君のいる世界廻る星

□脱走奮闘記
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空ばかりを見つめた。

意味もなく、ただぼんやりと。



出来るだけ現実を、視界の中に入れたくは無かったから。

何の目的もない、だらだらと続く日常を。




「ディキュレイ!!」

トゲのある声で、嫌いなファミリーネームを呼ばれてカンナは鬱陶しそうに目線を向ける。


「お前の番だ、早く準備しろ」

彼は演習の教師。その後ろには、カンナの体格を二倍ほど上回る青年が士気高く、待ち構えていた。



カンナの通う軍隊育成学校では、演習授業がほとんどだった。
今日は近距離戦の訓練。

カンナは内心、相手との体格差を突っ込みつつ、青年に向かいあう。


教師が手をかざし、はじめ、と言った瞬間、相手は勢い良くカンナに掴みかかる。

カンナは、微動だにせず、天術を発動した。

素早く相手の手を払うと、そのまま襟を掴み懐へ潜る。
そしてそのまま自分の二倍以上の体格の男を軽々しく背負い投げ、地面に打ち付けた。

勝負あり。

相手は受身を失敗して、失神していた。


あまりの瞬殺に、まわりの生徒はともかく教師までもが圧倒された。
それもそのはず、年も体格も上の男を細身の少女が顔色変えず軽く投げたのだから。


一息ついて踵を返すカンナに、まわりの生徒が一歩後退り、自然と彼女の行く道が出来た。

本意ではないが、いつも勝手に出来てしまうその道をカンナは仕方なく通る。
本当はただ下がりたかっただけなのだけど。

後ろから囁く声がたまたま耳に入る。

「学園で一番強い先輩だったのにね」

「あれが転生者の力か。まるで化け物だな」


カンナは、何となく声の方向を見るとコソコソと話していた生徒と目が合う。
二人の男女の生徒は、目が合った瞬間小さく声を上げてうつむいた。

・・・見ただけですよ。
別に何もしないのに。


急にこの場に居るのが馬鹿らしくなって、カンナはそのまま演習場を出た。背中を叩く教師の声も無視して。


どうせ、体を張って止めたりなんかしないんでしょう。みんな自分と関わるのを恐れてる。生徒も先輩も。

そんなの言われなくてもわかる事。


「今日も、一人ぼっち。・・・・なんちゃって」


思わず、自虐的に笑ってしまう。

あぁ、なんて暗い青春。




気付いたら、一人だった。

両親は戦争に巻き込まれて死んで、独り。

その後ガラム軍の偉い叔父さんに引き取られて、
軍学校に放り込まれて、

学校では自分の人並み外れた力を恐れられて

やっぱり独り。


記憶が在るかぎり友達と呼べる人もいないし、それ処か、今はまともに言葉を交わす人さえいなくて、

たまの独り言で、自分はまだ声が出るんだって驚く。



友達が欲しくないわけではない。

純粋に、ただ友達が出来ないだけで。


窓硝子に写る自分の姿をなんとなく見つめる。
そしてなんとなく、自分に向かって微笑んでみる。


「気持ちわる。」


そう呟いた直後、硝子に、黒くてデカイ影が映る。
その顔は青白い。

一瞬、驚いて、次の瞬間、咄嗟に青白い顔に向かって裏拳する。

が、簡単に止められてしまう。


「ガキの癖に攻撃的だな。いや、ガキだからか」

止められた腕を背中に回され、窓ガラスに押し付けられる。

・・・・・!?
強盗!!?いや、敵襲!!!!?

内心混乱しまくりのビビりまくりだったが、平静を装い、目線を向けた。


「あなたは一体何者ですか。てか、何がしたいんですか」

「・・・・もう暴れないか。」

「そうですね、あなたが何者か話してくれたら、暴れません。」


男は了解したようで、カンナの手を離す。
大人しく、男の方を向いた瞬間、

「せいやっ!!!!」

カンナは思い切り、蹴りあげた。男の急所を。


「っ!?!ーーーーっ!!!!!!!」


男は力なく崩れ、カンナは爆笑。

「何処の何方か存じませんが、随分詰めが甘いですね!!!!目的は知りませんが、行きなり襲うなんて、非常識ですよ。フフフフ」


「くっ・・・・貴様・・・許さん」

男は虫の息で、カンナの足に手を伸ばしたが、カンナは軽々と避けた。


「残念ですけど、襲う相手間違えたみたいですね。他を当たってください」

カンナは超満面の笑みでそう言うと、ルンルンで意気揚々とその場を後にした。


「あの小娘・・・・殺す!!!!!」




久々に笑えた。


カンナはニヤリとしながら後ろを振り返る。

男はまだ地面に突っ伏してもの凄い形相でこっちを睨んでいて、
突き刺すような眼光なのだが、なんだかどうも体勢が体勢なので可笑しい。

カンナがニヤニヤしていると、男は何やらブツブツと口が動いている。

不思議に思い、一歩近付いてみたとたんちょうど真下の地面が光った。

「!!?この感じ・・・転生者!?・・・ってうぉぉ!!!!!」


驚く暇もなくびたんと、体が勝手に地面に貼りついた。
まるで重力に引き寄せられさらに上から押し付けられているようで息苦しい。どうやら天術のようだ。

「ちょぉぉ何ですかこれぇぇ!!!!」

ジタバタと暴れるが、貼りついた手足は動かない。
そこへ、低い笑いが響く。

目線を無理やり上げると、先程の黒ずくめの男。

「立場逆転だな小娘。」

「なんなんですかアンタ!いきなりこんな事して!」

男は喚くカンナの背中を思い切りふんずける。

「あだぁ!」

「俺は、リカルド・ソルダート。本日からお前の教育係に雇われた傭兵だ」


「・・・・・・・はぁぁぁぁ!!!?」







ゆっくりと森を抜ける馬車の荷台には、沢山の銃や火薬などの武器と戦地の兵士たちの食料。
そして全身黒ずくめの物騒な男リカルドと、それに身柄を拘束され暴れるカンナが乗っていた。

