君のいる世界廻る星

□No.17
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頬をざらついた舌がつたう感覚に目を覚ます。


「ケル、ベロお早う」

『ワン!!!』

主人の目覚めに、ケルとベロは嬉しそうに尻尾を振る。

シアンは二匹を撫でながらふと、焚き火の燃かすの向こうに目を向けた。


葉を何枚も重ねた即席ベッドに横になっているカンナ。
枕に太めの木の枝を敷いている。

「・・・バカだろ。そんなのしてたら首おかしくするぞ」

シアンはボソリと呟くと、タオルやら服やらが干してある木へ歩いた。
適当なものを手にとって、適当に丁度良い高さに折ると、カンナの下へ静かに戻る。


ケルとベロは何事かと主人の周りを飛び跳ねた。

「こら、静かにしろ。こいつが起きるだろ。」

二匹を静めると、起こさないようそっとカンナの頭を持ち上げた。

「ん〜・・・」

「っ!!!?」

カンナは眉間にシワを寄せ寝返りを打ってむにゃむにゃ言った。

起きたかと思って心臓が飛び跳ねたシアンは起きる様子のないカンナにホッとして素早く頭を持ち上げ布を敷いた。

木よりも高すぎず固くない枕に満足したのかカンナの表情はどことなく和らぐ。


「・・・」


シアンは眠るカンナをなんとなく見つめた。




こいつはなにか変だ。

マティウス様に協力せずむしろ邪魔する敵なのに、

こいつにとってオレは人質にして仲間から引き離すような敵なのに

こいつはオレを好きだと言った。


好きなんて気持ちはわからない。

好かれたこともないし、好きになった事もないから。

けどそれは、

オレがケルやベロを大切に思う気持ちと
マティウス様を信頼する気持ちと
同じようなものなのだろうか。



なんとなく、昨日繋いだ手を見てみる。


「人の手って温かいんだ」


「人によりますよ。冷たい人もいるし」

「おわっ!!!?」


シアンは一瞬でカンナから数メートルあとず去る。

カンナは目を擦りながら眠たそうに起き上がった。

「お早うございます。今何時ですか・・・?」

シアンは慌てながら空を見上げて太陽の角度を測る。

「だっだいたい7時くらいだ!!!」


「なるほど。では食事をして、作戦を実行しましょう」


ギラリと光るカンナの瞳に若干の不安を覚えたが、シアンは一応聞いてみる事にした。

「さ、作戦ってなんだ・・・」

「復讐ですよ、復讐。ジャングルに置いてけぼりくらった傷は深いですよ・・・みてろあいつら・・・」


そう言って高笑いするカンナを見て、シアンは先程なけなしの良心で枕を替えてやったのを後悔した。






二人と二匹は記憶の場に先回りし、通り道に落とし穴を掘った。
シアンに至ってはカンナに命令されて不可抗力。


穴を隠し終えてカンナは笑顔で完成と呟く。


「復讐ってお前・・・こんなんでいいのか???」

「はい、完璧ですよ。これは誰も気づかない。さ、やつらが来るまでここで待ち伏せしましょ」


シアンは誰が見ても一瞬で落とし穴だと気付くだろうと思ったが、カンナは満足そうだし忠告すればまた仕事が増えそうなので黙っておくことにした。

カンナとシアンは茂みの奥に隠れ、ルカ達が来るのを待ち伏せることにした。


「・・・お前の復讐はあの穴に落とせば終わるのか?」


ふと、シアンがこちらを見ずに言った。


「んーそうですね。さらに泣いて謝れば許してやります」


そう言ってにやりとするカンナにシアンは納得できなかった。
「お前は置いていかれたんだぞ。見捨てられたんだぞ、なんで許すんだよ、そんな奴らは敵だろ」

「こんな事で切れるような、やわな絆じゃないんですよ。仲間っていうのは。」

カンナはにっこり笑った。

「まぁ今回は流石にムカつくんで絶望の穴に突き落としてやりますけどね。」


「・・・そんなのオレにはわからない。そんなの裏切りと一緒だろ」



頑なに裏切られる事を恐れ、許す事を拒むシアンは

他人と深く関わりを持つ事を避けているように見えた。


カンナはまるで昔の自分を見ているかのような気持ちになった。


他人が、みんな敵に見える。

彼の育ち方を考えるとそうなるのもわからない事もないが、

やっぱりそんなの悲しい。


「シアン。自分たちと一緒に来ませんか?一緒に・・・来てほしい。」

「え・・・」

シアンは目を見開き、そのあと悲しそうな顔をしてカンナから背けた。


「バカか・・・オレは敵なんだぞ。オレは・・・オレはお前たちの・・・」


その時、向こうから仲間たちの声が聞こえて来た。



「来ました!!作戦開始です。」

二人は息を潜めた。




一向は何も知らずこちらへむかってきた。

「ぜんらの〜ぜんらのブルース〜トゥルース〜」

「ちょっとエル。そんな歌うたっちゃダメよ。下品だから。」

「聞けば聞くほど耳から離れんなその歌」

「さすが、罪深ぇブルースだぜ」


「あぁ、本当に心が震えるよ・・・」

「・・・あたしあんたたちが分かんないわ・・・」



