堕落を望んだ神の子供

□第一章ー神の子の顎門ー
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「うう…」
苦しそうに唸ったのは、腰まで漆のように黒い髪を伸ばした、精悍な面差しの少年だった。
16、7歳位だろうか?それにしても顔色が悪い。
「大丈夫犬夜叉?眠ってた方がいいわよ。熱あるんだから。」
彼程ではないが長髪でセーラー服の少女が聞いてきた。
「アイスが喰いたい。」
「駄目。」
夕日の照る中、かごめは即答した。
犬夜叉とかごめは、廃墟となった御堂に居る。
「けっ、秋だから鏡餅喰っちゃいけねえなんて事誰が決めたんでえ。」
「…あんた、それ全然関係ないわよ。」
今日は丁度朔の日だ。犬夜叉にとって一番嫌いな日。
彼は沈んでいく夕日を見ていた。
自分が弱くなってしまう朔の日。いつ死ぬか分からない。たった一人の、大切な女も守れない。
妖怪になれば、こんな面倒な事とはおさらば出来るのに。
それも叶わぬ夢だった。
この夕日は、それを知っている。半妖に、完全なものなど何一つ、手に入らない事を知っている。
だから彼は言う。
「アイスが喰いたい。」
「薬なら喰ってもいいけど。」
…前文は?
弥勒、珊瑚、七宝、雲母は、犬夜叉に飲ませる為の解熱剤を買いに出ている。
「犬夜叉、今日くらい休んだ方がいいわ。」
かごめが言う。だが犬夜叉ときたら…
「こんな風邪、朔が明けたら治るぜ。俺は全っ然疲れてねえぞ。」
なんて言う。因みに今の体温は39℃。しかも何故か立っている。普通なら喋る事もままならない。
バリバリの痩せ我慢である。
かごめは白々と犬夜叉を見ると、
「おすわ…」
「俺は寝るぞ!?」
なんか急に睡魔が襲って来たみたいだ。
ここには全てが揃っていた。
どうでもいい話をしたり、ただ笑い合えて、大切な人も、自分を大切に思ってくれる人もいて…
自分が欲しかったものが全て揃っていた。この、仲間には。
完全な妖怪になるのを望んでいたのは、居場所が欲しかったから。
半妖に居場所なんてある筈ないのに。
ここでは俺が半妖だという事も、当たり前のように接してくれる。
皆に個性があるように、当たり前のように接してくれる。
かごめは微笑むと、
「おやすみ。」
そう言った。犬夜叉は、少し顔を赤らめると、照れ臭そうにちらりと目を逸らした。
「ああ。」
空には星が見え始めた。

「おかしいな、いきなり妖気が消えた。」
落ち着いた口調が言った。声の持ち主は一本の木の天辺に立っている。
短く、首筋辺りまである黒髪。チャイナ服のような、膝辺りで四つに分かれた黒い衣。美しく整った顔立ち。短く切り揃えられた眉。そして静かに閉じてある目。
20、1歳位の青年だった。
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