君のいる世界廻る星

□No.8
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「そ、それで契約してリカルドって人も仲間になったって事・・・?」


「うん、そう。かまわないよね?」

目を覚ました3人にアンジュとカンナはリカルドが仲間になった行く末を大体で説明した。

「・・・信用出来んのかよ」

スパーダは疑わしげにリカルドを見る。

リカルドは何の反論も無しに興味なさげ。認められなくとも俺は俺の仕事をする。多分そんな感じだろう。

「まぁ、自称仕事熱心らしいから・・・」

イリアはスパーダと目を合わせ、肩をすくめた。

「でも、一度は僕らを見逃してくれたしきっと良い人なんだよ!」

「・・・嬉しそうですね。ルカは先輩がお気に入りなんです?」

カンナが笑うと、ルカは照れくさそうに目を反らす。

「そ、そんなんじゃないよ・・・ただリカルドが入ったら力強いし、それに話したいこともあったし・・・」

「とにかく、採用決定のようだな。基地からは離れたとはいえここは危険だ。・・・どこへ向かう?」

一歩後ろで話しを聞いていたリカルドが前へ出た。

「ナーオスに戻りましょう?ハルトマンさんが心配してるはずです。」

カンナはスパーダへ目配せする。それに頷いた。

「オレのツテで安全な宿がある。まずそこでどうするか決めようぜ」

一同賛成で、ナーオスに帰る事になった。





「先輩、またご一緒出来ますね。嬉しいです」

ナーオスへ向かう間、カンナはリカルドに並んで歩いた。

「・・・奇妙な事もあるものだ。二度もお前のようなガキの世話係に雇われるとは。」

「残念でしたね、自分も最近は成長しましたから、ガキだと思って見くびらないで下さい。」


そういう所がまだまだガキだな。
そう思ったが心の中にしまうことにした。


「・・・あの時は急だったからな、流石に俺も心配した。のたれ死んではいないかと。」

リカルドは一息おいた。

「・・・でもあれで良かったみたいだな、お前はちゃんと自分の生きる道を見つけたようだ。戦場ではない場所で」



・・・ガラムの兵として、戦っていた頃を思い出した。

必死に戦場を駆け回った頃。生きるのに精一杯で、自分のやりたい事も将来の事も考える暇なんてなかった。
でもそれが狭い世界の全てで、戦場こそが自分の居場所だった。


でも今は違う。


数歩前を歩く薄い緑の髪を見た。
何故か安心するのだ。彼を見ると自分の目の前にも優しい未来が広がる気がして。


自分には使命がある。自分で決めた使命が。


「はい。自分は今、幸せです」


穏やかに微笑むカンナを見て、リカルドは笑う。

「そうか。・・・異能者として追われて、何度も軍に捕まっては脱出劇を繰り返す、大層な幸せだな。」

「・・・・・ごもっともです。」








無事にナーオスのハルトマン宅にたどり着いた後、一行はこれからの事について話し合っていた。

カンナは会話を小耳に聞きながら、ハルトマンの調理の手伝いをしていた。


会話は丁度、アンジュを連れてくるようにとリカルドを雇った北国の貴族についてから、マティウスという者が狙う創世力、枢密院、そして今後どうするかを話し始めたところだった。

