君のいる世界廻る星

□No.18
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懐かしい景色が近づいて来る。
ガルポスを離れた一行は、次に船の乗り継ぎのため王都へと向かっていた。

「・・・なんだか、懐かしいですね。」

カンナが思わず呟くと、となりから笑い声が響く。

「んだよ、何年も帰ってねぇ訳じゃあるめぇし」

スパーダだ。船の甲板のへりに立つカンナの隣に並ぶ。


「だって、長いこと旅に出っぱなしで。ほら、あの港、昔のまんまです」

「あたりめぇだろが、まだ1ヶ月くらいしか経ってねぇよ」


スパーダの言葉に少しおどろく。そうか、1ヶ月も経っていたのか。
道理で懐かしいわけだ。

思い返してみると、少々密度の濃すぎる1ヶ月だった。


スパーダを見上げると、港を見つめた横顔。
凛としたその表情に、この1ヶ月で彼も成長したのだと感じる。


ふと、目が合った。


「何だよ、その、物憂げな顔はよ。なんだ?ルカの次はお前がホームシックか?」


いたずらに笑いながら、頭をぐしゃぐしゃと撫でるスパーダの手。

自分の手とは違う、骨張った、大きな手。


彼は変わって行く、どんどん、大人の男の人になってる。


「・・・スパーダ、また背が伸びましたね」

「ん?そうか?お前が縮んだんじゃねぇ?」

「なめてんですか?」


横目でちら見るカンナにスパーダは笑った。
つられてカンナも笑う。


スパーダは、やっぱり、一番一緒にいて楽。

それは多分、お互いを良く理解してるから。


でも、あっという間に過ぎて行く時間と一緒に色んな事が変わって来ている。

体も、前世との向き合い方も、色んな事が。

そして、いつか、心まで変わっていってしまうのだろうか、

回る時間が速すぎて、離れてしまうんじゃないかと、それが怖い。


この優しい関係が変わってしまうのではないかと。




「やっぱり元気ねぇな。どうしたんだよ?」

わざわざ腰を折って心配そうに覗き込んで来るスパーダ。

安心してほしいから、精一杯笑う。

「大丈夫ですよ、何でもないです」

スパーダは一瞬黙って、その後微妙に顔を歪めた。

「ぶっさいくな顔してんじゃねぇよ。ったく、お前が言いいたくねぇなら別にいいけどよ。無理すんなよ。辛くなったら俺に言え」


悪そうに笑うと、顔をカンナにグッと近付ける。

「チューしてやっから」

「ハァ?」

カンナは大っ層嫌な顔して距離を取る。

「いや、お前さすがにその反応はひでくない?お前の事元気付けようとして言っただけじゃん!」


「それはどうもありがとうございます。でもチューは全力でいらないです。」

「あぁもう本当可愛くねーな!!!」


変わらないで。


小さく小さく、祈った。





王都へ着くと、リカルドは船の手配か何かで港に残り
それまでその他一行は街を見て周る事にした。


「何かリカルド変だったね。何か悩み事かな?」

ルカが不安そうにぽつりと言った。それに続きみんなも同意した。

「確かにな、甲板でも妙に黄昏れてたしな。」

「そういえばさっきも何か深刻そうな顔してたかも」

「なんやリカルドのおっちゃん悩み事かいな。なんやろな、痔とかちゃう?」

ニヤニヤしながら言うエルマーナにアンジュが下品よ、とか言って注意する。

「いや、自分わかっちゃいました。」

カンナに視線が注目する


「多分、恋煩いです。前に彼女と別れた時もあの人あんな風に落ち込んで酒ばっか飲んでやさぐれてましたから」

「はぁ?あのオッサンが?誰にだよ?」

