Harry Potter

□世界の片隅
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居心地の悪い暗くもったりとした沈黙が煌びやかな部屋を支配する。

豪奢なアンティークチェアに座するローズは、自分の膝に視線を落としたまま顔を上げない。

向かい側で腕を組みそんな彼女の様子を窺うスコーピウスの表情は、どこかつらそうに翳っていた。



「ローズ」

「……」

「…そんなに、ここに連れてこられるのが嫌だった…?」



かすかに震える声にローズの肩が小さく揺れた。スコーピウスが椅子から立ち上がる時の椅子の脚が大理石を擦る音に、ぎくりと身を竦める。

彼はまるいテーブルを横切ってローズのもとへ来ると膝を付いて、ローズの大腿に置かれた手を取った。慌ててローズが手を引こうとすると、逃がさないように強い力で握り締める。

スコーピウスの片手がローズの頬をそっと包んだ。唐突の感触に目を丸めた彼女が、悲痛な面持ちの彼の目を漸く見つめ返す。

跪いたままスコーピウスは震える声で囁いた。



「──君を失うのが怖い」

「…スコーピウス、」

「お願いだ、ローズ。僕以外の男と結婚するだなんて…そんな残酷なこと、言わないで……」



ぱたぱたと、俯く彼の瞳から零れ落ちた涙が真っ白の大理石に弾けると、ローズの呼吸が一拍子遅れた。

彼女は白いワンピースの胸元を無意識に掴んで固く目を瞑る。絞り出す声はあえかなものだった。



「…ごめんなさい。でも、やっぱり私…あなたみたいな純血の人とは、一緒になれない…」

「…僕がマルフォイの家の人間だからいけないの?僕の家が純血主義だから?でも、君だって知ってるはずだ、僕は父上みたいな純血主義じゃない…!」



ローズは唇を噛んで何度も頷く。そんなことは彼女が一番よく知っていた。知り合った時からずっと、恐らく誰よりも彼の側に居たのだから。

聡明で寛容なスコーピウスは純血主義を謳う家柄と家風に逆らい、博愛を良しとした。マグル生まれの魔法使いも混血の魔法使いも、みな同じ魔法界の同胞だと言ってくれた。

──そんな彼だからこそ、混血の彼女をこれ程までに深く愛してくれたのだ。そして、彼女自身もそんな彼を。






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