怪獣

□ラドン温泉湯煙事件・後編
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「やっぱり、戦うんですか。」
ガメラは問いた。
「当たり前だ。」
ゴジラはそれに答えた。
「人を守るとか、守る為に戦うとか、あんたの言ってる事もやってる事も間違いなんだ。だってそうだろう?」
彼はピン球を打つ。だが、ガメラには返せる玉だ。
やけに食って掛かる。ガメラはそう感じた。
人間との間に何があったのか。無ければここまで食って掛かる事はありえない。
それなのに、今ガメラと対峙している男…ゴジラは相変わらず無表情だ。
「どうしてそんなに食って掛かる…」
その真実の答えは彼しか知りえない。
「何があった…答えろ、ゴジラ!」
気持ちに呼応して、ガメラの放った玉は打った途端に加速した。
だが、ゴジラは拒絶するかのようにそれを跳ね返し、ガメラの右頬を掠める。
頬が、切れた。
じわりと右頬に痛みが騒ぐのを感じるガメラ。
「ただ…判らないだけだ。」
判らない事…それはガメラの「正義」。
やはりゴジラは無表情だが、殺気は先程の傷がまざまざと表していた。
「人間皆悪…とでも言いたげですね。皆が皆、そうじゃないだろ?」
そう言った時、ガメラはゴジラの変化を見る。
「!」
『この眼…』
毛程の僅かな変化。瞳孔が開いた。赤い虹彩と黒い瞳は、月蝕に似ている。
恐らく、怒り。
「俺はお前の全てを否定する。」
ゴジラは、重く、強く、言い放った。
その殺気にガメラの鼓動が早まり、一気に頬の傷から血が溢れた。
彼らの戦いを見守っていたJr.は目を少し伏せる。
『ああ、これが、核なんだ…』
今のJr.と然程年の離れていなかった時、彼の養父は核を被ったのだ。
ゴジラは先程の打球でひしゃげてしまったピン球の代わりに、新しいそれを持ち出す。
「…いくぞ。」
彼は静かにそういうと再び打ち放った。
ガメラはラケットで玉を受け取るが、一体どんな打ち方をしているのか、ラケットの柄に衝撃を感じた。
それでも、まだ返せる。
「ガメラ!」
イリスが叫ぶ。
「くっ!」
少し唸ると、玉を打ち返した。
『何か、違う…』
――一体何が?でも、確かに何か違う。
「あの時――」
ガメラがそう考えていた時、ゴジラが言い始める。
返された玉を、彼はその手のラケットで明後日の方向へと弾いた。
「――守ってくれたはずなんだ。」
俯き加減のかんばせをもたげ、
「それなのに…あんたは、止めてくれなかったじゃないか。」
ガメラが彼の顔を見た時、ゴジラは怒りで暗い目を細めていた。
「あんたが正しいというなら、なんで止めてくれなかったんだ。」
「……」
ガメラは目を見開く。
この目を、彼は知っている。
彼自身によって、目の前で大切な人を殺された少女のそれだ。
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