船酔いで潰れていたイリアがなぜか話題に食い付いて来た。

「アンジュじゃないの〜このメンバーで恋愛対象に入るのアンジュくらいだし、何としてでも守り抜くとかほざいてるし」

「乳もデカいしな」

「えぇ、私?困ったなぁ。私リカルドさんタイプじゃないな。とりあえずスパーダ君は天に召されるといいよ」

「ひでくない!!!?」


そこでエルマーナがちっちっちとか言い出す。

「甘いな、あんなに悩んでるゆうことは、なんか障害があるちゅう事ちゃうかな?例えば年の離れたイリア姉ちゃんとか」

「うげぇっあたし!!?それはないわよあのオッサン、あたしよりあたしの銃に興味津々だもん」

「あら、わからないわよ。イリアと喋りたい口実かも。」


「えぇぇ、リカルドが!!?そんなの困るよぅ・・・」

うなだれるルカに、一同はニヤっとする。イリアを除いて。

「ちょっ何であんたが困るのよっ!あたしのが困ってるわよ!!」

「いやしかしイリア顔が赤いぞ」

イリアの肩にぶらさがるコーダだ。

「あああ赤くなんかないわよ!!!」

「赤いな」

「赤いです」

「うん、赤い」

「赤いなぁ」


一同気持ち良いくらいのニヤリでイリアとルカを微笑ましく見ていた。

追い詰められたイリアは地団駄踏む。

「あぁーっなっんであたしなのよ!!!!そもそも年が遠いならエルじゃないの!」

「ちょっとイリア、もしそうだったらシャレになんないよ・・・」

「あぁ、流石に笑えねぇぜ。エルだったら正真正銘のロリコン変態野郎だぞ。俺もうまともに見れない」

だが、あんがいエルマーナはまんざらでもないようで。

「なんやリカルドのおっちゃんとこで面倒みて貰うのも悪ないなぁ」

「だっダメよエル!!!!」

アンジュが青い顔してエルマーナに説得を試みる。
それを横目にルカがカンナをみた。

「でもカンナも有り得るよ。2人は昔からの知り合いで、仲も良いし。」

「いっいや!自分はガラム軍時代の後輩だっただけで!」

「確かに良く2人で話てるし、じゃれてたりするわよね。」

「ちがっそれは言い争いから発展した喧嘩で!」

「確かに、戦闘中も、よく口出されてるし。」

「アレは先輩面が抜けてないだけで!」

カンナは慌てて否定しまくるが、それが怪しさを煽る。

「いやぁ、姉ちゃんは特別なんちゃう?大事にされてんでぇ」


「だ、大事に・・・そ、そうですかね・・・?」

「ダァァァァ!!!!!お前何照れてんだよ!ちっげぇよ勘違いすんな!」

いきなり大声をだしたスパーダに、カンナはびびって後退る。


「いいか?リカルドはお前の先輩が抜けなくていまだお世話しちゃってるだけなの!勘違いすんなよ!」

「勘違いなんかしてないですよ!何キレてんですか、うざいな」


カンナはスパーダのダル絡みに眉をひそめた。

それを見てコーダとエルマーナが口を挟む。

「スパーダ、焼きもちなんだな」

「兄ちゃんカンナ姉ちゃんに当るのは筋違いちゃうの〜?」


「うっせぇ!!とにかくそろそろ戻るぞ!カンナ、来い!」

イリアみたいにプンプンしながら歩きだすスパーダを追い掛けた。

「まったく、何なんですあの男は・・・」


追い付いて並んで歩き出す2人を見て、後ろのアンジュとエルマーナが笑った。

「微笑ましいわ」

「いじらしぃなぁ、はよくっ付けばええのに」




「なんだか今日は兵士が多くて物騒ね」

港へ戻る途中、商店の主人と客の会話がたまたまカンナの耳に入る。

「あぁ、なんか今日はちょっとした獲り物があるみたいだね、また異能者かなんかだろう」


・・・・獲り物・・・?