カンナは茂みから、彼らの様子を覗き見て小さく舌打ちした。

「探そうともしない。完全に忘れてますね・・・あいつら・・・潰す」

シアンは隣で、仲間の絆とかほざいてたのどこのどいつだよ。と言いたかったが、作戦中なので呑み込んだ。



「・・・!止まれ・・・コレは・・・」

何かに気付いたのか、リカルドが皆を制止する。

「これ落とし穴じゃないかなぁ?」

ルカは二人がセッティングして隠した土の部分を凝視した。


「ちっもう気付くとは、さすが前世はアスラ・・・唯者じゃないです」

「いや、関係ないだろ。」


作戦通り、ルカ達は落とし穴の前で立ち止まる。


「ったく本当におたんこルカね。ジャングルに落とし穴つくるってどんなターザンJr.よ。これはアレよ。もぐらの巣」

「いや、もぐらも流石にこんな道の真ん中に巣は作らないと思うよ?」

「あぁ〜兄ちゃんらわかっとらんなぁ。これはアレやで。ガルポスオオトカゲのうん「エル、下品よ」

「なるほどここにアレして埋めたんだな。どんだけデケェのしたんだよガルポ「・・・・下劣。ハァ・・・・」

「えっ何かアンジュオレに厳しくない?ため息とか、えっ?オレそういうの傷付くタイプだよ?」


「・・・・全くお前らの脳ミソは脱脂綿か。これは誰がどう見てもお墓だ」


(どう考えても脱脂綿はお前の脳ミソだろォォォ!!誰がどう見てもコレは立派な落とし穴だよッ!!!)

シアンは叫びたくなるのを必死にこらえる。

「お前達の仲間は全員脳ミソ腐ってるのか?」

「はい、自分以外は大体腐ってます。」

「いやお前も十分に腐ってるだろ。・・・ってオイあいつらアレお墓だと思って避けて行ったぞ」


シアンの言うとおり、目線を一行にもどす。

彼らは落とし穴に向かって手を合わせてから、綺麗に穴の部分を避けて記憶の場へと向かって行った。


「本当にお墓だと思ってやがりますね・・・こうなったら勝負にでます!帰り道を襲撃です。」

「・・・もう勝手にひとりでやってろ。これからはオレの仕事をする。」

「えーひどいですよ!復讐最後まで付き合って下さいよ!!」

カンナは軽く傷ついたような顔をしてシアンに近づく。
シアンはわざと、嫌そうにする。

「やめろ、鬱陶しい!とにかくオレはもうお前には協力しない!復讐でも仲直りでも勝手にしとけ。」

突き放されたカンナは少しむくれた。

「そういう言い方しなくても・・・」

「勘違いするなよ。オレとお前は敵なんだ。」


顔を背けるシアンにカンナは悲しくなった。
それと同時にもどかしくもなる。


「・・・そうやってわざと突き放して、他人との距離を保とうとするんですね。期待して裏切りられるのが怖いから」


「違う!!!!オレは・・・オレは人間が嫌いなんだ!!!オレは仲良くなんてなりたくないんだ・・・友達なんて、いらない!!!!!」


まるで胸に刃物が刺さったかのように顔を歪めたシアンに、心が抉られるようだった。


わかって欲しいのに、あなたを嫌ってはいないという事を。


あなたに近づきたいという事を。


瞬間、あたりが光に包まれる。

きっとルカ達が記憶の場に触れたのだろう。

意識が遠い昔へワープする。









天空城の2つ塔の天辺に、2人は居た。

雲の地平線に落ちる夕陽を眺めながら、アスラが呟く。

「創世力・・・。『献身と信頼、その証を立てよ。さすれば我は振るわれん』・・・か」


センサスに古くから伝わる、創世力を発動させる方法。

己の献身と信頼を捧げるに相応しい者。
その者の命を生け贄としなければ、創世力を発動させることは不可能・・・。

アスラの脳裏には嫌でも、彼女が浮かぶ。

最愛の恋人、イナンナの姿が。


「お悩みのようでございますな」

塔の片割れに立つオリフィエルが、そんな彼を見兼ねて言った。

「あぁ、俺は迷っている!なぜ、何ゆえ、このような方法でしか力は使えないというのか!」


大切な者を手放さなければ、願いは聞かぬと言うのか。


「ふむ、この辺りラティオとセンサスでは解釈に相違があるようですぞ?

『献身と信頼』その双方を満たす者。つまり己の半身となり得るほどの近しい者と共に、力を行使するのです」


「そうか、なるほどな・・・。信頼を以て、か。ははは、これはいい!素晴らしい!」





そこで、カンナは現実に引き戻される。

シアンを見ると、もちろん彼にも見えていたようで難しい顔をしていた。


「シアン、今のは・・・」

「あぁ・・・確かに、正しい創世力の発動方法。・・・だけど・・・」


「だけど、どうしたんですか?何か問題が?」


・・・創世力を手に入れたとして、


マティウス様は・・・誰とそれを発動させるのだろうか。

献身と信頼を、その双方を満たすもの。

あの人にはそんな人いるのか・・・?

自分の名を呼ぶ声に、シアンははっとした。

記憶の場からルカ達が戻って来る。

「シアン、行きましょう。」


カンナに手を引かれ、茂みから出る。





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