君のいる世界廻る星

□No.21
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「レムレース湿原を抜け、そのまま激戦地の北の戦場を突っ切り、テノスへ向かう。
当たり前だが、北に向かうほど気温が下がり体力も削られる。戦場に入れば休みは無で行く予定だからな、お前達、今のうちに食えるだけ食っておけ」


リカルドは朝食を目の前にして一同にそう言い切ると、自分だけ先に黙々と食べ始めた。

リカルドは以外は、せっかくの朝食前に胃が縮むような話を聞かされ、どことなくうなだれながらも食事に手をつける。

その中でもカンナはぼんやりするわ、そのうちフォークでベーコンエッグの黄身をつついて遊びだすわの気の抜けっぷり。


「おい、どーしたカンナ。具合でも悪いのか?」

それを気にかけ、顔を覗き込んできたスパーダにカンナは飛びあがってそのあと盛大に後退り、

「うぉえっ!!!??すぱぱぱ!!!!?」

と叫びながら椅子ごと後ろへ落ちた。
その余りに激しいリアクションにスパーダはじめその場の全員がカンナを見て、一瞬固まる。

次の瞬間、カンナはかろうじて残像が残るくらいのスピードで起き上がり、椅子を立て着席し何事もなかったかの様に食事を続けた。

が、結った髪の間からのぞく耳が真っ赤になっているのを見るかぎり恥ずかしいのだろう。


「な、なぁお前、マジで大丈夫?」

ますます様子のおかしいカンナが心配になるスパーダ。

「だっ大丈夫ですから!じっ自分の事なんぞ気にしないで下さい!!!さっお食事を続けて下さいまし!!!」

いや・・・明らかにおかしいだろ・・・と誰もが思ったが、当の本人はひたすらうつむいて朝食をがっつきだした。
もちろん耳は今だに真っ赤にして。

スパーダは何となくアンジュと目を合わせたが、アンジュも首を傾げるだけ。

頑なに目を合わせないカンナに若干の不安を抱きながら、仕方なくスパーダも食事を続ける事にした。








もういや全く


何たる事だろう!!!!!


マムートを出て、湿原を目指す一同の最後尾をちんたら歩くカンナの内心はとてつもなく嵐だった。


昨晩のイリアの話を聞いたせいで、スパーダの顔をまともに見れないどころか、会話さえままならない。

目が合えば、うわずって顔が赤くなりそうで、
そうなれば見透かされてしまいそうで、怖い。

それに全部イリアの勘違いで、
スパーダがただ単に優しいだけで、
自分が無駄に意識してるだけだったりしたら、恥ずかしいし、

そも、そも、自分は何故こんなにスパーダに気を使わなければならないんだ?

自分の気持ちは?