確かに、いつもよりも街には紅い制服が多い。そしてそれに混ざり、グリゴリ達の姿も。


カンナはある光景を思い出した。

ナーオスからアシハラへ渡る時、船の手配と言って港に残ったあの時。

リカルドはグリゴリと一緒に居た。

おかしいと思った。でも、大した事じゃないとすぐに忘れたんだ。

だって彼が自分たちを裏切る理由なんてなにもないから。


「スパーダ、嫌な予感がします・・・」

「何だよ、どうした」

「・・・・・・何かおかしい。急ぎましょう!」




港に戻ると、リカルドの姿はない。そのかわり数十人の王都兵の姿。

「悪い予感が当たりましたね」

カンナは武器を出し構える。


「な、なんだよこれは!!!」


スパーダも武器に手をかけると、後ろから叫び声。

「な、何なんですかあなた達は!」

「誰だ!しかし!!!」

アンジュが兵に取り押さえられている。

ルカ、イリアと武器を構えた。

「アンジュを離せ!!」


「動かん方が良いぞ」


その声を聞いた瞬間、銃を向けた。
兵士の中から現れた、同じく銃を構えたリカルドに。


「相変わらず勘だけは良い。だが気付くのが遅かったな」

「・・・先輩!!!」


アンジュが言った。静けさのなかに怒りを込めて。

「あなたは、契約を遵守する方だと思い込んでおりましたが・・・」

「ええ〜うそ〜ん・・・、リカルドのおっちゃん、最低やぁ!」


ショックを受けるエルマーナに続き、イリアとスパーダが吠える。

「詐欺師!裏切り者!」

「・・・許せねぇ。憶えてろよ・・・」


「・・・どうして?」


まだ受け入れられないルカは泣きそうな目でリカルドを見た。


「契約より重い物もある、って事だ。これも世の常。あきらめろ」

「理由ぐらい聞きたいな」


「・・・ガードルと言う男は私の兄だった。前世でな」


「死神、タナトス?あのラティオを追放された?」

アンジュ。

苦い顔をして、俯いた。でも力強く、口を開く。

「・・・そうですか、込み入った事情がおありなのですね。でも、わたしはまだあなたを信じます」


リカルドはそれに応えなかった。ただ、一瞬悲痛そうに歪めた表情をカンナは見逃さなかった。

その背後から、抑揚のある声が響く。

「これはこれは、転生者ども。中には久しい顔もいるな」

目線を向けると、妙な面を被る妙な姿をした者が出てきた。声を聞くかぎりどうやら女性のようだ。

「マティウス!あんたの仕業ね!」

イリアの憎しみのこもった叫びに、カンナはこの人物がマティウスなのだと知った。


イリアの故郷を襲った人物。

そしてこの人がシアンの尊敬するアルカの教祖でもある、人物。


「我が教団の愛する兄弟を傷つけ、その上、適応法による逮捕拘禁中逃亡を行い、転生者の風評を著しく低下させた。これは重罪だな」

マティウスは手に持った杖をルカに向ける。

「よってここでアルカ教団に与えられた権限により、宗教裁判を行わせてもらう。」


「宗教裁判ですって!?アルカ如き新興の団体にそんな権限が・・・」


「娘、お前ならこの名を知っていいよう。我等財団は枢密院のお墨付きをもらっているのだぞ?」

枢密院。その名を聞いた途端、アンジュの顔色が変わる。

「枢密院・・・噂は本当だったのですね。ならば仕方ありません。」


表情を隠した不気味な面が頷き、中から声が響く。

「では判決だ。貴様等はグリゴリの里にて幽閉させてもらう。命を奪わないのは、同じ転生者としてのせめてもの情けだ。」

マティウスの言葉にルカが反応した。

「同じ転生者・・・。やはり君は魔王なんだね?創世力を使って何を企んでいる!」

「それはまた、教えてやろう。さぁ、こいつらを船に運べ」

マティウスはそう言って、姿を消した。

一行は武器を取られ、拘束され、船に乗せられる。
それを見ていたリカルドと、目が合った。

「先輩、これが、先輩の選んだ道ですか?」

リカルドはカンナから目をそらし、静かに応えた。

「あぁ、そうだ。」


「・・・そうですか。・・・では・・・。」

カンナは泣きそうになるのを必死に堪えて、乗り込む一同に続いた。








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