Harry Potter

□マジー・ノワール
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ホグワーツの生徒達にクリスマス休暇が訪れた。

スリザリン寮の一室、濃緑のカーテンを引いたベッドの上で、スネイプ少年は黙々と、数少ない荷物を小ぶりの黒いトランクに几帳面に詰めている。

──きっと、リリーがいなかったら。スネイプは魔法薬学の教科書を手にしたまま、ふと睫毛を伏せて物思いに耽る。

彼女がいなかったら、休暇など嫌で仕方が無かっただろう。薄暗く鄙びたあのスピナーズ・エンドに、愛着などからきしだったのだから。

家と呼ぶべき場所には同じく薄暗くて鄙びた家族が、決して日の当たらない日陰で湿っぽく生きている。

父は異種族である家族を憎み蔑ろにした。母は哀しみに暮れ果てた。そして彼は、そこから逃げ出した。

リリーという少女と相見えてから、彼に逃げる場所が出来たのだ。その場所にいる時だけは、湿っぽい日陰の中から連れ出してもらえるような気がしていた。



「リリー」



名を呼べば心の内から湧水のごとき想いが溢れる。ほうっと息をつくと、彼はトランクを閉じて鍵をかけた。

トランクを台にして頬杖を突き胡坐をかいたまま、スネイプは濃緑のカーテンの折り目にぼうっと視線を当てる。

ずっと同じ場所を見ていると視界は遠退いていく。オニキスの瞳が揺らぎ、カーテンの折り目がぼんやりと歪んだ、その時。

──誰かの片目がその折り目から覗き、驚きに遠退いた風景が一瞬にして目の前に戻ってきた。



「おい、スネイプ。大丈夫か?」

「ああ…何でもないんだ」

「ぼーっとしてたぞ。お前らしくないな」



──びっくりした。彼は小さく息をつきながらも平静を装い、同寮生から目を逸らす。

トランクをベッドからおろしながら用件を問うと、紅茶色の髪をした少年がさも不快気に眉を顰めた。



「お前のこと呼んでるよ」

「僕を?誰が」

「あの『穢れた血』のグリフィンドール生が、だよ。エバンズとか言ったか?あろうことか寮の前でだ。身の程知らずにもほどが─…」



だんっ、と床を踏み鳴らす音が部屋を揺らす。紅茶色の髪をした少年が、驚愕に目を見開いて一歩後ずさった。

──スネイプが一瞬にして彼の目の前に降り立ち、杖先を喉元に強く押し当てていた。抉るような、射抜くような、暗い底無しの瞳を鈍く光らせて。






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