君のいる世界廻る星

□No.9
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ルカ、コーダそしてカンナの3人はレグヌムの住宅街を走っていた。
人を縫うように走っだが兵はしつこく追い掛けて来る。

後ろを振り返り、見兼ねたカンナはルカに耳打つ。

「このままマンホールへ行くのは危険です。ルカはコーダを連れて先に戻って下さい!」

ルカは不安げにカンナを見た。

「でも、カンナは??」

「後ろの兵士を撒いてから戻ります」

「そ、そんなの危険だよ!!!」

カンナは肩に引っ付くコーダをルカに渡した。
角を曲がって直ぐの、裏路地にルカを押し込む。

「大丈夫、自分足には自信ありますから。さ、路地を真っ直ぐ行って右に曲がって下さい近道です。」

そう言い残し、カンナは走った。

「カンナ!!!!」

ルカはどうしようか迷ったが、直ぐに追い掛けて来た兵士の声が聞こえて来たのでカンナの言う通り、先に戻る事にした。


一方カンナは、兵士がルカに気づかずに自分を追い掛けて来たのを確認すると大通りへと向かった。

今の時間帯なら大通りには人が溢れているはず。それに自分と同じような女中が買い出しに来ているだろうから、兵士達を撒くのは簡単だろう。


カンナは早速、大通りの人混みへと走って市場のタイムセールの人の群れに突っ込んだ。

その時、誰かに衝突してしまったが、今は気にしていられない。

本気の主婦達に揉まれながら、カンナは外の様子を伺った。



「おい、銀髪の少年と髪の長い桃色の髪の女中は見ていないか」

すぐ2メートル程の場所で兵士の声が響く。
心臓が飛び跳ねる。

明らかにルカとカンナの事だ。

カンナは両腰に着いた武器を抜かずに握りしめる。
ここには人が沢山いる為力を使えない。今逃げたしても自由に身を動かせないし、誰かに拘束されたらお終いだ。

ゴクリと息を飲む。
凄い早さで波打つ心臓の音でばれないかと思う程、周りの音が静かになった気がした。


兵士はまた1人また1人とこちらへ近づいて来る。

カンナは祈った。

お願いお願いお願いお願い!!!

気付くな!!!!!!!


