怪獣

□ラドン温泉湯煙事件・前編
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「何よアイツ!」
先程ガメラと同行していた少女…イリスの声が、反響する。どうやらご立腹の様子だ。
モスラとイリスは男子と別れて女湯に浸かっている。露天風呂で、満天の夜空に立ち上る湯気が風情を醸し出していた。
「どうしてあんなに食って掛かるのよ。ガメラがアイツに何かしたわけでもないのに!」
アイツとは、ガメラに殺気を出しまくっていたアイツである。
イリスは手を握り締めると、再び開いた。
「絶対…木乃伊にするんだから。」
そう、イリスの十八番はスピア・アブソーバー■鋭利な槍状の触手の先端から、生体エネルギーを吸収する。
だが、生体エネルギーと言えば聞こえはいいが、実際雑巾の水を搾り取る以上に相手の血液といった体液という体液を干物に仕上げる迄吸い上げる。しかもDNAを読み取っているらしい。
彼女の糧となったのは、猫缶から始まり、猿、鹿、人間、ガメラ(右腕)。
浅黄が言う通り、綾奈がやめないと、皆死ぬ。
「イリスちゃん、血を吸うのはやめた方がいいわ。あの人の血、毒だから。」
「やってみないと分からないでしょ!」
モスラはゴジラの為にもイリスの為にも、やめてもらうように言うが、イリスの意志は堅かった。
「アイツの血は何色かな。赤?黄色?緑なら許してやってもいいけど、多分ドドメ色ね。」
「……」


一方、男湯。
こちらもやはり露天風呂だ。メカのくせにまったりとしている機龍や、指で水を発射して遊んでいるJr.とバトラの姿が見受けられる。ラドンがいないのは、一番最後に入って掃除をする為だそうな。
だが、何故Jr.がゴジラと一緒にいないのか分かるだろうか。
それはゴジラとガメラが湯煎で勝負をしているからだ。どちらが先に上がるかという、暗黙の長期戦。
『亀の分際で、なんでスッポン鍋になんねぇんだ!』
『この人、俺が先に上がるように温泉に高温放出してる…70、いや80℃か?』
殺し合いで勝負を決めないだけまだマシなのだが、やる事なす事小学生だ。
だから機龍は皆が彼らのトバッチリを受けないように水温調節を行っている。温泉で逆にエネルギーを消耗している。
「勝った方が正しいとか、負けた方が間違ってるとか、そんなの理不尽だよ、ゴジラ。」
「何で名指し!?」
機龍はゴジラを止めようとするが、それは無理だった。
名指しされた事を少し怒っているゴジラに、機龍は困ったように微笑んだ。
あれから半世紀と余年。
『成長して大人びた分もあるけども、この子は随分変わってしまった。』
機龍は追憶する。あの事件さえなければ、彼は素直で優しい大人になっていた筈なのに、と。
「あの2人は置いといて、坊主、そろそろ上がるか。」
「うん。」
ゴジラとガメラの小競り合いに付き合ってられないとばかりに、湯槽から上がろうとした。
その時だった。
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