いろいろ

□封じた想いで10のお題
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 本当は薄々気付いていた
 お前が源氏の神子だってことを
 お前も本当は気付いていたんだろう?
 俺が還内府だってことを…



愚者




 「白龍の神子、ね…。」

 龍神温泉の入口で、独り言を呟く望美を見つけて、声をかける。
 夢の中で何度も会っていたと言っても、約四年振りの再会。
 本当は抱き寄せたい衝動に駆られていたけれど、必死に抑え込んだ。
 望美の見た目は別れた時と変わっていない。
 俺にとっての約四年は、望美にとってはどれくらいだったのだろう。
 俺がここで望美を抱きしめれば、再会の温度差に恥をかきそうだ。

 「将臣くんも協力してくれる?」

 望美の言葉に目を伏せる。

 協力したいのは山々だ。

 「将臣くん…?」

 協力するためでなくても傍にいたい。
 四年も傍にいることがなかった。
 けれど、俺がこの世界でこうして生きながらえたのは…。

 「悪い、望美…。」

 平家のためだ。
 あの人達に恩を返せないままでいられる訳がない。

 言葉を続けようと目を上げると、望美は笑っていた。
 諦観したような、困ったような笑み。
 どきりとした。
 俺が断るのは初めから知っていた、そんなような笑みで。

 「わかった。
 …ねぇ、将臣くん?」

 「何だ?」

 俺の声は掠れていた。

 望美は知っているのか?
 いや、知っている訳はない。
 この世界で生きていくためとはいえ、俺が多くの人を斬ってきたことを。

 「手、繋いでもいい?」

 困ったように笑いながら、手を差し延べる。

 やめろよ。

 その眼差しに、息を詰める。

 やめろ、そんな目で見るな。


 俺に期待しても無駄。
 そう思ってるかのような瞳は、俺の心を掻き乱す。
 何も答えない俺に、望美は手を取ってそっと握ると、そのまま俺を抱きしめた。
 望美から花の香りが舞う。
 望美の背に腕を回さなくてもわかる。
 細い腕に、細い体。

 このまま抱きしめたい。

 不意に訪れる熱い衝動。

 抱きしめて言いたい。
 お前の傍にいると。
 けれど、言える訳がない。
 俺は望美の傍にいけない。
 源氏と平家の戦いにこれ以上巻き込みたくない。
 抱きしめたら、全てを捨ててしまいそうだ。

 「もういいか、望美?」

 俺は望美を引き離しながら言った。

 「うん、ありがと…。」

 短く言って顔を上げた望美は少し涙を浮かべていた。
 そして、それを隠すように微笑んだ。

 このままさらってしまえたら、どんなに楽だったろう。
 俺の心に愚かな考えが浮かんで、そしてすぐに消えて行った。





◆あとがき◆
将臣はかっこいいよな〜(笑) 
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