短編・詩

□星霜
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‐星霜‐


太陽は沈み、その残り火が西の天を濃く緋色に染め上げている。
月の影はなく、墨を溢したような漆黒が既に東の空を侵食していた。

「……」
まだあどけなさの残る少年が森の木にもたれかかっている。
紅蓮の衣と、たっぷりとした長い黒髪。
少年の目は、とても子供のものとは思えなかった。
大きな瞳こそ少年らしいとはいえ、あまりにも荒んでいて。

今日は、朔の日。

「どうされたんですか?」
不意に犬夜叉は声をかけられた。
振り向くと、法師がいる。
だいたい14,5歳だろう。
この黄昏時、妖怪退治にでも出張していたようだ。
「…別に。」
半妖の彼にとって、他人との接触は苦手だ。犬夜叉は適当にあしらう。
「何言ってるんだ!」
いきなりの強い口調に、思わず犬夜叉はたじろいだ。
「日暮れに外にいたら、物の怪に憑かれるぞ。危ないだろ!」
久方ぶりの温かさだった。
でも、本当は自分もその類だと犬夜叉は思い、温かさと同時に僅かに痛い。
「俺には…関係ない…」
ただ、偽善者だけは許さないし許せない。
「…。そうか。」

そして、暫くの静寂。

「危ないから。」
「知らん。」
法師が再び同音を口にしたので犬夜叉は即座に軽くはねのけた。
「あのさ、」
「なんですか?」
犬夜叉はあまり感情の籠もってない口調で法師に言う。

「半妖を知ってるだろう、どう思う?」

緊張に鼓動が高まるが、表情を消すくらいは出来る。
法師は錫杖を首にすがらせると、あまった左手で自分の顎を持つ。
「半妖、ですか。」
答えの僅かな光に希望はしない。
答えは人間が自分に突き刺す態度に表れるからだ。
なのに、気付いたら犬夜叉は法師に聞いていた。
「半妖って確か、半分は人間なんですよね。」
法師は微笑うと、

「人の情もあるんじゃないでしょうか。」

そう答えた。
犬夜叉の表情が、微かに変化する。
「綺麗事を…」
そっぽを向いて呟くと、法師が錫杖で勢い良く犬夜叉を指した。
「おい、お前が聞いてきたんだろうが!?」
丁寧口調が、荒くなる。
「お前の美辞麗句の理屈じゃ、妖の残虐性もあるぞ。」
「…あ。」
犬夜叉のあまりに虚無主義な態度に、法師は頓智が出なかった。

東の空には星が点々と光っている。

「うわっ、もう夜じゃないですか。和尚様に叱られる!」
法師はそう言って慌てるのを、犬夜叉は無関心に眺める。
ふと、
「はい。」
犬夜叉は長方形の白紙を押しつけられた。
流れるように書かれた漢字。編まれるように描かれた呪印。お札だ。
「札?」
よく見ると三枚だ。
「物の怪が出ますから、気を付けてください。」
法師は愛想よく笑うと、全速疾走し始めたのだった。
恐らく彼の寺へ向かったのだろう。犬夜叉の前から法師は消えた。
「…馬鹿が。」



次に会う時は、敵同士。
お前は、俺があの時の俺だとは分からないだろう。

それでも。
真心を、ありがとう。




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