怪獣

□CHRONO=LATHE
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【CHRONO=LATHE】

「話して下さい。」
突然、五条梓が問い掛けた。
「…何を?」
「貴方は、どうして破壊をするんですか。」
彼の胸に僅かな揺らぎが生じる。昔欠落した筈の感情によって。
「ヒトが嫌いなんだ。当たり前だろう。」
そう、彼から全てを奪ったのは人間の所為。
「…嘘を吐かないで。ゴジラ、貴方は本当は、誰も殺したくなんかなかったんじゃないですか?」
彼女の澄んだ瞳が、ゴジラの心を詮索するようだった。
昔に消した感情が怒りと同時に抉りだされる。
怒り、悲しみ、恨み、憎しみ、そしてたったひとかけらの慈悲。
「本当は、人間を…」
「煩い!違う…違う!ニンゲンなんて大嫌いだ!!邪魔なんだ!!」
取り乱して激情する彼を見て、少し詮索し過ぎたかと焦る梓。
「お前の言うように、ニンゲンが優しい生き物なら…何であの時…俺から全てを奪ったんだ!!」
――――本当は好きだった。
何かの為に命を懸けれる。
重傷の俺を看てくれた。
だけど、欲に手を出し、俺から全てを奪い、ニンゲン同士で殺し合い、偽りの平和に現つをぬかす。
裏切られたんだ、俺は。
「…ごめんなさい。今は未だ、聞くのは早過ぎました。」
梓は小さく呟く。
俺はニンゲンが好きだから、許せない。時が経てば奴らは災厄を忘れてしまう。
戦禍の哀しみと、平和の安らぎを。
だから、忘れさせない為に俺は破壊をする。
なのに―――
「なんか、悔しいな。」
癇が鎮まったゴジラが口を開くと、俯いていた梓が首をあげる。
もし忘れていいのなら、誰も殺したくなんか…
「俺の肉体が滅んで、生きた証を誰もが忘れたら、本当に死ぬって事なんだろうな…」
俺の肉体は一度滅んだ。
あれからもう4年経っている。
今は科学技術で元のG細胞を利用し、ヒト型になっていて非力なものだ。
俺は死ぬ。
「ゴジラ…」
貴方は、破壊しか出来ないんですか?
美しい紺碧だった筈の体を放射能の毒でどす黒く染め上げてしまった。
梓が彼の横顔を見ると、表情は見えなかった。だが、彼の頬に血が、涙のように伝っていたのが見えた。
『心を悼めて迄、幸せが欲しいの?』
そんなの幸せじゃない。貴方が一番分かってるでしょ?
「…悔しいね…」
梓はそれだけ答えた。
一番平和を愛している貴方が、そうでもしないと訴えられない。そうするのが合理的。

――――でも、そこにあるものは、一体何ですか?



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