怪獣
□名残雪
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あれは、日本が戦争をしていた時だった。
百何mも離れた沖の戦艦から、装填された砲弾が1、2発と体に命中する。頬を掠めた所為か、胸を貫かれた所為か吐血した。
――――ああ…血か…
バカな人間。俺は島を守っただけ。
アンタらだって、分かってるクセに。
それでも、
―――もはやかつての自分を見失った――――
まだ俺を、救世主と買い被っているのか?
『名残雪』
今日は2月14日、聖バレンタインデー。天上は仄かに明るい白銀の色を映している。こんこんと、柔らかな雪が降ってきた。
商店街のアーケードからは、チョコレートの甘い香り、バレンタインの看板や商品が見える。
こんな日に恋人と町を行き交えばどんなに楽しいだろう。
モスラは歩道橋の下を通り抜けた。
クジャクチョウの美しい翅のような模様をしたマフラーを巻き、暖色に属する蜜柑色の髪。雪の降る中、見るからに暖かい。
両手に抱えるのは、赤と白のチェックの入った紙袋だった。恐らくチョコレートをいれたセロハンの袋か何かが入っているのだろう。
本命であるバトラの事を考えつつ、「聖なる泉」の鼻歌をしている。
ふと、焼けた何らかの臭気がした。モスラはハッとして顔を上げる。
そこに立っていたのは、全身黒焦げのガメラだった。
あまりの非現実さに、モスラは正直引いてしまった。現にガメラの服は今だに燻っている。アーケードを行き交う人々にも、避けられてる感が否めない。
「だ、大丈夫ですか?何があったんです!?」
慌てて問うと、彼はしかめっ面で答える。
「…出会い頭にゴジラに熱線かまされた。」
彼女は、絶句した。
一方、その様子を電信柱の影から覗く、あからさまに怪しい人影が2つ。
不審者1は、モスラの愛に生きるバトラ。
不審者2は、最近ガメラが気になるイリス。
彼らの指を食い込ませた電信柱がメキッと軋む嫌な音がしたのは、多分気の所為ではない。
ところ戻って守護神のモスラとガメラ。
「あれ、モスラさんは何を持っているんですか?」
彼は抱えている物に気付いて聞くと、彼女は頬を桜色に紅潮させる。
「フフッ…今日はバレンタインだから。ガメラさんもどうぞ。」
紙袋から取り出されたのは、シンプルだが可愛らしさのあるセロハンの袋だった。中には勿論チョコレート。
それに、にこっと、モスラの純真無垢な微笑みが相乗された。
「うわあああっ!!!何故だ!?何時の間にあいつらはこんなに親しくなってたんだアアアアア!?」
「折るよ。」
その時バトラは普通でいられなかった。イリスにしてみれば相当騒がしい。