君のいる世界廻る星

□No.14
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「耳を貸すなカンナ。」



スパーダの声が、すぐそばで聞こえた。


「顔あげてこっち見ろよ。血に汚れた魂ダァ?ふざけんな、誰もお前を責めちゃいねーよ」


さらに、地面を踏みしめる足音が、すぐ隣で止まる。

「当たり前じゃないのよ。見くびんないでちょうだい。前世が誰だろーと、アンタはこうまんちきで物騒なあたしの親友よ」


「ガキは本当に世話がやける、もしハスタの元へ行ってみろ俺が引き摺り戻してやる。無傷で済むと思うなよ」


リカルドとイリアの声。


さらにアンジュ。

「ね、みんなはあなたが誰だろうと関係無いのよ。大切なのはカンナの気持ちよ、もしかしてあの人の所へ行きたい??」

「いっいえ!!!まさか!!!!」

カンナはガバッと顔を上げた。

やっと上げた、涙に濡れたカンナの顔を見てアンジュが優しく笑う。


「なぁに、ベソかいてんねん姉ちゃん。ほんっとまだまだ手ぇ離せへんなぁ」


「うん、ほんと。カンナは僕たちの仲間だ。君の正体は今のを見てもう全員が知ってる。だから何があろうと僕たちは君を助けるよ」


「・・・・・みなさん・・・・・・っ」


カンナは涙を拭いた。



「こうしてカンナちゃんは仲間たちと絆を深め、全員俺に皆殺しにされるのでしたっめでたしめでたし!」

ハスタの飄々とした声が、雰囲気をぶち壊し、一行は鬱陶しそうにハスタを見た。

スパーダがカンナの前に立つ。

「うるせぇ野郎だぜ、テメェの軽口聞いてっと耳が腐んだよ!!!」



「えーっと、どなた様?あ、ひょっとしてデュランダ…何とかさん?」

ハスタはスパーダの前世がデュランダルとわかると目付きを変えた。

「テメェは変わんねぇなぁゲイボルグ。やっぱり薄汚ぇ魂ごとぶっ潰さなきゃならねぇみたいだ」


「・・・・・そういや、なんだっけ?今のお前の名前。えっと、"できそこない"?武器のクセに命のやりとりを楽しめない…っていうのは立派な病気だな」


スパーダ視界を妨げる帽子の縁をずらしハスタを睨む。


「バルカンの後始末は息子のオレの宿命ってヤツだ。魔槍ゲイボルグ…オレがバルカンの名にかけて貴様をへし折ってやるぜ!」


ハスタは赤い槍をスパーダに向け構えた。
スパーダも双剣を抜く。


「さあ、来いよ!殺人鬼!オレ達を生み出したバルカンにこの戦いを捧げようぜ」


「お前の死に様をな。行くんだぷー」


聖剣デュランダルと魔槍ゲイボルグ。

2つの魂が時を越え、ぶつかり合った。








勝負あり。


激闘の末、勝ったのはスパーダ。

ハスタはボロボロになって地面に座り込む。

「…さあ、これでコイツとの縁もお仕舞いだ。リカルド、とどめを頼む」

スパーダは双剣を鞘に納めると静かにそう言った。

「仰せつかった。では、動くなよ?」

リカルドが銃口を向ける。

だが、ハスタは往生際悪く得意の軽口で一行に交渉を迫った。
今にも殺されそうだと言うのに、その顔には焦りが無い。

「よし、聞くんだ、良い子達。こういうのはどうだろう?オレの命を助けて、仲間に加える、という案は?今時感タップリな展開じゃないか」

「あーあーあーあー。聞こえないきーこーえーなーいー!ほら、さっさとヤっちゃえ」

イリアの悲鳴にも似た叫び声とともにハスタの案は否決。

「イリア、あなたも変になっちゃったの?」

「コイツの近くにおったら、頭ん中汚染されんのとちゃうの?はよ、駆除せぇへんと……」


始めから仲間に加える気は1oも無かったが、一応ながれでルカがハスタへ問い掛けた。

