君のいる世界廻る星

□No.10
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カンナが出血多量で気を失っている間の事をざっと説明するとこうだ。

アルカの使者シアンは転生者の楽園をつくるために創世力が必要なので、創世力がどこにあるか知ってそうなエルマナをさらいに来た。が、返り討ちにされ逃げる。あだ名は犬男。

地上に戻るとエルマナの仲間リタとマリオが誘拐されそうになってたので助ける為にオモロイ顔のオッサンと戦い、良い人だったのでリタとマリオをオッサンに頼む。ついでにキノコが物凄い値段で売れたので金には困らない。
という事でエルマナがパーティー入り。

さらに一行の次なる目的は記憶の場めぐりとなり、記憶の場の有りそうな土地を探しすためアンジュの教会の地下室で文献あさりをしにナーオスへ戻るらしい。


「ざっと説明するとこんな感じやね。わかった?カンナ姉ちゃん。」

ルカに説明を所望したのにも関わらず、エルマーナに意気揚々とアバウトな説明を聞かされたカンナは、オモロイ顔のオッサンが見たくてしょうがなかった。


「あ、ハイわかりました。自分が寝てる間に色んな事あったんですね・・・」

「そーよ、あんた止めるのも聞かないで犬触りに行くからっ!!」

イリアが肉にかぶりつきながら言った。

「そうよ、言ったとおりだったでしょ犬は喉元を狙うからって。もう犬に近付いてはダメよ。」

「えぇ・・・嫌です。犬大好きなんで・・・」

カンナはアンジュの忠告をまたもや完全無視。

「あそこまでされてまだ犬が好きでいられるガッツは認めてやろう。」

「一方通行な愛だけどナァ!ヒャヒャヒャヒャヒャ」

「いいんです。いつか必ず彼らに認めてもらいますから!!!」

カンナはバカにする男性陣のそっぽを向いた。

「でも、カンナって犬に嫌われてるのに何故そこまで犬にこだわるの??猫とかウサギの方が大人しいし」

「否、わかってませんね、ルカ。いつどこでどんな犬に出会っても吠えられる・・・人は追われれば逃げたくなり逃げれば追いたくなるもの。」

「?その原理だと本当一生一方通行だと思うけど・・・」

ルカをリカルドが制した。

「言わせておけミルダ。コイツは重度の変態ドMなだけだ。関わらんほうが良い」


今一行は、ナーオスに向かう途中カンナに血を作ってもらう為にピクニック気分で昼食を取っていた。

「さ、カンナ!肉をじゃんじゃん食べて血をつくるのよ!!」

イリアが骨付き肉を盛大に勧めて来る。

さらにリカルドにも、貧血にはコレだ。とか言って大量のレバーを食べさせられて少し気持ち悪い。

「なぁ、カンナ姉ちゃんは前世誰やってん。なんか懐かしい気すんねんからきっと知り合いやろ?」

エルマーナがカンナのレバーを摘みながら聞いてきた。
ヴリトラは母親的存在だったから、たしかに懐かしい気がしててもおかしくない。

「きっとご存知ですよ。自分前世はシオでした。」

シオ、そう口にした途端エルマーナの表情が変わった。喜びでも嫌悪でもない、しいて言えば哀しい懺悔のような表情でカンナを見つめて黙りした。

一同は不思議そうにエルマーナを見た。

「どうしちゃったのよエル?カンナがシオだったって事に何かあんの??」

もしかしたら、ヴリトラはシオの行く末を、何故シオが殺人に溺れたのかを知っている?


「そうか、自分、シオやったんか・・・」


するとエルマーナはつかつかとカンナに近寄り、抱っこするみたいに抱きついた。

「えっ!!?エルマナ!!?」

カンナをはじめ一同はエルマーナの謎の行動に、驚く。

「あんな、姉ちゃん。シオはな、本当はいい子なんや。優しい子なんや。本当は虫一匹殺せないくらい命を大切にする子なんや」


腕に力が入る。


「シオが悪いんやない・・・勘違いしてほしない・・・」

何故か悲しくなった。何の事か分からないのに、胸が痛い。

「自分まだすべて、思い出せてなくて・・・」


・・・胸が引き裂けそうだった。何故エルマナにこんな感情を抱くのか分からない。そんな事は思ってもない思いたくもないのに、

彼女を憎いと、胸の奥底から湧き出てくる自分の知らない真っ黒な感情が、恐ろしい。


カンナは慌ててエルマーナを離した。

「何か、知っている事があるのなら・・・教えて下さい。どんな内容でも構わない。知らないでいるのが、怖いんです・・・。」


「・・・・。」

エルマーナは押し黙る。

「カンナ、聖堂の古い書物にシオについて記されたものがあるの。後でそれを見せるわ」

アンジュだ。

だから、エルマーナに追求するのはよして。
カンナにはそう聞こえた。

「・・・はい。」





一行はナーオスに着くと、すぐに聖堂に向かった。
以前来た時には気付かなかった思い鉄の扉の下に、図書館はあった。
教会の権威を守るための重要な情報を隠す秘密の図書館らしい。

中はかなり広く、天井まで届く本棚は壁を隠していた。

一同は手分けして資料を探す事になったが、カンナはアンジュに古く分厚い本を手渡された。

「あなたの前世について記されているわ。は地上にも姿を現していたようだから、記述が残っているの。・・・字は読めるよね?」

カンナは頷く。

「・・・・カンナ、事実を知る事は確かに大切だけど、でもあなたはあなた。シオとは別の人だっていうこと忘れちゃ駄目よ」

アンジュの瞳には不安がちらついていた。
きっと自分も同じだろう。カンナはそう思った。

「はい。ありがとう・・・」

本を受け取ると、それはずしりと重かった。


入り口にあるちょっとした段差に腰掛けて、深呼吸する。

この中に、シオがいる・・・本当のシオが・・・。

カンナは表紙を開いた。
そうとう古くからのものらしく、文字が擦れていたが、なんとか読める。

はじめの一文を目で追った。

『その者は突然現れた。天上に厄災として降り掛かり、多くの神々の命を奪う。神々は厄災を止めようとするも、その力は絶大で天上は滅ぼす力と成りえた。
間もなく神々の母、命の女神が立ち上がり。その我が子に厄災を封印し絶命する。
厄災を封印されし赤子をシオ。彼の子は白竜神により、厄災から守られる。』

