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□彼が猫になっちゃった!
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「ほにゅほにゅ〜、ほにゅ〜」

リクルートが愛猫を呼ぶ甘ったるい声に、シスターは眉を顰める。
大の男があんな声で。まるで猫の下僕になって。
情けないと思わないのか。


ここのところ雨が続き、いつもは外にいることの多い「哺乳類」が
リクルートの部屋に上がってきていた。
初めは、ノラ猫出身らしく人間を警戒してなかなか懐こうとしない子猫だったのに
リクルートにのみ懐いて、いつの間にか荒川の住人になっている。

エサを食べ終えた哺乳類は、私の前を素通りして
ソファに飛び乗るとリクルートに体を摺り寄せ膝の上で丸くなった。
そして、挑戦的な眼差しを私に寄越してきた。ように見えた。
信じられない、猫のドヤ顔である。

「ニャー」

と可愛らしく鳴いて、哺乳類は首を伸ばしリクルートの頬を舐めた。
「こら、ほにゅ。くすぐったいだろ」
リクルートはデレデレである。
私の中で、ふつふつと何かが沸きあがる。
どうかしている。ペット相手に嫉妬するなんて。
だが、だが…


「にゃあ」


とんでもない言葉が口から発せられてしまった。
リクルートが驚愕の表情で私を見ている。
「…シ、シスター??」

救いなのは、ポーカーフェイスを崩さずに保てたことであろうか。
口から出てしまったものは取り返しがつかない。
リクルートも固まってしまっているし、このまま帰ったほうがいいだろうか。
次に会うときは何もなかったような顔をすれば…

ともかくこの場から立ち去ろうと、くるりと向けた背中にドスッと音を立てた柔らかな衝撃。
振り向くと、リクルートが抱きついていた。
「すみませんでした、シスター」
シスターにこんな恥ずかしい真似をさせてしまうなんて。
「ほにゅのことは可愛いですけど、でも俺が、す、好きなのはシスターですから」
リクルートは耳まで真っ赤にして、うつむいている。
かがんで目線を合わせると、意を決したような顔が近づいてきて、
私の頬にリクルートの唇が押し当てられた。続いて、唇に。
照れ隠しからか、その動きはひどく素早く瞬間的であったけれど。

無意識に発した言葉に、思いのほか効果があったことに私は驚き、そして満足した。
なのでもう一度。

「にゃあ」

と鳴いてみせ、
猫の如くしなやかに敏捷に、リクルートにとびかかった。




(確かに恋だった 様/彼と彼女のファンタジーな展開7題より)

………

(2011/08/10)
シスターが壊れてしまいました。
猫というより、大きさから言えば虎か豹かライオンですね。



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