと、先日会った時と違わない姿。
「・・・まさか、ちょっと用事があって。忙しいので先輩にはかまってあげられないんですけど、落ち込まないでくださいね」
「全くガキが戦場に何の要があるのか。世も末だな。・・・お前のお友達は今日はいないのか?」
リカルドはカンナの後ろに目をやるが、人気はないようだ。
「そのお友達が、あそこにいるんで迎えに来た所です。」
カンナはナーオス基地を指差す。
全く近頃のガキの行動範囲がわからん。こう何回も捕まっていては世話ないだろうに。
「先輩は?また馬鹿のひとつ覚えのようなゲリラ作戦ですか??」
・・・少し丸くなったように思えたが、口の悪さは変わらんな。
「まぁ、そんなところだ。人を探している。アンジュと言う女性だ。見つけたらつれてこい」
・・・・・・・アンジュ。
カンナは耳に覚えのあるその名前に暫く沈黙して、その後ルカ達の捕まった訳とアンジュが一緒にいることを話した。
「それで、自分が言いたいのは、手を組みません?て話です。先輩がいると何かと苦労しないですみますし、自分はアンジュの居場所を知っているのでお互い結構好都合だと思うのですけど」
「交換条件か、いいだろう。それでアンジュが捕まっている場所と言うのは何処なんだ。」
カンナは得意げに言う。
「西棟です。」
リカルドは一瞬血の気が下がる。
と、次の瞬間。
出撃の合図である、西棟の爆破音が響いた。
◆
レグヌムの転生者研究所を思い出させるような狭い部屋に4人は押し込まれていた。
イライラと貧乏ゆすりするスパーダに、
イライラと落ち着きの無いイリア。
さらにすすり泣くルカとその隣でルカを慰める若い女性。
この女性こそが、聖女、アンジュだ。
「ルカ君、もう泣かないで。なんとかなるわよ」
「いや、もう駄目だよ・・・僕達はもうすぐギガンテスに入って人殺しの道具にされるんだぁ・・・」
「うるせーんだよ!!!ウジウジしやがって男ならビシッとしろやビシッとよォ」
スパーダはすすり泣くルカに我慢ならず怒鳴りつける。
それをアンジュが叱った。
「やめて、スパーダ君。今ルカ君を怒鳴りつけても何の解決にもならないわよ。」
「イライラすんだよ、クソッ!!!!」
思わず壁を殴る。
「ちょっとカリカリすんのよしなさいよ!!!あたしだって我慢してんのに!!!!」
イリアもとうとう怒鳴りだす。
「落ち着いて、2人とも。今コーダが助けを呼びに行ったでしょ。必ず助けがくるわ、今は待ちましょ」
アンジュの笑顔にふたりとも、仕方なく怒鳴り合うのを止める。
その時だった。物凄い音を立てて右側の壁が吹き飛ぶ。
それと同時に、煙と埃が舞い上がり視界がぼやける。
「うわわわわっ」
「な、何だってのよぉ〜」
しばらくしてやっと煙がおさまる。一同は全員が無事でいるのを確認した。
「みんな、ケガはない???」
「あぁ、オレは大丈夫だが・・・って・・・」
いきなり吹き飛んだ右側の壁は大きく穴が空き、向こうには廊下が見えた。
一同は何事かと数秒固まったが、イリアが素早く立ち上がる。
「ねぇ、逃げるなら今がチャンスじゃないのっ!!?」
その次には、ナーオス基地中に警報が鳴り響く。
穴のあいた壁と反対側のドアからグリゴリ達の声がした。
「ガラムの奇襲だーっ!ギガンテスの破壊破壊が目的らしい!!総員地下へ向かえ!!!!!」
そのあと、ガヤガヤと足跡が遠ざかっていった。
アンジュが立ち上がった。
「逃げましょ。きっと神様の思し召しね。」
一同が廊下に出ると、向こうから人影が近づいて来る。
そして、聞いたことの無い声が響いた。
「見つけたぞ。忌々しい転生者どもめ!!!!」