自分は本当に彼の事を・・・・


「カンナ!」



噂をすれば・・・って、この事か。

そんな事を思いながらも声を聞いたとたんに震える心臓は気持ちに素直で。


顔をあげると、数メートル先で、ひとり突っ立っている緑頭。
その姿を見たとたん、何となく構えた。

平常心、平常心、自分にそう言い聞かせると、カンナはスパーダのもとへ急いだ。

「どっどうしました?」

「どうしたじゃねーよ。何ぐずぐずしてんだよ置いてくぞ」


頭を軽く小突かれると、カンナの心臓が大きく跳ね返る。

それをスイッチに顔に熱が集まるのを、自分自身で感じる。
すぐさまバレないようにと俯いた。

「そ、そーですネっ!ででは参りまショウカ!」

謎の片言と早歩きでスパーダを通り越す。

が、腕を強く捕まれたと思うとそのまま前に進もうとする体が突っ張った。


「ンナっ!!!なななんです!!!!??」

赤い顔のまま振り向くと、真剣な顔したスパーダ。


「お前さぁ、昨日の晩さぁ・・・」

ギクリと体が固まる。

イリアから昨日の話を聞いてしまったのだろうか・・・

さっそく、一番嫌なパターンだと心拍数を上ゲながらも、見開いた瞳のままスパーダを見つめた。


「のぼせて倒れたんだって??お前馬鹿だな何でそんな長時間入ってたんだよ。今はもう平気か?実はまだ具合良くないんじゃねぇ?朝から変だしよ」


カンナの予想とうって変わってスパーダは、心配そうにジロジロ見てくる。

イリアが昨日の会話を彼に話さなかったのは幸いだが、
無駄に心配されジロジロみられるのも心臓に悪い。


「も、もう大丈夫ですから・・・」


スパーダは、その返事に安心しながらも、やっぱり不自然に目をそらすのに疑問を感じる。


「大丈夫なら何でオレの事見ねえの。」


「へっ!!!?」


予想外の言葉に思わず顔を上げる。
その瞬間にがしっと両手で顔を捕まれた。

「!!!!?」

まったく予測不能なスパーダの行動についていけず、頭が沸騰しそうなくらいに沸き上がる。

スパーダの方はというと打って変わって、ニヤリ。

「白状しな。何が気に入らねんだよ。なんか不満があるからその態度なんだろ」


何を訳のわからない事をと思いながらも混乱するカンナが冷静に切り替えせるワケもなく。

ただ口をパクパクさせながら、スパーダの瞳から目がはなせない。

「は、離して下さっ」

顔をバタバタさせるが、がっちりと抑えられ動けない。
真っ直ぐ捕えるように見つめられ、なぜか恥ずかしくて死にそうになる。


「言わないと、離さない。何だよ、オレお前に何かした?」

スパーダの言葉など耳に入らず、ただただ爆発しそうなくらい頭の中が熱い。

この場を逃げるに逃げられず、とうとう現実逃避しようと目をバチンと瞑った。


「ハァ?んだよそれ、答えたくないっつぅ事?」

返事は無し。目も閉じたまま。


「腹立つな、目を開けろこら」

スパーダはカンナが顔を背けないよう押さえながら親指で器用にカンナを上に引っ張る。
だがカンナは頑固でぎゅっと目を瞑っていたので目が半開きで、正直とても顔が酷い。

スパーダは自分でやっておきながらも、そのふざけた顔に笑いが込み上げ、笑いだす。
もちろんその間もカンナの目は半開きのまま。

「ひゃひやひゃひゃっブッスだなぁホラ早く白状しろや!言わないとずっとこのままだぞ」

スパーダの肩が大きく震え、どことなくカンナの顔もゆれる。

「ううぅっ離してくださいよっ!!!お、怒りますよ!!!?」

それでも目を開けない頑固なカンナ。
これではダメかと、仕方なくまぶたを引っ張るのはやめる。

「よし、言わねぇんなら、チューする」

「はぁ!!?何を考えてるんですか、殴りますよ!!!?離してくださいっ!!!」


冗談じゃないと叫びながら顔を振り回すが、やっぱり押さえられて動けない。

「離しませぇーん。あと10秒で言わないと肯定と見なす。ハイじゅーう、きゅーう」


「ちょっちょっちょっすぱすぱすぱ!!!!!」


「はーち、なーな、ろーく」


「うぅぅっ」

カンナは心の中で叫ぶ。


スパーダと目を合わせるのが恥ずかしい。

なんて言えるかッ!!!!


こうなったらと、カンナは唇を噛むように内側にしまい込み、口を固く閉じる。


「お、なんだそれ、ささやかな抵抗??じゃあ遠慮なしに行くぜ、ごよんさんにい」


急にカウントを早めるスパーダに驚いて、一瞬目を見開く。

「!!!?」

すぐ近くまで迫る顔に、思わず手が出た。


「いぢぃ!!!??」


瞬間にスパーダの鳩尾に拳がねじり込まれ、息が出来なくなる痛みに、そのままズルリとしゃがみ込んだ。

解放されたカンナは、やってしまったと自分で自分に驚く。



「ゲホッゲホッ・・・テメェカンナやりやがったな・・・」


「す、すみません・・・勝手に手が・・・。で、でもスパーダが悪いんですよ、い、いきなり・・・あ、あんな事するから・・・」


スパーダはヨタヨタと立ち上がると、カンナの肩に手を置いて、また息を切らす。


「そんなん冗談半分だろ・・・いい加減に慣れろよな」

まぁ、半分本気だけど・・・。



何故かスパーダのその一言に、今までの熱がスゥっと下がった。

意味もわからなく、心が痛む。


「冗談・・・ですか・・・」


自分の心臓をこんなに高鳴らせる事が、スパーダにとっては、なんて事ないんだ。

ホラね、やっぱり


イリアの勘違いでした。


「まぁ、こんな事、お前以外には・・・って、オイっ!!!」


話を最後まで聞かず、走り出すカンナ。
スパーダの叫びも無視してどんどん先へ走って行く。


「はぁ!!?んだよ!!!」

ムカついたスパーダも、すぐにカンナを追うが、あっちは全速力なのでなかなか追いつかない。







「あ、カンナ姉ちゃん!遅かったなぁ、ウチら待ってようと思って・・・って」

カンナは足音を聞きつけで振り返ったエルマーナを素通りして走り抜けて行ってしまう。

「カンナ姉ちゃん・・・」


なんだかセンチな雰囲気。

そして終始、全速力のスパーダがカンナの後を数秒遅れて通り過ぎ
その後、前を歩く一向を通り過ぎてすぐに、スパーダがカンナを捕まえた。


「っ触らないでっ!!!!!」


振り向く事なく振り払われた手。

スパーダは唖然とした。
こんな拒否のされかたは、初めてだ。

「カンナ・・・」

「これから、2メートル以内に近づかないで下さい。」


そう言い捨て、振り返える事なく歩きだした。

スパーダは頭をトンカチで殴られたみたく衝撃を受けたようで、カンナに手を振り払われたまま固まっていた。


もちろん、その他一同は目の前で見せつけられた修羅場を暫く見つめたままだった。


「本当にどうしたんだよ・・・あいつ・・・」






レムレース湿原に入ってからはそれはもう事件の連続だった。

戦死体がゾンビになって襲ってくるわ、倒しても暫くすると甦るわ、
ルカが泥濘に足を取られ全身どろだらけになるわ、それをイリアがからかっていたと思ったら自分までも転んで癇癪を起こし発砲したためゾンビ軍団に教われ、

今、やっとの事でその戦闘を片付けた所だ。


「この人達は、まだ自分達が死んだ事も知らずに戦っているのでしょうか・・・」

倒れる死体を避けて歩きながら、カンナは静かに呟いた。

「さぁな。まぁどっちにしろ、死体が動くなど、あってはならん事だ」

「・・・これも、もしかしたら無恵の影響じゃないかしら。」

リカルドとアンジュが神妙な面持ちで言葉を交わす向こう側に此方へ近づいて来るスパーダを見つけて、カンナはすぐに顔を背ける。


「おい、カンナ。話があるんだけど・・・」

「自分は別に話すことありません。それに2メートル以内に近づかないでって言いましたよね?では」


「ふざけんな!・・・お願いだから言ってくれよ、何が不満なんだ?」


恐ろしいくらい自分勝手だ。

スパーダが一番なんて志を掲げてたのに、
結構、自分が傷付く事を一番恐れてる。


すみません・・・


「・・・今は話したくないです・・・」


カンナはそれだけ言うと、とぼとぼと歩き出した。








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