堕落を望んだ神の子供

□PROLOGUEー紅に染まった化物はー
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刺すような痛みに、消え失せた意識が浮き上がる。
俺はどうしたんた?
ゆっくりと重い目蓋を開いた。
だが、何の景色か分からない。
ただ赤いだけだった。
地面も、死体も、自分の衣も髪も爪も、そして自分も。
鼻を突くような血の臭い。だが、そんな事は分からない。
ただ赤くて痛かった。傷の所為じゃない。自分が血だらけになっていたから。

血。血。血。
人間の血。

血は、犬夜叉の身体に染み付いていた。
恐い。
「俺が…殺ったのか?」
犬夜叉は妖怪の率いる野盗から、この村を助けに来たのに。これ以上人を死なせない為に来たのに。
彼は自嘲気味に言う。
「ふっ、俺の爪…野盗達の…人間の血の臭いが、たっぷり染み込んでやがる…」
人を殺す化物は、おれじゃねえか…
「化物…!!」
村の面々が口々に言う。
身を引き裂かれる思いだった。
慣れた筈なのに。
……慣れる筈ないだろ。いつも傷付いていた。平気な振りでもしないと、耐えられない。
完全じゃないから。
「化物だって構わねえ!兄ちゃんはじっちゃんの仇をやっけたんだ!悪い奴らを皆殺しにしてくれたんだ!!」
以前助けた村の少年が言った。
「違う…」
俺は人間を狩っただけだ。そう言いたかった。
何も覚えていなかった。変化してる間の事、人を殺したことも。
仇なんていう綺麗なものじゃない。
以前なら、少年の言う通りに出来たかもしれない。でも自分は堕ちてしまった。
人を殺す化物に。本当の化物に、堕ちてしまったから。

川で血を洗おうとした。何度も何度もやったのに、全く血の臭いが落ちない。
血のように紅い夕日が映えていた。
恐い。
自分が恐い。
いつ、自分が化物に呑まれるか恐い。
大切な人がやっと出来たのに、殺したくない。
彼女はすぐ側にいる。あんな化物の姿を見ていたのに、悲しそうな目で俺を見る。
犬夜叉は川からあがると、かごめから大分離れた所に腰を下ろした。だが彼女は、彼の側に寄り、座る。
「タオル…」
「要らねえ。」
側に寄るな。殺したくない。
「無理して側に来なくていいんだぞ。」
だがかごめは、綺麗な目で見つめるだけで、黙っていた。
俺の、人間とは違う瞳を、黒く、澄んだ瞳で…
何でそんな顔をするのか分からない。同情するような、いや、自分の事のように悲しんでいる顔をしている。
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