会話の内容を聞くかぎり、おそらく王都レグヌムへ向かうのだろう。


「カンナさんは、お料理が大変お上手でございますな」


直ぐ隣でカンナの包丁さばきを見ていたハルトマンが感嘆の声を上げた。


「え、そんな事は無いですよ・・・。この程度の家庭料理しか作れませんし、ハルトマンさんのようにもっと華やかな物を作らなければならないのに。それに・・・・」

カンナは自分なんかよりもハルトマンの手さばきの方が格段素晴らしいと思った。

素早く、丁寧に、美しく。
それは思わずため息が出るような手際の良さ。
伝説の執事と謳われたハルトマンの調理をすぐ間近で見られてカンナは地味に興奮していた。


「・・・素晴らしいです、その手際の良さ・・・。」


ハルトマンは直も手を動かしながら笑った。

「本日は坊っちゃまとそのお友達も来ておりますから、気合いを入れてるだけでございますよ。」


・・・気合いを入れて・・・。
カンナも手伝っているとはいえ、メニュー内容はフルコース並み。お持て成しのホスピタリティ精神は半端なものではない。


「・・・自分も、日々向上します・・・」

とてもじゃないが、カンナではハルトマンの足元にも及ばない。


「なに、カンナさんは十分優秀な側近でございます。何よりも坊っちゃまの事を考え、力になろうとしている。良い側近とは実力の事ではありません。その気持ちなのですよ。」


ハルトマンは、本当に素晴らしい人だ。スパーダが唯一あの屋敷で信頼していた人物だったその理由が伝わる。

「さぁ、出来ました物から皆様にお出しして下さい。さぞお腹がおすきでしょうから。」


「はい。」


カンナは豪華な料理たちをテーブルへ運んだ。






翌日、レグヌムへ移動する事になった一行は朝食までご馳走になり、ハルトマン宅を出た。


スパーダが挨拶をすませ、先に行った。カンナは最後にハルトマンを向きお別れを言う。

「ありがとうございました。本当に色々勉強になりました。・・・坊っちゃんの事は任せて下さい。自分が命にかえてもお守りしますから」

「いえ、心配はしておりません。あなたが着いておられるから。本当にカンナさんに出会えて良かった。・・・全てが落ち着いたら、またおいでになって下さい。」

カンナはハルトマンと固く握手した。

「もちろんです。・・・では、もう行きますね。」


「お気をつけて、ではご機嫌よう」

カンナはハルトマンに深くお辞儀した。



急いで一行を追い掛けると、ナーオスの玄関口で隠れるようにして待っていた。

スパーダが大きく手で招いた。

「遅えよ!・・・ハルトマンと仲良くなりやがって。いつの間にか気に入られたみたいだな」

「ええ、自分が坊っちゃんをどれ程愛でていらっしゃるか熱弁いたしましたから。」

「バーカ、お前如の愛じゃ足りねーよ!もっとハルトマン並みに愛でろ。ハイ、これ主人の命令。」


スパーダはカンナを軽く小突いた。

「ほー、望むところです。自分の愛がどれ程の物か見せてあげますよ。」


「なんでソレで銃を取り出すんだよ!」

「愛の鞭ってヤツです。ビシバシ行きますよー!!!!」

「いらねぇ!!!!!!」



「ちょっといつまでもイチャつくんじゃないわよ!・・・昨晩言ってた通り、王都に行こっ」

イリアの一声でカンナは銃をしまった。

「どうしたの、ルカ君?元気ないけど」

そこへ、アンジュ。
ルカへ目線をずらすと、いかにもな感じでうなだれている。

イリアはそんなルカを見てバツが悪そうに言った。

「んあー・・・前の事なら、気にしなくていいのにぃ」

前の事?ふと疑問に思うと、コーダが耳元で小さく「前にルカが家に帰りたいとダダをこねたんだぞしかし。」と説明を受け納得。


「うん・・・、でも僕、実家の様子がどうしてもきになるんだよね」


「そりゃ、そうだろうけどよ・・・」

スパーダは肩を竦めた。その横からリカルドがにょきっと現れる。

「・・・親に甘えるのはガキの特権だ。なぜ、その特権を受けん?」


「ホラ、例の適応法ってヤツよ。あたし達一度捕まってんのよね」

イリアの言葉にリカルドは神妙に頷く。

「なるほど、帰るに帰れんというわけか」

「あらあら・・・、ルカ君大丈夫?」


ルカはうつむいていた顔を上げる。

「平気だよ。決めたんだ、人前で弱音を吐かないって。それに・・・・」

ルカはちらっとイリアを見た。

「な、何よ」

「イリアはまだ僕の力を必要としてるんだよね?だったら最後まで頑張らなきゃ。だろスパーダ」


そして、にっこり笑いながらスパーダと顔を見合わせた。
スパーダはニヤっとしてガッツポーズ。

「ふうん・・・あんたって割と・・・アレね」

「え?」

キョトン顔のルカ。
イリアは笑顔になる。

「結構マシって意味よ。
・・・それじゃ行きましょ!」

イリアは先陣きって歩きだす。


「見直して、くれたのかな・・・?」

ルカの頬はほんのり染まっていた。


「少なくとも、自分は見直しましたカッコよかったですよ。」

隣に並んだカンナの言葉にルカは少し照れ笑う。
スパーダもカンナの反対側に並び、ルカの肩に手を置く。

「あぁ、泣き言ピーピー言ってたお前はドコ言っちまったのやら・・・」

「人は成長するものだよ。以前の僕とは違うのさ・・・・ま、ちょっとだけ、だけど」

ルカは自分で言い出した事なのに、最後の方にかけて消極的になった。

「いや、ちょっとじゃねーよ。ちゃんと立派になってるぜ。」


「ほ、ほんと・・・?」

「えぇ、立派です。自分・・・なんか少しウルっと来ました・・・。」

カンナは目を擦った。

「えっ!?なんで!!?カンナがウルっと来てるの!!?」

涙目のカンナにルカは焦って顔を覗き込む。

「自分、友情系に弱いんです・・・。それに、仲間が成長していく姿を見るのは、感慨深くて・・・」

スパーダは笑った。

「老人かよ、おめーは」

「・・・何故、人がせっかく感動してる所に茶々入れますか。」


「ありがとう・・・嬉しいよ。カンナが僕らの事を仲間って思ってくれてるって。」

ルカの言葉に、スパーダもカンナも黙る。

「ほら、カンナって結構自分の事話さないし、弱音も吐かない。人に頼らない所があるから。・・・でもそんな君から仲間って言葉を聞けて嬉しいな。」

ルカははにかむ。

「ルカ・・・!!!!」

カンナは感動の余り、ルカを抱擁した。

「!!!!!!!!」

ルカは一瞬で固まる。

「オイ!!!なにひっついてんだよ離れろ!!!」

スパーダに無理やり引き剥がされ、カンナは少しむくれた。


「何ですか!ただの友情の抱擁ですよ!!!」


「うるせー!!!オレには一回も自分から抱きついた事無いくせに!!!」

「スパーダがヤキモチ・・・。」

カンナから解放されたルカがボソッと呟く。

「ちっげーよ!!!オレはこの不平等さに異を説いてるだけだ!カンナは結構胸有るからな、ルカだけなんてズルいだろ。・・・ホラ、来いカンナ!!!」

大きく手を広げるスパーダにカンナは冷たい視線を送った。


「・・・今物凄いサイテーな事言ってますけど、自覚あります?・・・ルカ、行きましょう」


カンナはスパーダを置き去りにして、ルカと一緒に歩きだす。


「んだよ、なんでルカが良くてオレはダメなんだよ!!!差別だろ差別!!!!!」

喚きちらすスパーダの横をアンジュが素通り。
通り過ぎ様、

「鏡見てみなよ。下心って書いてあるから顔に」

とだけ言って行ってしまった。


「アンジュまで・・・慰めの抱っことかしねーのかよ!聖女だろっ」


「・・・仕方ない、オレの出番だな。来い、ベルフォルマ」

最後にリカルドがいっぱいいっぱいに手を広げた。


「アァァァァいらねぇ!!!!!!!」






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