いろいろ

□封じた想いで10のお題
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 本当はいけないとわかっていたけれど、私は日が傾きかけた頃、高台寺に平助くんに会いに来ていた。

 「鈴花さん!?駄目だって、こっちに来たら…!」

 服部さんに頼んで平助くんを呼んでもらうと、平助くんは私の姿を見るなり、慌てて物陰に連れ込んだ。

 「一体何考えてるの!?」

 「ごめん…。」

 詰問するような強い口調で言った平助くんに、私は素直に謝った。
 自分でも本当にそう思ったから。
 平助くんは呆れた様に溜め息を吐き、

 「送るよ…。」

 迷惑かけてるなと実感したから、私は首を振った。

 「平気、一人で帰れるから。」

 そう言って踵を返すと、平助くんに突然手首を掴まれた。
 驚いて振り返ると、少し苛立ったような平助がそこにいた。

 「いいから送るよ。」

 「だから一人で…、」

 「送らせてってば!」

 言いかけた私に、平助くんは強い口調で、半ば怒鳴るように言った。

 「う、うん…。」

 私はその勢いに圧され、頷いていた。



ひかり




 「あのさ、この間はごめんな?」

 長い長い沈黙だった。
 それを打ち破る平助くんの声に、私は思い出して、小さく首を振る。

 「もう、いいよ。」

 口から出た私の声は、驚くほど冷たかった。

 梅さんのこと。

 あれから新撰組と御陵衛士の関係は悪化していった。
 篠原さんの流した風評のお陰で、私達新撰組は、今や坂本 龍馬暗殺犯。
 隊内に御陵衛士に反感を持つ者が増えても、不思議ではなかった。

 「左之さん、まだ怒ってる?」

 恐る恐る聞いてくる平助くんが、なんだか新撰組にいた時のようて、可笑しくなった私は、小さく笑うと、

 「篠原さんに、ね。」

 「そっか…。」

 私の言葉を聞いて、平助くんは曖昧な笑みを浮かべて、肩を竦めた。
 少しだけ、辺りに柔らかな雰囲気が満ちた時、平助くんがいきなり足を止めた。

 「…?平助くん?」

 振り返ると、平助くんはいつになく真面目な顔でそこに立っていた。
 いつもと違う空気を感じ、私は黙って平助くんの言葉を待つ。
 しばらくそうしていると、平助くんは意を決したようで、浅く息を吐いた。
 そして目を伏せ、苦しげに呟くように言った。

 「ねえ、鈴花さん。もし、もし、だよ。
 …全部捨ててさ、何もかも捨てて、2人で生きていけるとしたら…。」

 平助くんの言葉を聞いて、胸がぎゅってなった。
 苦しくて、泣きそうになった。

 「平助くん…。」

 それしか言えなかった。

 「俺…。」

 平助くんは、その先を言わなかった。

 言われなくたってわかってるから。
 私の気持ちも、きっと言わなくたってわかってるから。
 だから、お互いそれ以上言わなかった。

 だって、そんなことありえるはずないんだもの。
 絶対、絶対ありえないんだもの。
 ありえないことを考えて、現実逃避したくない。
 そこまで、私達にとって辛い現実だなんて思いたくない。

 何も言わない私の手を、平助くんはそっと握り締めて言った。

 「ごめん…。」

 か細い、消え入りそうな声。
 私は返事すら出来ず、平助くんの手を握り返す。

 今夜は新月。
 たった一筋の光も見出せないまま、私達はどこへ行くのだろう。
 そこに望んだ結末はあるのだろうか。





◆あとがき◆
暗いけれど、この後幸せになるので気にしない!(笑)
というか、『封じた想いで』というお題なので仕方ないか(こら)。
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