「あ、その子見ました!」

本当に直ぐ近くから声が響いた。

カンナは息が出来なかった。
・・・・やばい。

「さっきぶつかったから覚えてるんだ。その子貴族街の方へ走って行ったわ」

「そうか、協力感謝する。」


思考停止する。人違い・・・?
いや何にしろ良かった、カンナは安堵の息をついた。

だが次の瞬間、腕を強く引かれる。

「なっ!!!?」

声を上げようとすると口を塞がれる。

「大丈夫。兵士は行ったよ」

手を引く者の正体がわかるとカンナは涙が出そうになった。

何故、彼女の声を気付かなかったのだろう。

「ミナ!!!!!」

「え、ちょっと!!!」

思わず抱き付いた。
彼女はベルフォルマ家の女中、カンナの同僚で唯一の友人だった。


「・・・で、どういう事なの?」

安全な場所へと移動して、カンナはミナと向き合った。

「ど、どういう事とは・・・?」

「全部よぜ、ん、ぶ!」

ミナは腰に手をあて、少し怒っているようだった。

「こっちは貴女が捕まってからずっと心配だったのよ、戦場に送られて、さらには脱走したって言うじゃない!」

「はい、さぞかしお怒りですよね、執事長も・・・。ま、自分にはもう関係ないですよね」

アレだけ当主の部屋で暴れたんだ。自分はとっくにクビだろうな・・・。

カンナは少し俯いた。

「何よ、しおらしく。執事長は死ぬほど心配してるわよ。あなたの事娘の様に思ってたんだから。余りにも心配して痩せたわよ。」
まぁ痩せた方が少しダンディーでいいけど。

ミナは最後余分につぶやく。

・・・・初耳だ。執事長には暇さえあれば怒られていた気がする。大方厄介払いが出来たと喜んでいたのかと思っていたのに。


自分もルカと同じだ。周りの本当の気持ちに気付ていなかった。

「それにね、あなたはクビになったって思ってるだろうけど、ご当主はあなたを辞めさせなくて良いって仰ったのよ」

ミナの言葉に耳を失う。

「な、何故です!!?あれだけ暴れて罵倒したのに」

「そうよね。でもお咎めにはならないわよ。それにスパーダ坊っちゃんの事だってご当主はベルフォルマ家の恥と仰った秘書をお叱りになったって聞いたの」

・・・・あの人が?
カンナはご当主についての印象が変わった。もしかして、本当にもしかして、不器用なだけなのかもしれないと。

ミナにそっと手を握られ、顔を上げる。


「・・・帰って来るよね?」


「今は無理です。適応法がある限りきっとまた捕まってしまう。・・・それに自分は坊っちゃんの侍女です。彼のお世話をしなくては」

ミナは悲しい顔をしたが、無理やり笑ってカンナを抱き締めた。

「うん、そうよね、そうだよね。でも、これだけは忘れないでね。私達は親友でしょあなたが何者でも私はあなたが大好きよ」

目頭がじんと熱くなる。


「・・・・うん。すべてが落ち着いたら、必ず、また戻りますから。坊っちゃんと一緒に」


カンナはミナと別れると、身を隠しながら待ち合わせ場所のマンホールへと戻った。



「あ、皆さん戻ってましたか!お待たせしました。」

中に入ると皆そろっていた。
と、次の瞬間、スパーダの怒鳴り声が響く。

「お前、なっに考えてんだよ!!!囮になったそうじゃねぇかよオイ!」

直ぐに走り寄って来て、何をするかと思えば拳骨。

「いっ、痛い!!!そんな怒る事ないじゃないですか!ちゃんと無事で戻って来たんだし・・・」

頭部を押さえながら、スパーダを見上げると一瞬言葉を失った。


目が本気だった。いつもと違う本気で怒った顔。

「スパーダ・・・。」


「お前は本当に分からねぇ女だな。自分勝手なんだよ」


スパーダはそれだけ言うと踵を返した。

様子を見ていたアンジュが近寄ってきた。

「今のは、カンナが悪いかな。スパーダ君すっごく心配したんだよ、今も探しに行くって騒いでたんだから。」

それを聞くと胸が痛む。

「・・・・すみません、でも自分は皆さんを守りたくて・・・。」


「確かに助かったわ。でもスパーダ君が言ってるのはそんな事じゃないのよ。それがわからないんじゃ、スパーダ君が怒るのも当然よ」

「・・・・そ、そんなに怒らないであげて、元はと言えば僕のせいだし・・・ね、カンナ。ありがとう」

ルカが俯くカンナを覗きこんだ。ルカ君は甘い。アンジュはそう呟く。

「・・・いい、ちゃんと考えて、それからスパーダ君に謝りなさい。あなたが私達を守りたかったように私達もあなたが大切なんだから」

「はい・・・すみません。」


ズキズキとさっき殴られた場所が痛かった。

すると急に腰のあたりをポンポンと叩かれる。

「まぁ、そんな落ち込むなや、姉ちゃんがやった事は結果的にはウチの事も助けたんやから。」

小さな女の子だった。
短くて薄紫髪の方言が可愛らしい女の子。

