DEATHNOTE

□ある日の彼等
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夜神月は変態だ。





「ちょっと行ってくる」
「そんな荷物を持ってですか?」
「コインランドリーだよ。洗濯機がないから」

ここには、大きめのスーツケースに入りきる程度の荷物くらいしかない。
生活用品のいくつかは買い足したが、洗濯機ともなると幅もとる上に少々高額だ。

「けど、洗わないともう替えがないだろ?まさかずっと着とくわけにもいかないし」
「そうですね」
「ってわけで竜崎、脱げ」




だっ



がしっ



ばたんっ





「大人しくしろ!お前もうこれ何日着っぱなしだと思ってるんだ」
「別に汚れてません」
「嘘つけ!」

片や私の衣服を剥ぎとろうと、片やそれを許すまいと口角泡を飛ばしながらぎりぎりと拮抗を保つ。
夜神月の手が私のTシャツにかかれば、動かせない腕の代わりに足で蹴り飛ばす。
なんとか押し退けようと彼に向けて蹴りを放てば、足首を掴まれた挙句さらなる接近を許してしまう。

「くっ…」
「ははっ、捕まえた!」

ついに体にのしかかられ、唯一の抵抗武器すら封じられた。
今ほど、縛られた両腕を恨めしく思ったことはない。

「さぁ、観念するんだ竜崎」

夜神月が逆光にいるからか、私が彼を見上げる位置にいるからか。
暗くて見えない表情の中に爛々と光る両目が悪寒を誘う。
私の服にかかる手も震えていて、息も必要以上にあがっている。
これは。

「…きもいです月くん」

身の危険を感じて、鳥肌がたつ。

「怖い?ははっ大丈夫さ。妊夫さんに無理強いはしないよ」

今まさに無理強いされそうなんですが。

「ほら、力を抜いて…」

にやにや笑ってはぁはぁと息も荒くだらだらと鼻血を垂らす人間を目の前にして逆らうなと?
それは無理と言うものだ。
しかしすでに抵抗するすべを封じられた私にはどうすることも出来ず、あっさり衣服はすべて剥ぎとられてしまった。

「…下着もですか」
「ふふっ…当たり前じゃないか」

手に持って笑えという意味ではない。
そしていい加減その出血をどうにかしろ。

「寒いんですが」

夏でもないのに全裸は厳しい。
体を抱き締めようにも、赤い紐はいまだ両腕に結ばれたままで、それすら叶わない。
仕方なく布団にもぐってはいるが。

「竜崎、僕が何も考えていないとでも思ったのかい?大事な君が寒くないよう、替えの服を一着用意していたのさ!」

気色の悪いポーズにはあえて触れないでおけても、今の彼を見ていると、ひたすら何も考えていないような気がしてならない。
考えていたとして、他人に害をもたらす類の。

「はい、竜崎☆」

その予想は悲しくも的中した。

「…これを…私に着ろと」
「うん☆」


ひらひら風になびくレース。
柔らかい素材で作られた短いスカート。
胸元まで広くあいた襟。
オプションには猫耳のついたカチューシャに尻尾が生えた下着。
律儀にガーターまで揃えてくれている。

どこからどう見ても、ピンク色がまた痛々しい、メイド服だった。


「じゃ、竜崎。いってきまぁすvv」
「ちょっと待…」

ばたん。
無情にも目の前で閉められたドア。
残されたのは、抵抗むなしくメイド服を着せられた世界の切札。

このまま生き恥を選ぶか。
なんとかして脱ぐか。


「…因みに、僕が帰ってきたとき裸だったら、晩御飯は僕だから」

まだいたのか。
言いたいだけ言うと、今度こそドアを閉めてうるさい階段を降りていく。



おのれ夜神月…!!



惨めな自分を視界に映さぬよう、頭まで布団を被りながら、ぎりぎりと歯を噛み締めた。



End.

→どげざんげ


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