怪獣

□名残雪
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「わぁ…いいんですか?ありがとうございます!…何かゴジラ、俺に会う前から機嫌悪そうだったな…」
「けっ、あいつのテンションの低さは今に始まった事じゃねーだろ。」
ガメラの台詞に、物陰からバトラは目ざとく突っ込んだ。
事実、ゴジラは機嫌が悪くない方が少ない。骨が擦り減らないのが不思議なくらいだ。そして、「あの出来事」以降、笑った事も泣いた事もない。
「バトラ、ゴジラって関係の無い人に迄危害を加えるの?信じられない。」
パートナーの綾奈と意志疎通をしていたイリスは、綾奈のその記憶にある、今は無いガメラへの憎悪に近いものを思い出す。
「いや、イリスもだしお前の巫女の綾奈だって…」
村の半分以上の人口をミイラにしてるし、家を無茶苦茶にするし、自衛隊1個小隊壊滅させるし、京都を大火にするし(以下略)復讐の為に無関係者に思い切り危害を加えまくっている。イリスにそう言おうとしたが、
「アヤナが何よ!?あんた吸い殺すよ!?」
「…ごめんなさい…」

半世紀以上前の同日、モスラは思い出した。
「2月14日…」
ゴジラがまだゴジラザウルスとして生きていた時の、心の底から微笑った顔が浮かぶ。
幼馴染みが、日本兵と別れた日。そしてその日本兵の隊長は死んだ。
違う、彼が殺さなければいけなかった。

数年前の冬、モスラはゴジラと、春を待ち蕾を宿した桜並木の道を歩いていた。
「あ、雪。」
手に氷晶が舞い降り、しっとりと水滴となった。モスラは空を見上げる。
羽織を纏い足袋や下駄を履いて一応の防寒対策はしているものの、寒いのが苦手なゴジラ。
だが、文句の1つも吐かず、彼女につられて少し眠そうに空を見上げる。
「雪、綺麗ね…」
白い六花に魅入るモスラとは対照的にゴジラは、少し目を見開いたが、直ぐに眉を潜める。
一瞬、彼は死の灰を幻視した。
「…ゴジラ?」
彼の様子に気付き、彼女は彼に話し掛ける。
「雪はあまり、好きにはなれない…」
ハッとして、モスラは言葉に詰まった。
「ごめ…」
「おいおい、何で謝る事があるんだ?」
そういってモスラの言葉を止める。そして彼は、上手に笑ってみせた。

そして今日も、雪は降っている。
あらゆる熱を奪い取ってしまう。優しかった彼の温度も、そうなるのだろうか。
「………」
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