途切れた微笑み

□途切れた微笑み 最終話
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 何故、何も聞かなかったのだろう。
 こんなにも憔悴していたというのに…。

 エリオットは後悔したが、それももう遅い。
 単刀直入に聞くことにした。

 「リタ、どうしたんだい?何かあったのかい?」

 リタの瞳が目に見えて揺らいだ。
 瞬時にその瞳に涙が浮かぶ。

 「エリオット様…。私…。」

 エリオットは何も言わずに黙っていた。
 リタが自分から言うまでは何も聞かないという意味だ。
 エリオットの優しさに触れ、リタは心の中に押し込んでいた、自分では整理しきれない感情が溢れ出すのを感じた。
 リタは堰を切ったように涙を流し、絞り出すような声で言った。

 「私、カレル様に結婚して欲しいと言われたんです。」

 !

 エリオットは驚いた。
 カレルが本気なのは知っていた。
 だが、妻に迎えようとする程、愛情を注いでいるとは思っていなかった。

 リタは苦しそうだ。
 それなら…。

 エリオットはリタがとった行動を予測できた。
 でなければ、リタがこれだけ憔悴している理由はない。
 それに最近、カレル自身の様子もおかしかった。
 いつものように明るいのだが、突然その瞳に陰りを宿す。

 リタ、君はカレル様の申し出を断ったんだね。
 だから、そんなにも苦しそうなんだね。

 「リタ。もういいんだ。」

 エリオットの言葉に、リタは肩を震わせて、涙で濡れたその顔を上げた。

 「辛かったね。」

 その一言が、リタの心の堰を押し切った。
 誰かに言われたかった、その言葉。
 気持ちをわかって欲しかった。
 ただ、わかって欲しかっただけだった。
 リタは再び涙を流して、手で顔を覆った。
 憔悴しきったリタに同情したエリオットは立ち上がり、リタの背中を落ちつかせるように何度も軽く叩いた。

 きっと…。

 エリオットは思う。

 誰にも言えなかったのだろう。
 家族にも、この家に仕える者にも。
 友人にすら。
 貴族の青年からの結婚の申し出を受け、それを断って誰に言えるだろうか。
 一人、心の中で苦しみ続けたに違いない。

 「わ、私にはお慕いしている人がいるから。でも…!」

 リタは泣きじゃくりながら、言葉を続けた。
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