君のいる世界廻る星
□No.12
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王墓の帰り道に会ったのはチトセ。
彼女はどうやら、ルカをアルカに勧誘するためにわざわざここまで追い掛けて来たらしい。
その顔は何やら追い詰められている。
イリアがチトセに何の用だと問い詰める。
だが、チトセはそれを無視してルカを見つめ、そしてその名を呼んだ。ルカではなく、アスラ様と。
「アスラ様・・・マティウス様はあなたの力を必要としていますっ・・・どうか私と一緒に来てくださいっ」
ルカは首を振った。
「僕はアルカには行かない。魔王は天上を滅ぼした。そして地上は今滅びに向かっている。全てはマティウスのせいなんだ。」
チトセは悲しげな表情を浮かべ、頭を横に振る。
「違う!違うわ、アスラ様、まだすべて思い出されていないのね。それは勘違いなのです。」
ルカは困惑した。
マティウスの前世は魔王。創世力を使ったのも魔王。
何を勘違いするというのだろう。
だがチトセは力強く言う。
「私は知っています。天上が滅んだのは、すべて、イナンナのせいなのです」
チトセはイナンナの現世、イリアを指差す。
「!!!!」
一行は思いがけないその言葉に驚愕した。
しんと静まった空間に、スパーダの怒鳴り声が響く。
「そんなワケねーだろっ!!!おい、イリア、何か言ってやれよ!!!」
イリアはショックを受けたようで何も言い返さない。
「おい、言わせておくのかよ!」
スパーダはもどかしそうに叫ぶ。
「天上が滅び私の美しいアシハラが沈みゆくのも全てこの女のせい・・・。さらにアスラ様まで」
チトセは短剣を抜き、イリアに向かって構えた。
「今度こそはアスラ様を守るっ!!!!」
イリアに向かって、短剣をふるった。イリアはとっさの出来事に体が動かず目をつむる。
「!!!!イリアっ!!!!」
キィンと金属のぶつかり合う音。
「なぜ、何故かばうの?」
チトセの声にイリアは目を開けた。
「!!・・・ルカ・・・。」
目の前にはルカの背中。イリアをかばいチトセと刃を交えていた。
「アスラ様っこの女を信じては駄目!!!」
ルカはチトセを押し返した。
「僕は決めたんだ。僕を連れ出してくれた、僕を必要としてくれたイリアを守るって・・・。」
チトセは叫んだ。
「忘れたのですか!!!最後の最後で裏切られた屈辱を!目を覚ましてください!!!アスラ様!!!!」
「・・・守るなんておこがましいかもしれない。でも僕を信頼してくれた証を立てる!!!!」
ルカはチトセに斬り掛かった。
ルカの大振りな剣をチトセは素早く避ける。
チトセからはルカに攻撃せずに、ただひたすらそれを避けた。
ルカの剣が振り下ろされるたび、チトセは悲痛な表情を浮かべる。
「アスラ様!!!!お願い!!!私を信じて下さいっイナンナがイナンナが全て悪いのです!あなたは裏切られたのです!!!!」
ルカはチトセの言葉を振り払うように剣を振り回す。
「僕は何を言われてもイリアを信じる!!!」
ルカが言い切った。
するとチトセははじめてルカの攻撃を避けずに受けとめた。
瞳から、一粒涙が伝い震える声が響く。
「・・・わからずや!!!!」
チトセのオーラが変わった。
チトセの体から力が溢れるように放たれ、大気がビリビリと震えた。
チトセの姿がぶれて、一瞬サクヤの姿が重なる。
ルカの大剣を押し返すと、覚醒状態のチトセの反撃が始まった。
「モータル・シャドウ!!!!!」
チトセは舞うように、ルカに惨劇を浴びせた。
ルカは防御を崩され、素早い惨劇に太刀打ちできず、攻撃を食らう。
とうとうルカは地面に膝をついた。
「ごめんなさい、アスラ様・・・。」
ルカにそう呟くと、チトセはイリアに向き直った。
「・・・責めるべきはあなたよ、イナンナ」
ルカが倒れ、見守っていた一同は武器を構えた。
チトセはイリアに短剣を振り斬る。・・・がそれは空で止められた。
チトセの短剣をルカが掴み、押さえつけた。
ルカはボロボロな体で、足元がふらつくのも関わらず、立ち上がった。
「イリアは・・・僕が、守る!!!」
「ルカ・・・!!」
チトセの短剣を強く握っりルカの手からは血が滴る。
そのなま温かい血が短剣をつたいチトセの腕を濡らした。
チトセは力なく短剣を離す。
短剣は床に音を立てて落ち、転がった。
「・・・・フフフ・・・フフフフフ・・・・」
チトセからあがった不気味な笑い声に、一同は目を見張った。
「イナンナは裏切る。あなたはアスラ様を傷つける・・・」
「一体どういう事よっ!!!!!」
イリアは叫んだ。
だがチトセはその問には答えず、まるで、幻だったかのように消えた。
辺りは何事も無かったかのように静まりかえる。
すると、ルカは力が抜けたのかその場に崩れた。
「ルカ・・・!!!」
イリアがルカに近寄った。見守っていた一同も駆け寄る。
すぐにアンジュが治療を初め、ルカを淡い光が包む。
