途切れた微笑み
□途切れた微笑み 第六話
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朴念仁のこいつに好きな女が出来たのに、戦争か…。
ちらりとジョシアはディーンを見る。
悲壮な決意を抱いた横顔。
その瞳には、それでもまだ死への恐怖が映っている。
こいつのことだ、死ぬかもしれないから、思いを告げるのは生きて帰った後とか、そんな自分勝手なことを考えているんだろう。
相手の女が可哀相だな。
ジョシアは話題を変えようと、戦場に視線を落としながら口を開く。
「親父は家族じゃなくて愛人だろ。少なくとも、母上や、兄貴、俺には会いたいとも思ってないさ。」
本気でそう思っていたが、ジョシアはこの話題を提供した本当の理由を言って締めくくる。
「部下を置いて逃げるような腰抜けに、帰ってきてほしいっていう、騎士の一族の家族はいねぇよ。同じ騎士たちもな。あいつは名前だけだ。」
ディーンが目を上げてジョシアを見る。
その瞳を見てジョシアは思った。
あぁ、駄目だ。
再び視線を戻し、忌々しげに歯噛みする。
もう、こいつは騎士としてやっていくことは出来ないだろう。
雑念がありすぎる。
生きて帰る、死にたくない、そういう思いを隊を任されている騎士が抱いていては駄目だ。
隊を任されている人間は、自分の生死よりも、任務の遂行、そして部下の生死を優先させなければならない。
戦場で、生きて帰ろうと思う指揮官は不要だ。
親父がそれを立派に証明している。
いい腕だったんだがな。
ジョシアは、晴れ渡った空を見上げた。
生きるか死ぬかはさて置き、ディーンはこの戦争が終わったら、きっと騎士には戻れないだろうとジョシアは思った。