怪獣

□浸食―lose control―
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あれから40余年。
あの日の痛みは、今でも鮮明に覚えている。









『浸食―lose control―』









体内の原子炉が暴走した。

マグマのような熱さが体中を焼き付ける。
どうしてこんなに紅く染まっているのだろう。戦禍の火色?傷付いた血色?

…俺は死ぬのか?

嫌だ…死にたくない!
こんなところで死にたくない!
だって俺にはまだやりたい事がある。
生きたいんだ、こんな半ばで死ねるものか!
何の為に?
待って、待って、待ち続けた。希(こいねが)う…、その時迄。
でも来ない。
何を必死で待っていたのか、思い出せない。
だけど、必死で待ち焦がれたその日は相変わらず来ない事だけははっきりと分かる。

頭が朦朧としてくる。紅蓮のように体が熱くて熔けてしまいそうだ。
そうだ…、どれ程あがこうがこの死期からは逃れられまい。
この忌々しい身体――――
いっそ跡形もなく燃え去るのならそれでいいかもしれない。あの時、あの故郷の島で、息尽きる筈だったのだから。
生きるだけで背負い続けて苦痛だった。「核」という名の十字架。それを背負う事が俺の使命で、存在証明で、苦痛で、そして待ち侘びる日の為。
破壊から大切なものを守る為に戦ったのに、皮肉にも破壊兵器によって息を吹き返した。
誰にも俺を殺せなくなってしまった。
大戦は終わった。核実験も規制された。でもそれでもまだ平和なんかじゃない。
何も分かっちゃいない。
偽りの平和に現つを抜かし…戦禍を忘れてしまう。
そうしたら、また戦争が起こるのか?
俺はそれが堪らなく辛い。
それなら、いっそ俺が戦禍を思い出させよう。何をしようとも。

――――その為なら、俺は修羅になる。

だが、それももはや限界だ。
身体はとっくに悲鳴をあげている。
忘れたら…また誰かが死ぬのか?

――――ならばその眼に焼き付けろ。

核が生み出すものは、結局破滅しかないのだと。この灼紅の我が身を。そして、忘れるな。それが、科学を…核を弄んだ人類の償い。
せめて、覚えていてほしい。






ふと、脳裏にJr.や人間の三枝美希がかすめる。

そして最期によぎったのは、故郷に咲く、一輪の花だった。
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