Mermaid's Series

□Her immaturity
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「なあ、湧太」
「ん?」
「おまえ、今まで何人の女と寝た?」
 バイト帰りに食堂で遅めの夕飯をとっていた時のことだ。
 箸を置いた真魚が、そんなえげつない質問をしてきたものだから、おれは思わず熱い味噌汁を吹きこぼしてしまった。
「げほっ、ごほ……真魚、あのなあ」
「漁師だったころは、奥さんがいたんだろう。それからはどうだったのかなと思って」
「どうって言われても……なあ」
 どうにもやりにくい。
 思わず視線を逸らすと、真魚が拗ねて頬を膨らませた。
「もしかして、思い出せないくらいそういう女がいたってことか?」
「いや、だから……」
「ふん。湧太はもてるからな」
「は、はは……」
 おれは気まずさを誤魔化すように笑った。
 真魚の切れ長の目がますます細まっていく。
「す、すまん。真魚」
 気付けばおれは彼女に謝っていた。
 真魚は隣で新聞紙を捲るおやじの手元を見つめながら、小さく鼻を鳴らす。
「それはこっちの台詞だ」
「……は?」
「バカなことを聞いてしまった。……すまない」
 しゅんと肩を落とす。その横顔はまだいたいけだ。
「どんなに誰かを好きになっても、湧太はすぐにその人と離れなくちゃいけなかったんだろう」
「……」
「──それって、つらいな」
 おれは苦笑する。
 ……ああ、そうさ。つらかったよ。
 人を好きになっても、ずっとは側にいられなかった。
 おれは普通の人間とは違う。老いることのできない人間が、普通の人間と同じ時を重ねていくことは難しい。
 なによりもおれ自身が耐えられない。
 好きになった女の死に目に、いちいちあってなどいられない。
「……でも、今は真魚がいるし」
 気を取り直すように言うと、
「どういう意味だ、それ」
 意味をどう履き違えたのか、真魚が頬を赤らめた。
 その表情が可愛くて、おれは腹を抱えて笑った。
「やっぱり、まだまだ子供だな、真魚は」
「う、うるさい。湧太なんか嫌いだっ!」





end.

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