途切れた微笑み
□途切れた微笑み 第二話
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数日後、リタはカレルと共にフィル邸に来ていた。
馬車を降りたカレルは、リタに手を差し出す。
「あ、いえ。大丈夫です、カレル様。」
リタは遠慮がちにそう言うと、一人で馬車を降りた。
侍女である自分が、馬車に乗るのにも気がひけるというのに、その上、仕えているカレルに手を借りるのはもっと気がひけた。
「遠慮しなくてもいいのに。」
くすりと笑ってカレルは言った。
フィル邸に入ると、すぐにカレルに促され、リタは執事長のエリオットやその他の者と一緒に後に続いた。
すると、前方から一人の騎士が数人の部下と共にこちらにやって来た。
黒い髪に青い瞳をした、どこか近寄りがたい雰囲気を持った青年だった。
「カレル様。アンドリュー様から案内するように承っています。こちらです。」
騎士はそう言うと跪く。
カレルは笑って、
「あぁ。君は確かエバーズ男爵家の…。」
カレルが言うと、騎士は顔を上げ、
「一度しかお会いしていないのに、カレル様の記憶力には感嘆致します。エバーズ男爵、ディアラン・エバーズが四男、ディーン・エバーズです。」
ディーンと名乗った騎士はそう言うと、カレルは笑って、
「いや、人の顔と名前を覚えるのだけは得意だからね。それじゃあ、案内してもらおうかな。」
カレルが言うと、ディーンは頷いて立ち上がり、
「こちらです。」
そう言って、先に歩き出した。
リタは、この時はまだ知らなかった。
この近寄りがたい雰囲気を持った青年と、人好きのする雰囲気を持った青年との間で、揺れ動くことになることを。