「ちょと!!!!そんな話聞いてませんよ!これ誘拐ですよ!!?」

「黙れ動くな。」


両手足を縄できつく拘束されたカンナは、リカルドに向かって吠える。

男が簡単にカンナに説明したのはこうだ。

カンナの義父であるディキュレイ少尉は、いずれ自分の後を継ぐであろうカンナを昇進させる為戦場へ隊長として送り込む作戦だった。
が、軍学校を出て、さらに少尉の権限を奮ってもさすがに素人から隊長へ昇進は認められなかったため、カンナはこれからベテラン傭兵リカルドの元で半年実績を積む事になった。・・・らしい。


ただそんな事を赤の他人から告げられても、納得する筈がなく。

そもそも、こっちの意見は無視という訳ですか。あのクソジジイ。

「ね、ねぇオジサン」

「次にオジサンと言ったら命はないぞ」

「すいません。お兄さん、自分の事逃がしてくれませんか?」

「断る」


まぁ期待はしていなかったが、こうも即答されると腹がたつ。

このままこのクソムカつく男と戦場で背中合わせなんて絶対にやだ!


「お兄さん〜お願いです〜トイレに行きたいんです〜もうだめぇぇげんかいぃぃぃ」

カンナは身動きの取れない手足をモジモジさせる。
が、リカルドはそんなカンナを冷たく見据えた。

「知らん。基地に着くまでそこでのた打ち回ってろ。まぁあと2日は馬車を走らせんと着かんがな」

そう言って声を上げ笑うリカルド。どうやらさっきの事を相当根に持っているらしい。

「ちょっとひどいですよ!!!!女の子にそんな仕打ち!!!最低!変態!ネクラ!!ヒゲオヤジ!!!!!」

ドン、と唐突に響いた銃声がカンナのとめどなく出てくる暴言を止めた。

本当に目の前の床に弾丸が埋もれ、細く煙をのぼらせているのを目の当たりにしてカンナは息を呑んだ。


不意討ちを食らって言葉の出ないカンナに、リカルドがゆっくりと近づいた。

刃物が視界に映り、カンナは咄嗟に目を強く瞑る。

が、次の瞬間、カンナの手足が自由になる。後ろで組まれ結ばれていた紐が切られたのだ。

「・・・行って来い。逃げたら・・・わかるな?」

凄みを効かせて睨むリカルドに小さく頷くとそそくさと馬車を飛び出し茂みにしゃがみこんだ。


案外、簡単に抜け出せたものだとカンナは拍子抜け。
このまま逃げてもバレないかと草の影から顔をこっそり出す。

「!!!?!」

目が合った。獲物一匹逃がさぬとそう物語る鷹の目と。
しかもライフルをしっかりとこちらに向けている。

・・・・めっちゃ見てる・・・!!!!!


カンナはリカルドにどん引きすると同時に恐ろしくもなる。
彼方は逃がす気など少しも無し。むしろ逃げようものなら足の一本でも撃ち抜いてやろう位の意気込み。

今奴に背を向けるのは危険・・・。
でもジジイの言うとおり、あの男と戦場に行くのは嫌だ。

カンナは決心して、しゃがみこみながら詠唱する。
まだ天術は上手くは使いこなせないが、不意討ちを打ち込むには充分だ。


カンナは颯爽と立ち上がると、リカルドへ向かって手をかざした。

「シャドウエッジ!!!!!」


次の瞬間、リカルドの足元から漆黒の槍が現れ、彼を串刺しにすべく天に向かって突き出た。

「!!!」

咄嗟に真横へ避けて、串刺しを免れたが、カンナへ目をやると、森の彼方へ消えていた。


「・・・・チッ」







カンナは森の中を全力で駆け抜けた。

しばらく走ると、急に立ち止まる。道が無くなっている目の前は崖。

・・・けど結構走ったから、さすがに追い掛けては来ないでしょう。

と思い一息つこうと振り返ったその時、後ろにはリカルド。


「!!!!!!」

「やっと捕まえた。手こずらせやがって」

リカルドはカンナの腕を掴む。
カンナは体力切で今にも座り込みたいのにも関わらず、リカルドは息切れ一つしていない。

嫌でも力の差を見せつけられてしまった。


「ですが、ここで大人しく捕まるカンナではありません!!!」


カンナの足元に黒い魔方陣が浮かび上がる。

「お前!!?」

「デモンズランス!!!!」


宙には数本の槍が現れ、全てリカルドに向かって落下する。

堪らずリカルドはカンナの手を離した。その後、彼の周りを囲むように淡い壁が現れ、ランスをバリアした。


「さよなら、お兄さん」

カンナはその隙に、崖を飛び降りた。

「おい!!!!」



何となくこれでお別れなのが寂しい気もしつつ、カンナは地面に引き寄せられるように崖下へと落ちていった。




必然的に見えた空が、怖いくらいに青かった。








to be continue partU.










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