・・・話は繋がった。
シオは、命の女神の子にして、その中に厄災を封じられた子だったんだ。

カンナは文書を読み進める。
しばらくは平穏な時を過ごしていたようだ・・・。
あるページで止まる。
カンナが最も知りたかった所かもしれない。

『時が経ち封印が薄れ、厄災がまた現れる。一晩にして村を焼き神々の命を奪う。
朝が来れば、厄災はまた封じられ、命の女神となる。
シオは命の女神として自ら命を奪った者を蘇生させるも、虚しく、恐れられ、いつしか幽閉された。』

・・・カンナが夢に見た光景だ。
血の海に佇むシオ。だけどそれは彼女じゃないんだ・・・。あれはシオではない、その体に幽閉された厄災。

夜になると封印が薄れ、厄災に取り込まれ、朝になればまたもとのシオに戻る。
文面を見るかぎりしばらくそんな状況が続いたのだろう。

『ある時、また厄災が現れる。自ら檻を飛び出し、また命を狩りに現れた。その手に魔槍を持ち狂ったように神々を殺し、いずれその者は地上にまで姿を現した。まるで修羅。命の女神は修羅と成り果て、無差別に命を奪う。』

・・・。


『やがて修羅は天上の雄姿により取り除かれる。厄災は消え世界に平和が訪れた。』


・・ここで、シオについてのページは終わった。

彼女の存在は、地上でも知られていたようだ。
命の女神としてではなく、命を狩る悪魔、修羅として・・・。

カンナはある光景を思い出す。


血の海に浮かぶ自分。

振り返れば、自我を失ったシオ。血を浴びた唇が動いた。


「許さない。

逃げたって、追い掛けるから、何処までも」


あれは、シオの姿をした、厄災だったんだ・・・。


「追い掛けるから」


何故、なぜ自分を追い掛けるの?


嫌な予感がした。

もし、シオと一緒に厄災もカンナへと転生していたら・・・。


自分の中にも、厄災がいたとしたら・・・。




想像したくないのに、最悪の光景が目に浮かぶ。



仲間達が血の海に倒れ込んでいる。息もしないしピクリとも動かない。

・・・死んでいる。

足元に目をやると、そこにはスパーダ。
死んでいる筈なのに、彼の光のない瞳はカンナを捕えて離さない。

瞳の中にはカンナが写る。

仲間達の命を奪い、満足そうに笑う自分・・・。


急な吐き気に図書館を飛び足した。

駆け上がり、すぐ近くの草の茂みに倒れこむようにして嘔吐した。



ガタガタと体が震える。

怖いのだ。

自分の中にいる狂気がいつか自分を飲み込むのだと思うと、恐怖で頭がどうにかなりそうだった。


あんなもの・・・見なければ良かった・・・。

そうすればこんな恐怖知らずにすんだのに。

でもそれで何も知らないうちに仲間を失ってしまったら?

それはもっと恐ろしい・・・。


仮に自分が自分の中の狂気と向き合ったとして、

自分はそれに勝てるの?どうやって戦えばいいの??



わからない・・・・もう、自我を失って、仲間も失うならいっそのこと、逃げてしまおうか。


離れていれば、誰も傷つける事はない・・・


離れていれば・・・・





「大丈夫か?気持ち悪くなっちゃったんだな・・・あそこカビ臭ぇもんな」

優しい声が響き、カンナは背中をさすられた。
温かく大きな手で・・・。


「スパーダ・・・」

やっと口に出せたその声が、あまりにも情けなく震えていたのが自分でも驚いた。


「何泣きべそかいてんだよ、ホラ、落ち着いたらあそこ座れ。」

カンナは、大きな木の木陰に移動して座らされた。

「ほら飲め、水。」

水筒を差し出され、一口飲む。
不思議と落ち着いた。

「ぬ、ぬるい・・・」

「我が儘言うなよ、水あるだけありがたいと思えオラ」


いつもはど突く所を、今日は優しい頭を撫でるだけだった。


外は明るくて、風が気持ちよかった。スパーダが来てからは気持ちが嘘のように穏やかになる。


「スパーダ・・・サボって良いんですか?」

「サボりじゃねぇよ。本当にお前は可愛くねーなぁ」


カンナは小さく笑った。
ぽろっと涙が落ちる。

「・・・・あれ?おかしいな・・・何ででしょう・・・・・」

拭っても拭っても、涙がポロポロ落ちて止まらなかった。

「カンナ・・・」

スパーダの手が頬に触れた。
その手にカンナはそっと自分の手を重ねる。


「どうしよう・・・やっぱりシオは殺人鬼でした・・・自分の中に封じられた狂気に勝てなくて、人を殺した殺人鬼・・・。」

潤んだ瞳でスパーダを見た。
視界が歪んでよく見えなかった。

「怖いんです・・・もし自分も、そうなってしまったら・・・。知らないうちにあなたを傷つけてしまったら・・・殺してしまったら・・・・」


スパーダは何となく、泣きそうな顔をしていた。


「自分はそんな事になったら・・・・耐えられない・・・考えるだけで胸が張り裂けてしまいそう・・・。」




「バカ野郎」








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