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□悪戯
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物騒な過去の職歴はともあれ現在はひたむきに神に祈りを捧げる信仰者で聖職者で、
河川敷の守護者で、住民たちの良き相談相手であり子どもたちの頼もしい保護者でもあるシスター。
年齢のわりには老成しているし女性ものの修道服など着ているせいか、
どこか何かを超越してしまっているような存在なのだが…
ひとたび修道服を脱げば、軍パンにTシャツの、ガタイの良さは隠し切れないが
意外と普通の青年であることをリクルートは知っている。
酒も飲むし、冗談も言うし、…二人きりのときに限られるが、愛をささやいたり、
その愛情を具体的に表現するためのオトナの行動だってする。
そのこと自体はいいのだが…

―――時と場所をわきまえてくれ!

リクルートは心の中で叫んだ。今いる場所は、昼下がりの礼拝堂。
女子はガールズトークをするのだとマリアの牧場に行ってしまい、今日はむさくるしく男ばかりのお茶会だ。
それも会話のネタは早々に尽きてしまい、村長と星が囲碁に将棋にオセロにと終わりの見えない勝負を続けているのを
ラストサムライが見守り、シロさんは珍しく奥さんと娘さんに手紙を書いているようだ。
ひとつ離れたテーブルではリクルートが経済雑誌を読みながら時折お茶をすすり、
差し向かいの席ではシスターが皆のくつろぐ様子を眺めながら愛用の短銃の手入れをしている。
日差しが入り込んで冬ながらも部屋は暖かく、のんびりとした平和な午後のお茶の時間。
それなのに、それなのに…

リクルートは、思わず上げそうになった声をどうにか押し殺した。
スラックスの裾に何か触れているな、と思った次の瞬間その触れているものがツツーッと脚をたどって上ってきたのだ。
それが、シスターのつま先だと気づくまでそう時間はかからなかった。
いつの間にブーツを脱いだのか皮革の堅さではないそのつま先が、ふくらはぎから膝の裏をなぞり
辿りついた内腿をひときわゆっくりと何度も行きつ戻りつして、また裾の方へ下りて行く。
もう、経済雑誌どころではない。最初の驚きの声は抑えられたが、ビクリと肩が震えたのを誰かに見咎められていないだろうか。
顔を上げるとシスターはそ知らぬ顔で…でも細められた目に意味深な微笑を浮かべている。
何をするんだ!と視線で怒りを伝えると、尚更嬉しそうに口角を上げる。
幸い、村長たちはテーブル一つ隔てそれぞれ勝負事などに夢中になっているせいか誰も気づいてはいないようだが…
リクルートがどうにか声を抑えているのをいいことに、つま先の悪戯は止まらない。

――くそっ、自分の脚が長いと思って…!

たしかに、長身で脚も長いシスターならではの悪戯だ。礼拝堂のテーブルはそれなりに広く大きく出来ているので、
シスターでなければ向かいの人間のきわどい場所にまで脚を伸ばしたりは出来ないだろう。
最初の声を我慢してしまったがために、力が入った身体は自分の言うことを聞かず、リクルートは立ち上がって逃げることもできない。
本当は止めさせたいのに…声を出すことも逃げることもしない自分をシスターはどう思っているのだろうか。
悦んでいる、と思われているのだろうか。そうだとしたら本当にいたたまれない。

そんないたたまれない思いをしているというのに、悪戯は止まないどころかエスカレートしていく。
弱い膝裏をくすぐられ、内腿をくるくると撫でるつま先の動きに身体の内側から熱が引き出されていく。
住民達がすぐ近くにいるというのに淫らな行為をされているという羞恥と背徳感で余計に煽られるその熱は、
リクルートの頬を赤く染め同時に身体の中心へと向かって行く。
声を殺すために唇を噛み締め、とうに活字を追うことをあきらめた雑誌に添えた手の震えをどうにか抑えてシスターを睨みつけるが、
薄い笑みを浮かべたその表情は変わらない。つま先の動きがからかうように活発になり、さすがに止めさせようと手を伸ばしかけた瞬間、
それまで触れられることのなかった身体の中心を強く擦り上げられた。

「…っ、んっ…!」
息を飲んで衝撃をやり過ごす。衣服の上からの刺激だというのに、中心からはジンジンと熱と快感が広がっていき目尻に涙が滲んだ。
リクルートは降参した。

「シ、スター…」
「どうした、リク。顔が赤いぞ」

しらじらしく心配そうな声を掛けてくる、その演技力に腹が立つ。腹が立つが…その怒りをここで爆発させるわけにはいかない。
何てことをするのだと怒鳴りつけてやりたいところだが、この状況ではどうにもならない。
そしてまずは、この熱を皆に気づかれないようにどうにかしなくてはならない。

「俺、懺悔したいことがあるんですけど、ざ、懺悔室に行ってもいいですか」
「そうだな、鬱屈した思いを溜め込むのは身体にも良くない。今すぐにでも聞いてやろう…村長、皆も、我々は席を外しますがどうぞごゆっくり」

はいよー、という村長の返事を背に二人は懺悔室に向かう。軽やかな足取りのシスター…
ブーツを履いていないのが不自然だが、裾の長い修道服のためにそのことに気づく者はいないだろう。

――この性職者!痴漢!変態変態変態…!

リクルートは心の中で叫ぶが、その叫びがシスターに届くはずはなく、歩きづらそうにのろのろと後をついていくしかなかった。
頼りになるシスター。聖職者のシスター。その裏側は恋人にこんな無体な悪戯を仕掛けてくる男なのだ。
皆の知らないシスターを知ってしまった。そのことに、99%のがっかりと…そしてわずか1%程だが、
喜びを感じている自分も相当終わっているな、とリクルートは内心ため息をつく。そんな彼の前で、ようこそ、と囁いているかのような音を立て懺悔室の扉が開かれた――

………

(2011/12/16)
「あなたは1日以内に RTされなくても 人目を忍んで指で攻めているシスターを 描(書)きましょう。 http://shindanmaker.com/65527 #BLodaitter」
BLお題ったーの結果から着想を得ました。
シスターはリクルートと遊びたかったんです。お茶目な痴漢なのです。


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