「イリア・・・怪我はない・・・??」
「あたしは大丈夫よっルカが守ってくれたじゃない・・・・もう、バカ!!おたんこルカ!!!!」
イリアは少し涙目だった。
ルカは少し自傷ぎみに笑った。
「ごめんね・・・僕が守るなんて、おこがましいよね・・・君の迷惑を考えずにさ・・・」
「迷惑ってどういう意味よ!!」
「だ、だって君の役にたってるかどうかも疑わしいのに、大きな事言っちゃったし・・・」
ルカの空気の壊しっぷりに一同は頭を抱えた。
スパーダがその場の空気を打開すべく、声を上げた。
「しっかしなんだよな!あの眉無し女!!イリアが裏切るだとォ?ああ!!ざけんなッ!胸クソ悪いぜっ!!」
だが打開するどころかイリアはそれを思い出して落ち込んだようだった。
カンナも声をあげる。
「そ、そうですよっイリアが裏切るワケないですよっねっ!!」
「・・・そんなの、わからないじゃない。あたしが裏切るかなんて・・・」
イリアがうつむきがちにそう言った。
「あぁ!!?んで、そんな事いうんだよ!!!オレはお前を信じるぜ、あの眉無しの言う事なんか気にすんな!」
スパーダの必死の説得もむなしく、イリアは「1人にして」とだけ言ってあっちに言ってしまった。
スパーダは構わずイリアを追い掛けた。
「なんや、イリア姉ちゃんちょっとおかしかったでぇ。スパーダ兄ちゃんも相当頭に血ィ昇ってたっぽいしなぁ」
エルマーナの言葉に、カンナはスパーダを振り返った。
落ち込むイリアに必死の説得をしていた。
何故だかそれが、少し淋しかった。
スパーダは仲間を何よりも大切にする人。
だから、仲間が傷付けられ怒るのは当然。彼らしい反応なのに。
カンナはスパーダ対してに感じた事の無い気持ちに戸惑った。
自分を見向きもせず
他の女の子に、あんなにも必死にかまうのが。
気に掛け優しい言葉をかけるのが
悲しいと感じてしまうなんて・・・。
カンナは先日のナーオスでの出来事を思い返した。
前世の事で悩む自分に優しい言葉をくれて、励ましてくれた事、
抱きしめてくれた事
どうして自分だけ、特別だなんて思ってしまったんだろう。
彼にとっては、普通の、当たり前の事だったのに。
・・・考えれば考えるほど悲しくなっていく。
よそう。考えるのは。
自分は、スパーダの女中。
行き過ぎた気持ちを抱いちゃいけない・・・・。
カンナは自分の気持ちに蓋をした。
「・・・ねぇ、カンナ。どうしたのあなたまで沈んじゃって」
アンジュだ。リカルドもカンナを覗き込んでいる。
「あ、いえ・・・何でもないです。あのえとちょっと、チトセさんの事を考えていて・・・」
「あぁ、あの子ね・・・。」
・・・なぜか今の自分に彼女を重ねてしまった。
ルカに斬り付けられるたびに見せたあの表情が、カンナの心を引っ掻いた。
「・・・少し可哀想でした。きっと彼女には悪意はないのに、あんなにも拒絶されて・・・。」
「確かにな。だが惑わされては困る。見ただろう、ガキたちのご乱心様を」
リカルドが肩を竦めた。
「で、でも・・・もしチトセさんが本当の事を言っていたら・・・?」
「では、お前はアニーミを疑うと言うのか?」
カンナは声をあげた。
「疑うも何もっ何故前世の罪を現世で責めるんですか!!そんなの、現世の自分たちには関係がないのにっ!!!!」
カンナは叫んだ後にはっとした。
自分が必死になって自己防衛している事に気付いた。
「・・・すみません。」
すっかり、気を落として前を歩くカンナをアンジュとリカルドが不安げに見送った。
やっと外へ出ると、息苦しさから解放され憂鬱な気持ちも和らいだ。
外はもう夕方で、日が沈みゆくところだった。
一同は今日の宿と夕飯について盛り上がっていたが、次の出港の時間が間もないため泣く泣くアシハラをあとする事にした。
次の行き先はガラム。
一行はそれぞれの思いを抱えながらアシハラを後にした。
だんだんと遠くなるアシハラを甲板から眺めていると、隣で声がした。
「たいした情報も入らんかったのに、ウチらの仲を引っ掻き回してくれよったなぁアシハラは」
エルマーナだ。カンナが苦笑いすると、後ろを指差した。
「あれみてみぃや」
ルカはなにやらうなだれて、イリアは落ち込み1人で暗くなっている。
スパーダはそんな二人をみてカリカリしてコーダに当たり散らしている。
アンジュは困り顔でリカルドは呆れている。
「・・・確かに・・・。」
「だからな、姉ちゃん、ウチらだけでも明るく笑ってようや。笑顔は笑顔を呼ぶんねんて」
時々、本当にエルマーナを尊敬する。
もしかしたら精神年齢は自分より上じゃないかと思う事もある。
「・・・そうですね。」
カンナは自分の中にいるモヤモヤを振り払う。
深く深呼吸して、それから明るく声を張り上げた。
「皆さんっ!!出港前に、アシハラの皆さんがコレ!下さったんですよっ温泉饅頭!!アマードボア退治のお礼だそうですっ」
カンナは饅頭の入った箱を手にもってみんなの元へ向かった。
精一杯笑いながら。