君のいる世界廻る星

□No.15
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きっと私は、世界のずっとずっと隅っこの誰も入れず出れもしないこの場所で
命果てるまで独りで生き続け、独り淋しく死んでゆくのだろう。



幾度となく死を望んだ。


よもやそれすらも叶わぬ夢。

命の女神である己の体。寿命は永遠ほど永く、死のうにも強い生命力が邪魔をする。


このまま永遠にこの孤独が続くのだろうか。



これこそが、厄災を封じられた者の運命なのだろうか。

暗く冷たい檻に閉じ込められ、誰にも会えず、外の世界とも遮断され、死ぬことも叶わず、


ただ己の精神が壊れてゆくのをゆっくりと待つばかり。



私は恨んだ。

私を産み、厄災を封じた母を。


そんな私を育て、あげくこのような場所へ閉じ込めた、義母ヴリトラを。



シオは感じていた。

この真っ黒な感情と共に、内々から厄災に喰われる日が近づいている事を。


「喰うなら早く、喰ってくれればよいものを・・・これでは生殺し・・・厄災という者は本当に非情なのですね・・・。」


ふと、檻の外から光がシオを照らす。


『強い波動に惹かれて来てみれば、ナンダァ、只の不死の小娘かよォ、ハズレだぜ』


それはそれは美く輝く、クリスタルの槍だった。

シオは夢を見ているのかと思った。
此処は天上の荒れ果てた荒野の厳重に張られた結界で隠されたの牢獄。
簡単には入れないはずなのに。


その美しい刀身に、シオは見とれる。光を目にしたのはひどく久しぶりな気がする。

小さくつぶやく。


「あなたは・・・天使?」




そのとたん、あたりは暗闇に包まれる。


やがてぼんやりと、ハスタが暗闇から浮かび上がる。


カンナは悟った。

これは夢。


ハスタはカンナを光の無い瞳で見据え、にやりと笑う。


「前世で俺を求めたように、いずれお前は必ず俺を求める。」


カンナは力強く首をふる。



「嘘です。自分は、何があってもあなたを求めたりしない。



自分はシオではなくカンナで


あなたはゲイボルグではなくハスタだから。


あの時とは違う。

ただ死を待ち、己を捨てたシオとは違う。



自分には今、守るべきものがある。守るべき仲間たちが」




「へぇ、本当にそれ守れているの?君の自己満足じゃない?」


ハスタが掻き消されたと思えば、その輪郭からルカが現れる。

カンナは小さな悲鳴を上げた。

その姿はまるで亡霊。
青白い顔、やつれた頬、そして腹部からはどくどくと血がとめどなく溢れていた。


「ほら、血がこんなに出てる。はやく守ってよ、僕このままじゃ死んじゃうよ。」

ルカが血だらけの手をカンナへと伸ばす。
カンナは足がすくんだ。

ルカじゃない・・・。

「ねぇ、ねぇ、ほらはやくはやく!!!!もし僕が一生目を覚まさなかったらどうするの??責任とれる?もちろんとってくれるよね。だって君がちゃんと僕を守らないから」


誰・・・・誰・・・・!?

ルカの手がカンナの喉元に触れる。その瞬間首を折る勢いで力が入る。


「うっ・・・・!」


カンナの体は簡単に持ち上げられる。

夢なのに、これは夢なのに・・・・


苦しい・・・・!!!!!


「君の体をちょうだい。それで許してあげるから、君の罪を。」


カンナは霞む視界のなか、ルカを見た。だがそれはもうルカをかたどっていない。


・・・・・・・・・・シオ。


響き渡る高笑いの中、カンナは意識を手放した。






瞳から溢れた涙の感覚に目が覚める。

夢…?

