Harry Potter
□路地裏で眠りに付く子供
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少年は湖面に向かって小石を投げる。
ぽちゃん、と音を立てて遠くの方で小さな水柱が上がると、隣に座る少女もまた彼に倣った。
彼よりも僅かに遠い位置で、水面がまるい輪を幾つも描きながら揺れる。
少女は満足げに微笑みながら、隣の少年の片手を取った。
「やった!私の勝ち」
「勝ち負けを競ってたわけじゃないんだけど…」
血色の悪い少年が木漏れ日の下、困り顔で苦笑する。
それでも少女はまったく意に介さない様子で、ふふふと上機嫌に笑って見せた。
少年の頬にうっすらと紅色の差したのを知ってか知らずか、彼女は身を乗り出してエメラルドの目を輝かせる。
「ねえ、セブ。今度の休みに家に帰ったら、一緒に行ってほしい場所があるの」
「僕と一緒に?どこに?」
「えっとね、まだ内緒」
「え?なに?」
「内緒」
逸る心を押さえようともせずに、矢継ぎ早に問い掛けた少年が、開きかけた唇のまま言葉を失う。
間の抜けた顔を晒す少年を覗き込んで、少女がぷっと吹き出した。
なんで笑うの、と耳を赤らめた少年の目の前で腹を抱えて、少女は鳥の囀るような声で笑った。
「だって。ああ、あなたって本当に面白いのね。そんなに急いで聞かなくても、その場所は逃げて行かないのに」
──その場所なんてどうでもいい。気まぐれな君の心が逃げて行かないかが心配なんだよ。
彼女を前にすると決して凪ぐことのない心の水面に浮かび上がる本音。
それを無理に沈めて、少年はぎこちなく笑って見せた。
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