短編・詩

□バレンタイン
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聖バレンタイン前夜―――

袖を捲くし上げ、エプロン姿のかごめ。
この日彼女は台所で戦っていた。
溶かしたチョコを、手の平大のハート型に注ぎ、冷蔵庫に保管する。
「ふーっ、終わった!」
そう、明日はバレンタインデー。
無論、本命の犬夜叉にあげる為。珊瑚や弥勒に七宝には義理チョコを用意している。

「あらかごめ、バレンタインチョコ作り終わったの?」
台所から居間に移ると、母と弟の草太が炬燵に入りながらテレビを見ていた。
「まあね、冷やし終わったら完成するわ。」
そういうと、彼女もまた炬燵に足を入れる。
ついていたテレビは動物番組だ。今犬の特集をしている。

そして、事件は始まった。

「もうすぐバレンタインですが、犬にチョコを与えてはいけませんよ。最悪の場合死にますから。」

番組に出演している専門家が、そういったから。
「―――犬夜叉。」
真っ先に浮かんだのはいつも無愛想だが優しい犬夜叉の顔。
『…嘘…』
犬夜叉は半分は人間。犬扱いして彼が怒るのは火を見るよりも明らかだ。
だが、万が一残り半分の血が原因で最悪の事態に陥ったら元も子もない。
『…そっか、折角頑張って作ったけど…』
目頭がどんどん熱くなっていく。
「お、おやすみ。」
そう言い残すと、直ぐ様炬燵を出て忙しく階段を駆け昇った。




翌日・聖バレンタイン当日―――

自室でベッドを座りながら、完成した本命チョコを虚ろげに眺めるかごめ。
「…仕方ないよね。」
丹精込めて作ったけれど、彼が食べたら命の保障はない。
自分で食べて片付けよう。
今のこのチョコは、とても苦そうだけれど。

その時、

「ふっ、お前の愛はその程度か。」

ふと、中性的な声が聞こえた。

かごめの部屋にはかごめしかいない。だが、かごめは何の動揺も見せなかった。
「そんな挑発乗らないわよ。」
彼女には視えるから。そして、声の主を知っているから。
「何蛇骨?来るのはお盆だけにしなさいよ。」
かごめは床にあぐらをかいている蛇骨を見る。
既に彼は死んでいるので、恐らくは霊体だろう。
「あげちゃえあげちゃえ!犬夜叉が地獄に来てくれたら天国だからな〜」
「……」
蛇骨が勝手に盛り上げるのを無視して、かごめはチョコを食べようと口を開ける。
「ちょっと待ったぁ!!」
「何すんのよ!!」
かごめの手を、蛇骨が掴んで放そうとしない。
「てめえの犬夜叉に対する愛は、そんなもんなのかよ!」
「煩いわね!自分の気持ちを押し付けるのは愛とは言わないの!!」
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