「・・・一体誰の隠し子でしたか?それとも先輩、人さらいの仕事請け負ってます?」

「ふざけるな。ここの住人だ」

「住人!!?地底人ですか・・・」

「うん、まぁそうとも言うなぁ」

方言少女は感慨深く頷いた。

「・・・突っ込みが不在だとどうも気持ちの悪い会話になるな。早くベルフォルマの機嫌を直せ」

「先輩まで・・・。で、この子は誰なんですか?」

カンナの質問にはルカが丁寧に答えてくれた。

彼女は誰なのか、何故ここに住んいるのか、そして、この子の頼みで今から鍾乳洞でキノコ狩りに行く事を説明された。

「う・・・なんて健気・・・なんてたくましい・・・エルマナ!!!キノコなんて自分が沢山狩りますから安心して下さい!あと、チョコあげます」

カンナはポケットから簡易食のチョコを出した。

「おおきになぁ。後で皆で大切にわけさしてもらうわ。」

「あ、そっか皆さんの分もなくちゃですね。もういっそのこと全部あげます」

カンナはポケットからさらにチョコを取り出した。

「うっわぁ、チョコどんだけ出てくんねん怖っ!!!でも有り難くもらうわ。」

「ずるいぞーコーダもチョコ食うぞしかし」

コーダがチョロチョロと走って来た。

「あ、すみません。後でコーダの分は買いますから。」

「おい、さっさと行くぞ」


一同はさっそく鍾乳洞へ向かう事にした。


鍾乳洞に入るやいなや、アンジュとイリアが懐かしがるがもしかしたら前世が関係してるのかもねーというルカの意見で丸く収まった。

カンナはふと、視線を感じて振り返る。

「あ、姉ちゃんも犬の匂いした?ウチもやねんけど、こんな所にいるわけあらへんよね」

後ろを振り返るカンナに、エルマーナが隣に並んだ。

「犬の匂いは気付きませんけど・・・あなたも仲間なんですね!実は自分犬大好きなんです」

「あ、そうなん?別にウチは犬好きでもないんやけどね、そーいや自己紹介遅れたなぁ。」


エルマーナとカンナは歩きながら自己紹介した。

「自分はカンナといいます。スパーダの侍女をしてて、皆さんと同じように転生者です」

エルマーナはそうなん、自分大変やなぁと感心しながらつぶやいた。

「ウチはエルマーナ・ラルモいうねん。ま、この通りその日暮らしやねんけど」


大変なのはエルマナの方だと、思った。
こんな小さな体ひとつで、年下の子供達に食べさせて。普通のこの年頃の子供達よりずっと辛い思いをして生きているのに、それでも悲観せずに笑っていられるのは凄い事だと思う。


「エルマナは凄いです。立派に生きてる。」

エルマナはカンナを見上げた。
そしてちょっとだけ悲しそうに笑った。

「立派なんかとちゃうよ。凄くもない。あんたも同じ境遇になってみ、ウチは凄くもなんともない。こうしな生きていかれへんもん」

「・・・自分も、エルマナと同じ境遇にあった事があります。でも、自分はあなたのようには生きれなかった。ただ暗闇の中にひとり浮いているようで、生きて行く方が死事よりも怖いと思った。」


戦場で数え切れない程の人を殺してきたからか、生きる事に執着はしなかった。できなかった。


「・・・それで、どうしたん?」


「スパーダに助けてもらいました。ひとりの力じゃ、絶対にここにはいられなかった。」


「ウチだってひとりちゃう。子供達がおんねん。子供達に食べさすにはウチが必死こいて生きるしかないねんて。ウチが居なくなったら、あの子らどうなるかわからんもん」
あの子らが、大切やからね。

エルマナはそう言って笑った。
その笑顔は何故かカンナを温かな気持ちにさせる。

懐かしい、まるで母親に抱かれる時のような・・・。

・・・・・・・母親?


「ま、よーするに、それと似たような事やで。カンナ姉ちゃんが居なくなったらスパーダ兄ちゃんが悲しむ。だからカンナ姉ちゃんはもっと自分を大事にせいゆぅ事をアンジュ姉ちゃんは言いたかったんと思うよ」

エルマナはニヤリと笑った。

「いや、それ掘り返しますか。・・・こんな年の離れた子にお説教されるって・・・なんか、切ないです」


うなだれるカンナの背を、エルマーナはビシバシ叩いた。

「なんか姉ちゃんほっとけんのよね、スパーダ兄ちゃんが拾ったのもわかるわ!」


・・・・自分が居なくなると、スパーダが悲しむ。
でもそれは、自分だって同じ事。

スパーダの、怒った顔を思い出すと胸が痛かった。


「エルマナ、自分スパーダに謝ろうと思います。」

カンナは手をグーにして頭上に掲げた。

「そら良かったな、あぁ青春やねぇ」

・・・エルマナは年の割に達観したところがある。
カンナはしみじみそう思った。






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