ぼんやりとしているせいか、恐ろしい夢を見た気がする。

内容が思い出せない。少し息苦しい気もする。


カンナは不安を覚えながら、起き上がる。

空はまだ薄暗く隣にはイリアがぐっすりと眠っている。
起こさないように静かにベットから出て、着替えを済ませようと鏡を見る。


そしてぎょっとした。


首にはしっかりと手の跡。
痣になっている。


すぐにぼやけていた夢の内容を思い出す。


「やっぱり、厄災はまだいる。」


前々から自分の中にあった不安が確信えと変わる。


しっかりしないと、弱みを見せては取り込まれる。




カンナは憂鬱な気持ちを振り払う。気分転換に外の空気を吸いに宿屋を出た。



宿屋の外に出ると見慣れた彼の姿。なにやら両手に剣で謎の動きをしている。


「…スパーダ、何やってるんですか!?」

カンナの声に驚いたのか、少しびくついてスパーダは振り返った。

「うぉっカンナかよ…驚かせんな」

「驚かせんなってこっちのセリフですよ。何やってんですか警察呼ばれますよ」

カンナはスパーダに近づいた。


「…もしかして寝てないんじゃないですか?」

「お前こそ、寝れないのかよ」

「いや、自分はぐっすりでしたよ。おかげで怖い夢みて早起きしちゃいました」

「んだよその理由。ダセェな」


…スパーダの顔がやつれてる。
大方、一晩中稽古でもしていたのでしょう。

彼も不安なのは同じなんだ・・・。


「たまには散歩でもしましょう。」

「…?」



カンナはスパーダを連れて、入り組んだ路地の先の急な階段を登った。

「おい、どこ行くんだよ。」

「昔住んでいた時にお気に入りの場所です。家出してた時によく行ってました。」

「…お前、家出って…」

「してましたよ。よく。スパーダとお揃いです。」

どんな顔をしてるのかと振り返ってみると、案の定バツが悪そうだった。

「…俺は何も言えねぇ」

カンナは少し笑ってしまった。


「さぁ、つきました!」

ついたのは小さな空き地。ずいぶん階段を登っただけあって、街を見渡せる。

「ほら、そろそろ朝陽出てきますよ」

カンナが東の方向を指指した。
強い光がガラムをぐるりと囲む山々の隙間から漏れ出した。

「…スゲェな…」

二人は登っていく朝陽を階段に腰掛けて眺めた。
しばらくは無言で眺めていたが、ふいにスパーダがぽつぽつと話し始めた。


「後悔なんて意味がないってわかってる。でも、ルカがああなったのは俺のせいだ」

スパーダを見つめた。
珍しい、彼が弱音を吐くのは。

「考えれば考えるほど悔しくて、眠れなかった。今度こそ、今度こそ守ってやりたいと思ってたのに…」



・・・・こんな時、口下手な自分を恨んだ。

優しい言葉の一つ、かけてやるのが普通だろうに。
言葉が見つからない。

「…スパーダ」



カンナを見るスパーダ。カンナはばっと腕を広げた。


「泣きたい時は、自分の胸で泣いてくださ…!!」


こんな時に半分冗談だったカンナは、
言い切らないうちに求めていたように思い切り抱きついていたスパーダに少し戸惑った。


「…言っとくけど。泣いてねぇから、


……でもしばらくこのままでいさせてくれ」



…冗談半分で言った事を少し後悔した。


スパーダは本気で悩んでいたのに。


責任感が強い彼の事だ、きっと慰めなんて聞き入れず自分を責めるんだろう。


だから、すがりついて来た彼を、精一杯受け止めよう。

それが自分が彼にしてあげられる精一杯だから。



カンナはスパーダの背中に手を回し、ぽんぽんと背中を叩いた。


早朝の冷たい空気に冷えた体がくっついた所からじわざわ暖かくなっていくような気がした。


二人は暫くそうしていた。




「あー…なんかスッキリしたぜ!!キレーな朝陽とお前の柔らかーい胸のおかげだな」

帰り道、スパーダが階段を下りながら本当にスッキリしたいい笑顔で言った。

