短編・詩

□夢魘
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‐夢魘‐



夢を見た。
胃の辺りが剣に刺されるように痛む。
そんな、嫌な夢。


その夢は、人間を屠殺する。


音を奪われたような焼け跡の村。
誰も居ない。
誰も居ない。
炎から免れた、淡い色のミヤコワスレの花が、一輪だけで埒の側に咲いているのが見えた。

再び顔を上げると、景色が変わる。

―――雨?
夕立のように降ると、それは直ぐに止んだ。
泥を地面に叩きつけるような、感触の悪い音が雨のように落ちる。

見ると、周りは赤一色。

雨は血で、泥は人間だった破片。
―――何だよこれ…
残忍で非情。こんな非道い事をした者が頭に直接伝わって理解する。
―――俺?
止めろ。
止めろよ。
身体が、いう事をきかない。
人を殺す自分がいる。
その自分を、ただ見てるしか出来ない自分。
―――俺なのか?
逃げ惑う野盗を、事もなく躊躇なく断頭していく。
否応なく返り血を浴びた。
首のない野盗は、糸の切れた操り人形のように突っ伏す。頭を割られた死体は、死んだ事さえ気付いてないように目を見開いたままだ。
―――俺が皆を殺したのか?
嫌だ。
―――助けて!!
そんなものあるはずがない。
だって自我を忘れた狂気の殺戮兵器。
出来損ない≠ノ味方がいるはずないだろ。






そこで目が覚めた。
寝る前――今日の白昼の悪夢、俺は記憶がない。
残ったのは、決して流れない、決して取れない血の臭い。
俺が心神を喪失している間、俺は悪夢の当事者。
―――俺が、消えてしまう。
胸が握り潰されそうな程痛んだ。
桔梗の時もそうだったが、俺が半妖の所為で、周りが死傷する。
人間と妖怪は、所詮水と油。
平穏など容易く壊れ、そして儚い。
俺自身内なる恐怖に耐えるのに精一杯だった。
―――怖い…
今の俺も俺で、悪魔の俺も俺だ。
どっちも本物。
今の俺が分別≠キる者。
悪魔の俺が実行≠キる者。
鏡のようなもの。
「……」
―――俺は…
「どうすればいい…」
…ごめんなさい。
……ごめんなさい。
水が欲しくなってきた。でも血の味がしそうで飲みたくなかった。

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