怪獣

□ジュゴンの見える丘
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父さん、
やっと…休めたね。

父さんは、僕が笑えば笑ってくれた。
でも、いつも、ほんの少しの悲しさを秘めていた。
だから僕は、父さんが本当に心から笑える日の為に、父さんがたった一人で背負っていた荷物――髑髏の白さより痛く、折鶴の五色より重い――を、受け継ぐ決意をした。
だから「俺」は、戦う決意をした。





宇宙からの、強行者。
侵略、破壊、そして千年王国。
これは俺の戦いだ。
父さんの為に戦っていないと言えば嘘になるが、父さんの遺志は俺の意志。
この力も、その為のもの。
奴に与えてはいけない、与えるべきではない。

気付けば、俺は花畑にいた。
嗚呼、父が諦めていた焼け土に白い花が咲いている。
白…父さんは夾竹桃が好きだったっけ。
街を、海を、空を、世界を、父さんはどんな目で見ていたんだろう。それらが父さんの目にはどんな風に映ったんだろう。
ただ一つ分かること…ここは、平和だ。

俺はその花畑の中で、誰かを見つけた。
少年だ。17歳くらいだろう。まだあどけなさが残る顔立ちに、綺麗な刺繍が施された着物。
メラニンの豊富な黒い髪と長い睫毛。
そして誰かに似ている。
彼は眠っているのだろうか。それとも死んでいるのか。だとしたら本当に生きているように…ただ眠っているだけのように見える。
答えは後者だ。
この少年は、俺の大切な人に似ていた…いや、昔のその人だ。
俺とそう年も違わないうちに、その人は全細胞と胸に消えない傷を残した。
彼は自分が傷付く事など幾らでも耐えられただろう。だが、奴らは彼の命より(彼が常々そう言っていた)大切な島を奪った。
その人は奴ら…人類を恨んでいた。しかし、憎みきれなかった。
彼の望んだ細やかな人生を、あどけない夢を、誉めないものもいるだろう。なじるものもいるだろう。
でも…俺は、何度でも幾つでも讃えよう。

「おやすみ、」

今彼を起こしてはいけない。
彼が本当に笑ってくれるまで、俺は。

「…父さん。」
















時代の一節に掻き消したりなどさせない。
途絶えさせるな、語り継げ。
忘れてはいけない。祈りを歌え。
繰り返すな、悲しみと過ちを。

この力の価値を、お前は知らない。
どんなにこの力を使いこなそうと、どんなにこの俺を地面にへばらせようと、この力が何の為にあるか知らず誤った使い方をしている貴様に、この力を使わせるわけにはいかない。



だからオルガ、俺はお前を絶対に許さない。
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