「君の案、女性陣は否決しているよ?きっと却下されるね」


「おいおい、オレの脳内会議では過半数で可決なんだぜ?矛盾矛盾!大いなる矛盾だ!オレを許すとアレよー?甘い汁吸い放題ダヨー、シャチョーサン?」


リカルドから、この前はハスタの見事な逃げっぷりに感心したという話を聞いたが、
カンナもこれには感心してしまった。

確かに、見事な命乞いだ。


「甘いのな、しかし。コーダは甘いの好きだぞ」

イリアの影に隠れたいたコーダが甘いを聞き付けて姿をあわらした。

「だろ?君の飼い主達は甘味の素敵さを知らないんだ。説得してもらえないかい?」

「ネズミに何を吹き込んでるのよっ!もう、待てない!引き金ならあたしが引くっ!」

イリアがハスタに拳銃を向ける。気合いが入って二丁とも。


「よし、案その3だ。…その2はどうしたっけ?いや、そんなのどうでもいい。この情報を聞けば、考えはコロリと変わる。山の天気のようにっ」

「イリア、リカルド、弾丸は入ってるか?」

スパーダがうざったそうな顔で言った。
二人は頷く。


「待った待った!言うから、言うからさぁ!!…えーっと、坊や?ちょっくら耳貸して。返すから」


ルカを手招きするハスタ。
ルカは首をかしげて近づいた。


その時、ハスタがにやりと笑ったのを、カンナは見逃さなかった。


「待ってくださいルカ。」


カンナはハスタの前のルカの腕を引っ張り、ハスタの額に銃を突き付けた。

「この人はそんな甘い人間じゃない。長引かせても時間の無駄、自分がやります。」


ハスタはこれから殺されるというのに何故かその目は期待に満ちていた。


「・・・・あなたといた頃も楽しかった。ですが、これでお終いです。
さようならハスタ」



カンナは銃の引き金を引いた。















カチン








銃からは、弾は出ず、かわりに虚しく引き金の音が響いただけ。


「引っ掛カッタ〜」

ハスタが力を振り絞り、槍を振るう。

カンナは一瞬にして悟った。

ハスタがさっき不自然にカンナへ銃を投げた時、もうその時には弾が抜かれていたんだ。

だがもう手遅れ。
視界の隅には赤い槍が見えた。



・・・・しまった・・・・・。


甘かった。ハスタは易々と敵に武器を渡すような奴じゃない。



カンナは覚悟して目をつむった。




ザシュ



肉に刃が突き刺さる音

そして顔に生暖かい血が飛び散る感覚。

だが、痛みは感じない。


次の瞬間、カンナに誰かが倒れ込んだ。目を開けて、やっと状況を理解する。

自分にもたれかかるルカの背から槍が抜かれ、血が吹き出していた。


ルカが自分を庇ったんだ。



頭が真っ白になる。



「ルカあああ!!!!!!!!!」


イリアの悲鳴が響き渡った。




「前世で俺を求めたように、いずれお前は必ず俺を求める。」


ハスタはカンナにそう呟き、崖から飛び降りた。


ハスタの生死。

そんな事はどうでも良い。




ルカの傷から吹き出す生暖かい血が、カンナの太股をぐっしょりと濡らした。

ショックで動けない。
こんな時に、こんな時に。


ルカの顔が溢れる血と一緒にみるみる蒼白になってゆく。


リカルドがみんなに的確な指示を出すが、そんな言葉は耳には入らず、
ただ、イリアの叫び声だけが鮮明に響いた。





「やだ、やだやだやだっルカっルカぁぁぁ!!!!!!!!!」
















あれから何時間が立っただろう。

みんなは祈るようにして、廊下に突っ立っていた。


カンナは血の気が引いたように真っ白で、イリアはその隣ですすり泣いていた。

