途切れた微笑み

□途切れた微笑み 第六話
4ページ/11ページ

 先頭を切って馬を駆るディーンとジョシアは、早々に逃げ出した指揮官、ジョシアの父、フィリップと合流した。

 「ジョシア!フィリップ殿を頼む!」

 ディーンは剣を抜き放ちながら、後方にフィリップを護衛しながら後退するジョシアに叫ぶ。

 「あぁ!すぐに行く!無茶はするなよ!」

 ジョシアの声に頷きながら、ディーンは部下を引き連れて、遠くに見えるガフェリアの隊にトリスタンを進めた。
 しかし、フィリップの後退で、隊を立て直したガフェリア軍は攻めては来なかった。
 後方に、二部隊が控えていることを、先ほどの作戦会議で聞いていたディーンは、前方に見えるガフェリア軍が援軍を待っていると判断する。

 「ジョシアは?」

 ディーンはガフェリア軍から鋭い瞳を逸らさずに、脇に従えている部下に聞く。

 「じきに本隊と共に到着します。」

 部下の言葉に後方を振り返る。
 大きな軍勢がこちらに向かって来ていた。
 先陣を切っているのは、先ほど別れたジョシアと部下達。
 はためくのはドーラロズの旗。

 早かったな、さすがと言うべきか。

 脳裏に過ぎるのは、ロズドアズ王子の美しい顔。

 しかし、やはり納得がいかない。

 聡明な王子が何故、戦になると予期出来なかったのか。

 王子が姫をガフェリアに帰していたら…。

 今にも泣き出しそうな、愛しい人の顔が頭を掠める。
 ディーンは小さく首を振りながら目を瞑る。

 今は、何も考えるな。

 生きて帰ることだけを考えろ。

 ディーンは目を開けると、ガフェリア軍に視線を戻す。

 あの場にいるガフェリア兵は、本隊が到着するまでの時間稼ぎといったところか。

 可笑しな巡り会わせだ。

 殿部隊として出撃したディーンにその役目は既になく、決死の覚悟で突撃したガフェリア軍は、今度は援軍到着までの時間稼ぎ役となってしまうのだから。

 「敵は深追いしていなかったみたいだな。」

 横で声がした。
 振り返らずともわかる。
 ジョシアは喉で笑いながら言った。

 「フィリップ殿の逃げ足が、予想以上に速かったのかな?」

 ディーンは目だけをジョシアに向ける。
 ジョシアは髪と同じ赤い色の瞳で、挑戦的な笑みを浮かべると、
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