Harry Potter

□人はただ一度生きる
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図書館から借りた「不可能薬」という本の古ぼけた紙を捲っていて、ふと目に留まった一ページがあった。流し読みをしていた筈なのに、その薬の名に彼は思わず目を奪われる。

「時計薬」と記されたそのページを開いて、彼は思わず椅子の上で姿勢を正した。

そのページにはアンティーク時計の写真があり、細い秒針が一定の調子で動いていた。──逆向きに。

時計に重なる様にして、ガラスの小瓶がゆらゆらとそのページの中で揺れている。中の液体は透き通った緑色をしていて、揺れる小瓶の動きに合わせて水面が揺らいでいた。



「──時計薬は、服用した魔法使いをその人物の望む時へと連れてゆく。過去にも未来にも行くことが出来るが、現在へ戻ってくることは出来ない…」



指先で字を辿りながら、彼は小さな声で説明書きを読んだ。「時」に関する魔法はあまり存在しない。だから興味をそそられた。

逆転時計というものを使えば、多少の時間の移動は出来ると耳にしたことがある。しかしそれは精々数時間程度の移動しか出来ない筈だった。

そもそも時を歪めることは非常に難しいことと考えられている。そのひずみによって起きる代償が測り知れない為だ。だからあらゆる分野の魔法学においても、その方面の探求は良しとされていないのだった。



ざっと説明書きを流し読みすると、どうやら自分の人生の範囲内であればどこへでも行けるらしい。

魔法薬学に造詣の深い彼ですら、こんな不思議な魔法薬は聞いたことが無かった。

なぜこの薬は不可能なのか。理由は記されてはいなかったが、それはやはりこの薬もこの本に書いてある他の薬と同様、かつて誰も調合に成功した試しがないからなのだろう。

材料を目で追いながら、彼は眉根を微かに寄せる。どれも入手困難な材料ばかりだった。

魔法薬学の教授に尋ねれば、何に使うのかと訝しがられるようなものばかりだ。自分を贔屓目に見てくれるあの恰幅の良い教授でも、流石に良い顔はしないだろう。






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