スパーダは早く止めをささなかったからと自分を責め、エルマーナは必死に泣きそうになるのを堪えていた。


「うっうぅぅ・・・ルカ・・・・ルカぁ・・・・」

イリアはずっと泣きっぱなしで、目は真っ赤に腫れていた。
そんなイリアを見て、スパーダは苦しそうだった。

「すまねぇ・・・・俺のせいだ・・・俺の・・・だから泣かないでくれよ・・・」


そう呟いたスパーダの胸ぐらをイリアは物凄い勢いで掴む。

「そうよ!!!!そうよそうよ!!!!!あんたがいつまでもモタモタしてたからっ」

スパーダは何も言わない。
カンナは興奮するイリアを押さえた。

「イリアっ落ち着いてくださいっ!!!!!今そんな事言ったって・・・」

「うるさいっ!!!!」

イリアはカンナの手を振り払った。

「カンナだってあの時弾が入ってるかちゃんと確認してればこんな事にはならなかった!!あの時ルカがあんたを庇わなければ・・・」

イリアはそこまで言うと、ハッとして
そしてさらに大粒の涙をポロポロ流す。


「ごめ・・・ん・・・、何かに当たらないと頭がおかしくなりそ・・・・あたしだって引き金をひかなかったのに・・・」


「・・・・・っ」

カンナはイリアに抱き付いた。
イリアは震えながら、でもしっかりとカンナの背中を抱き締める。


「ルカが死んだらどうしよう・・・、どうしよう・・・あたしどうしたらいいか・・・あたしが、連れ出したの・・・あたしがルカを・・・・うわぁぁぁぁん」


「大丈夫、大丈夫ですよ。ルカは死にません。死にませんから・・・」

カンナは根拠もなしに、なんども呟いた。
ただそうであってほしいという願い。

自分にも言い聞かせるように、何度も何度も。


ルカがああなったのは自分の責任だ・・・

もし、ルカが目を覚まさなかったら一生この苦しみを背負う事になる。

ルカを助けられなかった罪悪感と悔しさ、何も出来なかった情けなさ。

そして、何よりも

あの気弱で誰よりも優しいルカが死んでしまうのを考えると、胸が張り裂ける思いだ。



死なないで、ルカ。



お願い、お願い。





「お前ら、ずっとここに居たのか、部屋に戻れと言ったろう」


リカルドがルカの居る部屋から出てきた。続いてアンジュも。

「ウチらだけ休んでられるかいな。・・・ルカ兄ちゃんは!!?」

エルマーナが駆け寄ると、アンジュが優しく笑った。


「大丈夫よ、峠は越したって。もう命に別状はないわ」


「ま、まじかよ・・・良かった・・・良かった」


スパーダは緊張が解けたのか、その場にしゃがみ込んだ。

イリアも涙を拭う。

「ふ、ふん!!!当たり前よっルカが死ぬわけ無いんだからっ!!!!」


カンナとエルマーナは顔を見合せた。

彼女の精一杯の強がりなのだろう。

「先輩、中には入れないんですか・・・??」

「あぁ・・・もう暫く面会禁止。だが明日の朝には大丈夫だろう」

リカルドの言葉に、思わず笑顔がこぼれた。


「はぁ・・・本当に・・・良かった・・・。でもなーんかホッとしちゃったらお腹すいちゃったなぁ」

気の抜けたアンジュの言葉に、一同は呆れたが、でも確かに朝から何も口にしていない。


「店ももう開いてないだろうし、宿に何かあるか、聞いてきます。」


カンナはそう言って、一行から背をむけると廊下を走って行った。


途中、ほっとしたのと嬉しいのでじわりと涙が滲むのをごしごしと袖で拭う。


「良かった・・・本当に良かった・・・」


そう消え入るように呟いた。








to be continue No.15


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