Harry Potter

□未だに囚われている
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ダンブルドアからの呼び出しを受け指定された部屋へスネイプが向かうと、其処では既に校長が一人立ち竦んでいた。

扉を後ろ手に閉めて、彼は月明かりの差し込む藍色の部屋に足を踏み入れる。楕円型の窓ガラスを等間隔に区切る格子状の鉄の影が射し込む銀色の月光を割った。

途切れ途切れの月光を踏みながら、音も無く滑る様にして彼はダンブルドアの背後に近付く。校長、と声をかける。反応が無い。もう一度呼ぼうとして彼ははたと歩みを止めた。

ダンブルドアは微かに肩を震わせていた。数メートルの距離を置いて、スネイプはその肩を見据えながら立ち竦む。恐らく彼は泣いていた。目の前のものから目を逸らさずに。



スネイプは視線をダンブルドアの対峙しているものへと向ける。古びた、しかし気品溢れる豪奢な造りの金枠の中に、楕円型の薄汚れた鏡が収まっている。

みぞの鏡だ。見る者の心の内奥に眠る真の願いを映し出す魔の鏡。このホグワーツのどこかにダンブルドアがそれを置いていると耳にはしていたが、実際に見るのは初めてだった。

ダンブルドアのその眼には何が見えているのだろう。なぜ彼はこんな風に忍ぶ様にして泣いているのだろう。見てはいけないものを見てしまったような気まずさに見舞われて、スネイプは鏡とその背から視線を逸らした。



「…人とは愚かなものじゃ」



か細い蚊の鳴くような声で老人の声がささやく。視線を足元から再び鏡の中の人物に戻すと、長い白銀の髭を携えたその顔に深い哀しみが揺らいでいた。



「……ハリーがこの鏡に魅入られてしもうての。わしはこの鏡を別の場所へ移すと言ったのじゃ。…わしはハリーがこの鏡に心を奪われぬようにと思った。愚かな話だとは思わんかね、セブルス」

「……」



ダンブルドアが鏡から視線を無理矢理に引き剥がすようにして、スネイプを振り返る。月光が長い白銀の髪を照らしたが、哀しげな顔にまでは届かない。半月型眼鏡の奥でブルーの瞳が揺らいだ。



「実に愚かな話じゃ。…このみぞの鏡に囚われているのは、あの子ではなくわし自身だというのに」





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