「…自分は何も言いません。ヨカッタデス、元気ニナッテ」

「おい!ツッこめ!ツッこんでくれ、これじゃあまるでオレ変態みたいじゃん!!」

「いや、まごうことなき真実じゃないですか」

「てめ!」

二人はいつものようにじゃれつきながら一緒に帰った。


スパーダと二人でこうしているのは、なんだか久々な気がする。
やっぱり、自分にとってこうしている時間が一番幸せで。



「なぁ、そう言えば、イリア平気だったか…?泣いてなかったか…?」

スパーダは気まずそうにそう言った。
なんだかちくりと胸が傷んだが、カンナは柔らかく笑った。

「…えぇ。大丈夫。イリアぐっすり眠ってましたよ」

スパーダは「そうか」とそれだけだったが、安心したようだ。


「・・・・・・スパーダってもしかして・・・」


「ん?何だよ」


はスパーダをじっと見つめた。

「やっぱり、何でもないです・・・」

スパーダは不信そうにカンナを見る。カンナは無理やり目をそらした。

「なんだよ!」

「な、なんでもないですって!自分はスパーダを応援してますよ」

「は?何を??・・・まぁ有難てぇけどよ」


スパーダが誰を想っていようと関係ないです。

たとえ、あなたが誰を守っていても、そんなあなたを守るのが自分の仕事ですから。


だから、寂しいや悲しいなんて言ってられないですよね。




宿に帰ると真っ直ぐにルカの部屋へ向かう。
今朝からは面会禁止が解除されるからだ。


部屋へ入るともう、全員集まっていた。

「ルカは、どうだ…?」

スパーダがすぐに横になるルカへ駆け寄った。

ルカはまだ目を覚まさないようで、静かに眠っている。

「うん、傷は順調に塞がったみたい。驚異的な回復力なんですって。
…でも目を覚ますかは、ルカ君次第ってところね」

カンナはぼんやりとルカを見つめた。

夢の中の彼を思い出す。


「ルカ…早く目を覚ましてください…」

自分はずるい。
はやく目を覚まして言ってほしいのだ、大丈夫だよ、と。

そんな自分が情けなくて嫌になる。
カンナは目を背けた。



「と、こうしてミルダが目を覚ますまで見つめている訳にもいかんだろう。」

「たしかになぁ。ルカ兄ちゃんはこの通り無事な訳やし、ウチら順番子でガラム観光でもしぃひん?」


リカルド、エルマーナがルカを尻目に発案した介抱とガラム観光ローテーションにより、二人ずつルカを見て、その他は遊びに行く事にした。

イリアは自分からルカを見たいと言うので一人決定。

「じゃあもう一人はじゃんけんね、ハイさーいしょーは「待って下さい」

アンジュを止めたカンナに視線が集中した。


「スパーダを推薦します。」

「はぁ、なんでだよ、べつにいいけどよ・・・」



という事で、イリア、スパーダをルカ係に。それ以外は遊びに行く事になった。



「ねぇカンナ・・・さっきの推薦なんだったの?」

部屋を出てからアンジュがみんなが思ったであろう謎の推薦についてカンナに問い掛けた。


「あ、アレですか?名付けて恋のキューピッド大作戦って奴です。」

「「「は?」」」

アンジュとエルマーナ、そしてリカルドは思わず同時に声を上げた。

「いやぁ、良い事しました。自分キューピッドの才能あるかも!」

とかなんとか訳のわからない事を言ってカンナは先に宿を出た。


「・・・まさかとは思うけど、スパーダ君とイリアを・・・じゃないよね?」

「あぁ・・・・そこまで愚かじゃないと信じたいが・・・。」


「カンナ姉ちゃんならありえる話やで。・・・・・はぁ、スパーダ兄ちゃんが気の毒やなぁ」

エルマーナの言葉に二人は深く頷き、ため息を吐いた。


「ここまで来ると、鈍感っていうのも立派な罪ね・・・」






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