怪獣

□名残雪
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郊外の霊園。その一角にある墓の前に、国防色の長い羽織を着た、黒くてやはり長い髪の青年が1人佇んでいる。
口から、冷やされた白い息が出る。
「俺は、間違ってなんかいないんだ。」
ほんの僅かに哀しげに彼は雪の空を眺めていた。
「太陽が落ちた時」から、日のどんな光にさえ反射しない漆黒の長髪、緋色の憤りを宿す褐色の虹彩の持ち主、ゴジラだ。
「ゴジラ。」
急な呼び掛けだが、聞き覚えのあるよく澄んだ声の方向に目を向ける。
モスラとガメラだ。
「出会い頭に意味もなく攻撃するなんて、貴方らしくないじゃない。心配したんだから。」
長方形の御影石を敷き詰めた道の、右手前にモスラ、その左後ろにガメラ。丁度彼と彼らは対峙する状態になっていた。
フ…、と聞こえない程度の溜息を吐き、呟く。
「…いつの話だよ…」
暫く考えるように俯いていたが、数秒で面を上げた。
「別に、チョコ貰えなかったから。」
嘘。直ぐにモスラには分かったが、そうは言わずに相槌を打つ。
「そう…でも大丈夫よ。はいコレ、ゴジラの分。」
ガメラの時と同様に、モスラは微笑ってチョコを手渡した。するとゴジラは驚いたように目を開ける。
「あ…えっと、…感謝する。」
上手く笑おうとしたが、出来なかった。だけど、モスラがそれを見て嬉しそうだったで、ゴジラも幾分嬉しくなった。

しかし、嬉しくないのが1名。
「うおああああ!モスラアアアア!あんな無愛想野郎の何がいいというんだあアアアア!?」
寸での所でバトラはジェラシーを抑えていたが、遂に堪忍袋の尾が切れた。
「バトラ!」
イリスが制止しようと試みたが、時既に遅し。

ゴジラからモスラとガメラを点対称とする墓石の後ろから、彼が飛び出ていた。
「バトラ!?貴方何してるの?」
3人とも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
彼の後ろから、ショートカットの黒髪を持つ少女・イリスが渋々姿を現した。
「ゴジラ貴さ…」
「バトラお前…さっきから尾行してたのか!?」
バトラの言葉を遮って、無味乾燥に淡々とゴジラが言う。日光の角度が問題で、表情が見えなかったが、一瞬だけ瞳が真っ赤な光を放ったのが見えた。
カツ、と乾いた下駄の音が1つ、また1つと彼らに近付いていく。
「…あ。」
いくらゴジラの表情が乏しいといえど、声のドスと、熱線を放射する約1.47秒前に霹靂(はたた)く青白いチェレンコフ光を見れば、誰だって彼が怒っている事は分かる。
だが、その予兆はあまりにも短過ぎた。そして、

「爆ぜ殺すぞ!?」

彼の揃えた両手から、まばゆいばかりの熱線が放たれる。
爆音と同時に石畳が融解ないし昇華し、爆ぜた。膨張した熱気が周りの空気を吸収して石畳の瓦礫を吹き飛ばす。
熱線はあっという間に焦土の道を形成していき、モスラ、ガメラ、バトラ、イリスに迫っていく。
破壊音が来る前に慌てて、モスラとバトラが右に、ガメラとイリスが左に道を開けて避けたが、頬に熱気が確かに通り過ぎた。
その音は遠くになるにつれ小さくなっていく。そして、ターン、と何かが確実にぶっ壊れた爆音が届き、爆風に髪が扇がれた。
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