堕落を望んだ神の子供

□第七章ー紅蓮の暴走、鮮血の覚醒ー
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「二度も通られた…親父にも通られたことなかったのに!!」
梓が通った結界を見ながらア●ロ・レイのようなリアクションをして立ちすくむ芹だった。



「ま、周りを…喰いやがった…?」
クレーターのようにごっそり開いた大穴の上空に、顎門はいる。何かしらの妖術を使っているのか浮いたままだった。
ふと、彼の背中から蜻蛉(かげろう)のように細長い光の翅が伸びてきた。翅は天を四つに裂くかのように、光りながら広がる。それはまるで揚羽のように。
「…半妖、変化して何になる?」
茜が睨みながら聞く。
「違う。周りを吸収して妖力の全回復をしただけ。貴方相手に本気になって変化するなど必要ない。」
両者とも相手を見下している。
「咎狩。」
茜が呼ぶと、それだけで茜の側に咎狩は寄り添った。
「無駄ですよ、貴方達の速さでは僕は倒せない。」
相変わらず表情が読み取れない顎門。
「焔の契約を解け。さもないと、殺す。犬夜叉は不殺の流儀があるけど、僕は違う。」
顎門の殺気が一段と強くなっていく。
拒否したら、殺すつもりだ。犬夜叉の頬に冷や汗が伝った。
「茜!そいつは本気だ!焔…咎狩を解放しないと、本当にぶっ殺されるぞ!?」
犬夜叉が言うと、茜が横目にガンを飛ばした。
「煩い、出来損ない。お前に情けを掛けられる筋合いはない!」
無論、犬夜叉は激昂する。
「あんだとこのアマ!俺はなあ、なしえもしねえ綺麗事が大っ嫌いなんでえ!それに俺は神様じゃねえんだ!一度の侮蔑でも胸くそ悪いが、何度も侮蔑されるとすっげーむかつくんだよ!」
そう言いつつ、斬るなんて考えは毛頭ない犬夜叉。
どうにも両者にも説得が適わないままだった。
「血の汚れ仕事は僕の役目です。犬夜叉とかごめさんは手出し無用。」
顎門は日輪の紅炎(プロミネンス)色の鋭い眼を大きく見開き、茜から一寸も目線を逸らさずに彼らに告げた。
「血…って…何言ってんだよお前…」

血による汚れ仕事…殺戮。

犬夜叉の脳裏に、地獄が一瞬に点滅して移り変わって蘇った。

頭を抉り取られた死体。
胴を失った屍。
夕立の水溜まりのような血溜りの地面。
自分の爪に染み付いて消えない血の臭い。

だがそれは、自らが作り出した地獄。
この爪で。

化物扱いは辛い感覚が麻痺してなんとも感じなくなっていた筈だった。
だが、あの時は非道く悲しかった。生き地獄というのだろう。
…人間の心を捨てたから…

「……」
激しい動悸を覚え、衣の重ね目の上から心臓の痛みを抑える。だが、誰にも気付かれないように。
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