君のいる世界廻る星

□うわごと
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「ご長男様は国王陛下から表彰されたって聞きましたよ、なんでもご趣味の乗馬中の事故から見事救ったとか。」


「それは大変名誉な事だわ。次男様も同じく騎士団で貢献なさっているそうだし、本当に立派ね」


朝一番に嫌な奴らと同じ仕事に当たったものだ。

カンナは朝食用の食器を磨きながら聞こえないフリをする。


ご長男が表彰されたのはもう1週間も前の事。
それを毎日毎日飽きずにカンナに聞かせる理由は嫌になるほどわかってしまう。


「他のご兄弟もベルフォルマ家の名を上げるのに貢献なさっているのに、スパーダ様と言ったら・・・」

テーブルセッティング中の彼女達はちらりとカンナを見た。
カンナはもちろん無視。

それが彼女達の怒りをヒートアップさせるようで、嫌味話の声を少し荒げる。

「ベルフォルマ家の名を落とすだけでは飽き足らず、ついにはあんな子まで連れてきて、本当に迷惑だわ」

聞いては行けないと思いつつも、スパーダの悪口となるとどうも頭に血が上る。
自然とフォークを磨く手に力が入った。


「学校も行かないならば、もう出ていけば良いのに。夜遊び歩いてばっかりだからあんな女の色仕掛けに引っ掛かるのよ」


胸の中の懸命に圧縮したモヤモヤが一気に弾ける気がした。
カンナは勢いよく振り替える。

「うるさいんですよ、黙って仕事も出来ないんですか!!!?つまらない事をグッチグチと同じ事しか喋れないんですか?!アッタマ悪いなぁ、この陰湿陰険女!」

一回ぶん殴ってやろうと、暴言を吐きながら二人に近づく。

二人のメイドはカンナのあまりにも凄い形相に、小さく悲鳴を上げて後退る。


「カンナ!!!!」


その瞬間、屋敷を揺らすような怒鳴り声が響く。

カンナはピタリと足を止めた。


「持ち場に戻れ!!!仕事中だぞ」


執事長だ。
だが問答無用にカンナは声を張り上げる。

「嫌ですっ一発だけ、一発だけで良いからあいつら殴らせてください!!!!」

興奮するカンナに執事長は深いため息をついた。

「言葉使い!!!!まったくお前は少し頭を冷やして来い。話にならん。」


「本当よ、殴るなんて野蛮だわ!どうせ下町育ちの薄汚い女なのよあの子」

カンナはメイドの一人を睨みつける。彼女も同じように睨みかえした。


「カンナ!!!」

その声に、握り締めていたフォークを置くと、不服そうな表情を浮かべながらカンナは部屋をでた。


カンナが部屋を出るのを確認すると、執事長は冷たくメイド二人を睨み付けた。


「さて、話を聞かせて頂きましょうか」








馬から落ちた王様の下敷きになる事が、ただ王宮の警備に突っ立ているだけが、

そんなに立派な騎士の在り方?


カンナは怒りを抑えながら、長い廊下を踏みならす。


そもそも従者である自分達が主人の評価をするなんて、どうかと思いますけど!!!!



廊下の一番奥の突き当たりの部屋にカンナは小さく2回ノックをした。

・・・返事は無し。
まだ寝ているのだろうと、静かにドアを開けて中に入る。


広い部屋の大きなベッドから、緑色の髪だけが、少しだけはみ出ていた。
主人の眠るベッドに向かうと、カンナは一気に毛布をひっぺがす。

高級羽毛布団というやつで、羽のように簡単に毛布が浮く。

「さみっ!!!!」

寝間着姿のスパーダは、体を小さく縮める。
それが妙に可愛くて、カンナは小さく笑いをこぼした。

「ほら、坊っちゃん朝ですよ。ら起きて下さい」

「無理、寒い、眠い、毛布かけてお願い」

「もう・・・ちょっとはちゃんとして下さいよ。せめて学校へ行くとか・・・。まぁ良いです、今朝食もって来ますから、起きてて下さい」


カンナは丸くなるスパーダに背を向ける。その瞬間、袖を強く引かれて後ろへ倒れる。

柔らかいベッドがクッションななったと思うと、視界が真っ暗になり引き寄せられた。

がっしりと背中に腕が回されたのは、カンナがようやく状況に気付いた時だ。


「ちょっちょっとスパーダ!!!寝ぼけてんですか!!?」

カンナはスパーダを引き離そうと、肩を押し返すが、そのたびに抵抗されがっちりと抱き締められる。

「うっせぇな良いから寝かせろよ、命令めいれい」

寝ぼけた声が耳元で聞こえたと思うと、スパーダは丸まって、カンナの胸元に潜り込んだ。
カンナはびくりと体を揺らす。

「ひゃっ!!!?すすすすぱーだ!!?どこ潜ってんですか殴り飛ばしますよ!!?」


「いやーあと五分・・・」

すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てるスパーダを、引き剥がそうとするが、
寝てるくせに凄い力でカンナを離さない。

カンナはとうとう降参して、力を抜いた。
と、思うとスパーダまたカンナを引き寄せる。

「・・・このすけべぇ。抱き枕代は高くつきますよ、五分で10000ガルド。」


そんな事も気にせずにスパーダはカンナ抱き枕を堪能しながらお休み中。



さすが高級羽毛布団なだけあって柔らかくてフカフカのベッドに体を静めるのは気持ちが良い。
寝ぼけたスパーダは体温が高くて温かいし、何だかそのうちカンナも眠くなって来る。


こんな所を見られては、またあの人達になにか言われるな。

ぼんやりとそう思ったが、なんだか抵抗するのにも疲れてしまった。


自分が悔しがったって仕方ない。

そんな事に意味はないのだから。


カンナはスパーダが熟睡したのを確かめると、彼の頭に抱くように腕を回した。


「何番目に生まれたかなんて関係ないのに。スパーダはスパーダ。カンナは何があってもあなたの味方ですからね」


何があっても、自分があなたを助けます。


誓うようにつぶやいた一言に返事は無く、ただ、スパーダの寝息がカンナの胸元にかかる。



温かくて柔らかい毛布の中にいるからなのか、


はたまた、スパーダといるからなのか。



いつの間にかさっきまでの怒りは消えていた。



柔らかい朝陽が2人を包み、ゆっくりと訪れるまどろみの中カンナは浅い眠りに落ちた。






「ばかな女、」






彼がそうささやいたのは寝言か、真言か。









【うわごと】
(その一言がオレをどれだけ引っ張り上げているのか)(お前はきっと知らないんだろう)






*

遅くなってしまいましたが妣菜朶さまのリクエストの「スパーダで甘甘」でした。書かせて頂いちゃいました(●´∀`●)

甘甘なのか??これは甘甘になっているのか(´・ω・`)??
妣菜朶さまっ、絶賛苦情受付中、さらには無期限クーリングオフでございますので、いつでも書きなおし致します!!





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