途切れた微笑み

□途切れた微笑み 第六話
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 戦場に着いた瞬間、命令が下された。
 第一部隊、指揮官の敗走。
 指揮官が安全な場所に避難するまで、敵を食い止めよ
 それが下された命令だった。

 いよいよか…。

 ディーンは愛剣を握る手に力をこめる。
 目の前に砂埃が舞う戦場が見える丘に、ディーンは立っていた。
 後方では準備に勤しむ部下が鳴らす、剣や盾の金属がぶつかり合う音が聞こえる。
 ディーンは案の定、殿部隊、副部隊長として、早々に戦場に駆り出されることになった。

 「聞いたか?」

 隣に来て、ディーンに声をかけたのは、同期で、殿部隊、部隊長のジョシアだ。

 「何がだ?」

 ディーンは視線を戦場に向けたまま問う。

 「敗走した指揮官、俺の親父だったぜ。大方、部下を捨てて、一人で逃げてきたんだろう。」

 喉で笑いながら言ったジョシアに、ディーンは視線を向ける。
 ジョシアは尻上がりの口笛を吹くと、

 「騎士一族筆頭、ミカエリス家、次男にあるまじき言動だったかな?これは失礼。」

 嫌味な笑みを浮かべ詫びたジョシア。
 普段のディーンなら、皮肉の一つでも返してやるところだ。
 ジョシアも自分と同様、身分というものに飽き飽きしている人間だ。
 騎士たちの中でも、異様ともいえるほどの忠誠心を見せるディーンと、全く忠誠心を見せないジョシア。
 そんな二人の仲が良いのは、ここに起因していたからだろう。
 しかし、今のディーンには、皮肉を返す余裕はない。
 そんなディーンの様子に、ジョシアは眉をひそめ、

 「どうした?」

 「フィリップ殿は生きて、家族の下に帰りたいんだろう。」

 ディーンの口から出た意外な言葉に、ジョシアは驚いた。

 「おい、どうしたんだよ。俺の前でもお構いなく、親父の愚行に苦言を呈していたお前が。」

 目を丸くして、珍しいものでも見るかのように言ったジョシアに、ディーンは気まずそうに視線をはずした。

 「好きな女でも出来たのか?」

 ジョシアがにやにや笑いながら言うと、意外な言葉がディーンの口からこぼれた。

 「あぁ。」

 更に驚いたジョシア。
 ディーンが冗談を言う性格ではないことは重々承知している。
 ジョシアは本当なのだろうと思い、ちっと舌打ちをした。
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